最終話「聖夜に二人は……をした」

 その後の事だった。


「マウさん、いい?」

 光がマウを見つめて言う。

「いいにゃ。でも痛くしないでにゃ」

「僕も初めてだからね、それは約束できない。ごめん」

「にゃあ~……」


「おい、何か変なふうに聞こえるぞ」

「政彦、黙ってなさい」

 奈美が窘めてきた。


 ここは俺の部屋である。

 部屋の中央ではマウと光が向い合って立っている。

 それを俺、奈美、ラッテ、兄ちゃんが見ていた。


「しかし本当にそんな事出来るのか?」

 兄ちゃんが首を傾げながら言った。

「出来るでしょ。だってたけぞうさんという先例があるじゃない」

 ラッテが期待の眼差しで二人を見つめていた。

「いや、そうだがな……」

「あ、始まるわよ」


「行くよ。ドーマンセーマンドーマンセーマン……」

 光が両手を合わせて呪文(?)を唱え始めた。


 それがしばらく続き……そして

「……はあっ!」

 光の掌から白い霧のようなものが放たれ、それがマウを包み込んだ。


「にゃあああーーー!?」

 

「マウ!?」

「政彦、大丈夫。信じましょ」

 俺は思わず飛び出しそうになったが、奈美が腕を掴んで抑えてくれた。


 やがてそれが消えると、そこには。


「にゃ? ……あ!」

「あ……」

 そこにはショートボブの黒髪で目がくりっと可愛らしく、少女、マウがいた。


「上手くいったようだね……ふう」

 光がホッとした表情になった。


「や、やったにゃ! 人間になれたにゃあーーー!」

 マウがその場で飛び跳ねて喜んでいる。

「……マウ!」

 俺はマウの側に駆け寄り、彼女を抱きしめた。

「にゃあ~!」

「マウー!」

 俺もマウも泣いていた。


「……あ~あ、これで本当に終わっちゃった」

 奈美は涙を流しながら、でも笑みを浮かべながらそう言ってくれた。

「よかったわね、二人共……さて、次は私よ」

 ラッテが光に近づいた。

「ちょっと待ってよ。少し休憩させて」

「そうだぞ。もう確実にできるとわかったんだ。慌てる事ないだろ」

 光と兄ちゃんが続けて言った。

「ええ、そうね」


 マウが異世界でパーティのリーダーから聞いた事、それは「光に頼めば人間になれる。そうすれば子供もできるようになる」という事だった。

 

 かつてたけさんを人間にしたのは高名な陰陽師だったらしい。

 陰陽師ってのは狐を使役する、って話もある。

 だから妖狐一族の血を引いている者なら同じような事ができると、たけさんが光に教えたそうだ。


 ところで何でたけさんはマウを人間にと思ったのか、後で聞いてみたら

「すまんのう。何故なのかは言えんが、わしは事情を知っとったからじゃ。だからマウちゃんが消えた時は本当に焦った……でも戻ってきてくれてよかったわい」

 という事だった。

 言えないってのが気になるが、それは追求しないでおこう。


「ご先祖様から聞いた時は半信半疑だったけど、出来るもんだね。でもさ」

「ん? どうしたの?」

「いや、ラッテさんは別に人間、てか地球人にならなくてもいいんじゃないの?」

「ううん、私のもう心は地球人。だから体もそうなりたいの」

「うーん、後悔しない?」

「しないわよ。だって」

 ラッテは兄ちゃんの方を見て頬を赤らめた。

「はいはい。それじゃそろそろ始めますよ」

「ええ、お願いします」

 そしてラッテも地球人になった。




 その後……

 ラッテは父さんの助手、兄ちゃんは教師をする傍ら妖魔退治をしていた。

 二人は既に籍を入れ、兄ちゃんの実家近くのマンションに一緒に住んでいる。

 結婚式はしないの? と兄ちゃん聞いたら

「もう少し金を貯めたらな」

 なるほどね。兄ちゃん家って金持ちだけど、自分で稼いだ金で……あれ?

「兄ちゃん、妖魔退治って国からの依頼もあるんだろ? 報酬とかないの?」

「報酬は殆どあちこちに寄付してるんだよ。これは先祖代々の決まり事。でもちょっとだけ、と悩んでる」

「使えばいいじゃん。その方が今まで助けた人達も喜ぶだろし、御初代様だって文句は言わないと思うよ」

「……そうだな、そうするか」



 そして奈美と光が何かいい感じになった。

 曰く俺にフラれた者同士で慰めあっていたら、って。

「何かホッとするのよね、光の側にいると」

「僕も。もっと早く気付けばよかった」

 うん、二人共ずっと仲良くな。



 ああ、いつだったか前に聞いた通り、俺とマウは異世界に迷い込んで若き日の彦右衛門様やたけさん、子孫のセリス、そしてその世界の英雄王とも出会った。

 あの時はマウが何故か妖怪に戻っていたが?

「あそこには不思議な力が溢れていたにゃ。だから一時的に戻ったんだにゃ」

 よくわからんが、まあそんな事もあるんだと思っとこう。



 そして一年が過ぎて……。



 クリスマス・イブの夜。


「凄えな、本当に」

 俺とマウはとある自然公園の中を歩いていた。

 木に飾られたイルミネーションがキラキラと輝き、とても綺麗だった。


「ふにゃ~、こんなに綺麗なもの、千年前ももっと前もなかったにゃ」

「そうだな……」


「にゃあ、政彦」

「何だよ、マウ?」

「もう祝言あげれるけど、いつにするにゃ?」

「俺が高校を卒業してからな」

「う~ん、わかったにゃ。じゃあ今夜は性夜を楽しもうにゃ」

「字が違うぞおい」

「どーせするんだから一緒だにゃ~」

「……う~ん、やっぱ結婚まで待って」

「そう、残念だにゃ……じゃあせめて」

 マウはそう言って目を瞑り、唇を突き出す。

 俺はそっとマウを抱き寄せ、その唇に自分の唇を重ねた。


 

 カーン……

 カーン……



 何処からか鐘の音が聞こえてきた。

 まるで俺達を祝福してくれるかのように。




「……にゃあ~! やっぱ我慢出来ないにゃあ! 政彦、(ズキューン!)しよにゃー!」

「アホかー! って俺の服を脱がそうとするなー!」

「あ、見られながらじゃ駄目かにゃ? じゃあホテルで……ジュル」

「待たんかゴラー!」

 



 と、まあこんな感じだが、政彦やマウ達の物語は一旦終わり。

 

 彼等はドタバタしながらも後に結婚し、たくさんの子供を授かり、やがてその子孫は……それは別の物語で。



 終

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