番外編「マウの異世界道中記 その4」
マウは今日も一人、異世界を旅していた。
「皆怒ってるかにゃあ……でも、あたしがいたら政彦は、そして未来は」
マウの目には涙が浮かんでいた。
そして、どのくらい歩いたかという時。
「ふにゃ? あれなんだにゃ?」
見ると道のど真ん中に人が倒れていた。
近づいて抱き起こしてみると、灰色の短めの髪で、容姿は小学校低学年位の少年だった。
「にゃあ? また可愛らしい少年だにゃあ。ジュル」
マウは取って食う気満々だった。
「う、うう」
少年は目を覚ました。
「あ、気がついたにゃ」
「……み、水くれにゃ~」
少年は何故かマウみたいな口調だった。
「ふにゃ? えと、はいにゃ」
少年はマウがどっからか出した水筒を受け取ると、一気に水を飲み干した。
「ふう。お姉ちゃん、ありがとにゃあ」
少年は水筒を返しながら礼を言った。
「にゃあ~……あら? あなたって元は幼くして死んじゃった猫なのね。うーん、何かの力で人間に転生したのかしら?」
マウはバステトの力で少年の正体を見た。
てかそんな事出来るなら前回もやっとけ。
「そんなのわかんないにゃあ。僕、何故か人間になってここにいたにゃ」
少年が首を傾げながら言う。
「そうよね。しかし転生させた奴もちゃんと説明するなり面倒見るなりしなさいよねえ」
マウは何処の誰だかわからない相手に悪態をついた。
ってそんな事出来るのは神だろうが、マウも女神だし遠慮はしない。
「にゃあ~、僕お家に帰りたいにゃあ~。でも何処だかわかんないにゃあ」
少年がそんな事を言うが
「うーん、あなたどうやら他の世界から来たようだけど、何処かまでは私にも……」
「にゃあにゃあ~!」
少年は大声で泣きだした。
「……とりあえずあたしと一緒に旅するかにゃ?」
「にゃ? そしたらお家帰れるの?」
マウはどう言うべきか、と思った。
たとえ帰ったとしても彼はもう死んだ身、それにその姿では……だが。
「うん、帰れるにゃ。だから泣かないの」
マウは少年の頭を撫で、心の中で謝罪しつつ肯定した。
全てを理解するには彼は幼すぎると思ったら。
「わかったにゃ。じゃ行こ、お姉ちゃん」
少年は泣き止み、マウの手を握って微笑んだ。
「うん。そうだ、あんた何て名前だにゃ?」
「名前? ないにゃあ」
彼はどうやら名付けられる前に死んだようだった。
「ふにゃ、そうだったのかにゃ……うん、あたしがつけたげるにゃ。えーと」
少し考え、そして
「うーん。ユウ、ってどうかにゃ?」
「ユウ? ……うん、僕はユウにゃ!」
少年、ユウはぴょんぴょん飛び跳ね、嬉しそうに自分の名前を口にした。
……「ユウ」って前世の政彦の名前なのよね。
――――――
約千年前
「マウ。本当に封印してもらうのか? 俺達みたいに輪廻転生、じゃダメなのか?」
前世の政彦、
「ええ。私の寿命は人間のそれより長いの。おそらく千年以上は生きられるわ。でもその頃には年老いて今の力が無くなってるわ。それでは真の姿にもなれないと思う。だから今のまま封印してもらうの」
「なあ、本当にどうにもならないのか?」
「……私がこの数十年の間に死ねたら同じ様に転生できるけど、自然死じゃないとダメ。自害でも誰かに頼んででも転生できないわ」
「そうか……くそ。完全に奴を倒せていたら」
悠は悔しそうに項垂れていたが
「あ、そうだ! 俺も一緒に封印してもらえばいいんだ!」
名案が浮かんだ、と思って叫んだ時。
「悠殿、残念ながらそれは無理です」
二人の近くにいた者、弘法大師空海が話に入って来た。
「え、何故ですか!?」
「この封印は人間の場合、寿命が減らないだけで体は年老いてしまいます。それでは意味がないでしょう」
「そ、そんな!? どうにかできませんか!? あ、弘法大師様みたいに」
「私のようにですか? ふむ、この体を創った術は他人にかけた場合長く持ちません。仮に悠殿自身が術を習得し、それを使ったとしても千年どころか十年も持たないでしょう」
「……そうですか。それも意味がないですね」
弘法大師空海は入定後、自身の「神力」を使って創った仮初めの体に入り、この世に留まっていた。
悠では十年も持たないと言うその術で弘法大師自身は既に二百年近く、後に千年以上もの間それを維持している。
弘法大師の力が如何に強大なものなのか、凡人の身である語り手の私には想像もつかない。
「悠。これは永遠の別れじゃない。千年経ったら会えるのよ」
マウはそう言いながらも泣きたいのを堪えているのがわかる。
「……わかったよ。千年経ったら、俺が必ずお前の封印を解いてやるからな」
「ええ……待ってるわ」
「……その封印はマウ殿いやバステト様の場合、若さと力を維持する代償に、生殖能力が……そのような事は関係ないと言いたいが、悠殿はおそらく自身の一族に生まれ変わる。そしてその子孫が全てを……こればかりはどうする事も出来ません」
弘法大師は二人から離れ、小声で詫びるように呟いた。
そしてマウは封印され、千年もの間竹筒の中で眠っていた。
その際に記憶も消えたのは想定外だったようだが。
――――――
「にゃあ……」
マウは目を潤ませながら昔を思い出していた。
「お姉ちゃん、どっか痛いのかにゃあ?」
ユウが心配そうにマウの顔を覗き込む。
「にゃ? ううん、なんともないにゃ」
「よかったにゃあ。お姉ちゃんが病気になっちゃったら僕、悲しいもんにゃ」
「ふにゃ~。ありがとにゃ」
マウはユウを抱きあげ、頬ずりしながら礼を言った。
「さ、この近くに町があると思うから、日が暮れる前に行くにゃ」
マウはユウの手を引いて歩いて行った。
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