番外編「マウの異世界道中記 その5」

 町に着いたマウとユウは宿屋を見つけて落ち着いた。

 ちなみに金はあの長ったらしい名前の魔王から奪い取っていた。


「さてにゃ、ご飯も食べたしお風呂入って寝るにゃ」

 するとユウが首を傾げた。

「お風呂ってなんだにゃ?」

「え? えーと、体洗ってお湯に浸かる所だにゃ」

「にゃ!? 僕濡れるのは嫌にゃ~!」

 やはり中身は猫だからか、ユウは慌てて逃げ出そうとした。

 だがマウに首根っこを掴まれる。


「ユウは今は人間だから、ちゃんと綺麗にするにゃ」

「プギャー! ならお姉ちゃんが舐めて綺麗にしてにゃ~!」

「う……ってダメだにゃ。さ、行くにゃ」

 マウは嫌がるユウを連れて風呂場へと向かった。


 その後、

「最初は嫌だったけど気持ちよかったにゃあ」

 ユウは風呂が気に入ったようだった。


「よかったにゃ。さ、寝るにゃ」

「うん。ねえお姉ちゃん、一緒に寝ていいにゃ?」

「いいにゃ。じゃあおやすみにゃ」

 ユウはベッドの中でマウに抱きつくと、すぐに眠りについた。

 

「にゃあ~。もしあたしに子供がいたらこんな感じかにゃあ?」

 マウはユウの寝顔を見ながら呟く。

「うん、いい夢見るだにゃ」

 そしてマウも眠りについた。


 その後もマウとユウは旅を続けた。

 二人でじゃれあったり、楽しく話をしたり。


 いつしか本当の姉弟、いや親子のように仲良くなっていた。


 


 だが、ある日の事。

「うう……熱いよ」

「ユウ、しっかりするにゃ!」

 ユウが高熱を出して倒れてしまった。


「にゃあ、よし……はあっ!」

 マウが女神の力をユウに送る。

 するといくらか回復したのか、表情を和らげて眠りについた。

 だが


「ふにゃ? まだ完全に回復してないって、もしかして不治の病? そんなのはあたしじゃ治せな……ううん、絶対に治してあげるにゃ!」


 マウはその日からずっと徹夜でユウを看病し続けたが、やがて疲れが溜まり、気を失うように眠ってしまった。


――――――


「ふにゃ? ここどこだにゃ?」

 そこは何もなく、ただ真っ白な場所だった。


「にゃあ~……もしかして」

「そのもしかしてじゃ。バステト殿」

 マウの目の前に現れ、彼女を「バステト」と呼んだのは白髪で仙人風の老人だった。


「あ、やはりあの世とこの世の境目の番人である眷属様。いえ、じく」

「それは言うでない。眷属でええわい」

 老人、神の眷属はマウの言葉を遮った。

「そうですか。じゃあ私もマウで」

「うむ。ではマウ殿、あの子を保護してくれてありがとうな」

 眷属が頭を下げて礼を言う。

「え? あ、もしかしてユウを人間に転生させたのは」

「儂じゃよ。すまんのう、人間にしたのはいいがボケて送り先を間違えての」

「……もう引退したらどうですか?」

 マウはジト目で老人に言う。

「そう言わんでくれ。でな、戻そうとしたのじゃが、その世界は儂ですら入り込めんのじゃよ。こうして夢の中で話すくらいしか出来ん」

「そうですか。じゃあ出るにはやはり大魔王を倒すしかないのですね」

「ああ。と、それは横に置いての、あの子の事じゃが」

「そ、そうだわ。ユウが重い病に」

「慌てるな。ありゃ疲れから来た風邪をこじらせたもの、命に別条はないわい。そうじゃな、もう数日栄養をつけて安静にしてれば治るじゃろて」

「そ、そうなんですか? ……よかった」

 マウは胸を撫で下ろしてほっとした。


「よほど慌てておったのじゃな。普段のマウ殿なら気づけるはずじゃのに」

「え、ええ。ユウにもしもの事があったらと思ったら」

「ふむ。彼は本来とある女性の元に送って、その心を癒やしてもらうつもりだったが……これでよかったかものう」


「ええ。ユウがいてくれたおかげで、どれだけ癒やされたか。これでこれからも一緒に旅が」


「いや、このまま共に旅を続けたら危険じゃぞ」

「え、どうして?」

「あの子は普通の少年じゃ。特別な力などない身ではもし敵に襲われでもしたら?」

「……そうですね。でも」

 マウは暗い表情で項垂れる。


「気持ちはわかるつもりじゃぞい。だがのう、ここは一時的と思うて堪え、何処かに預けて行ってくれんかの?」

「……わかりました。でも何処に? あの子って可愛らしいから誰かに襲われたり売られたりでもしたら」


「うむ、それなら大丈夫じゃ。あの子が回復したらこの村へ行きなされ」

 そう言って番人はマウに印のついた地図を渡した。

「ここへ? 何故?」

「そこで待っておれば、いずれ勇者がマウ殿や他の仲間を探しに来るはずじゃ」

「え?」

「儂の弟子が勇者を見つけてな。数日のうちにそちらに送り込む予定じゃよ。彼がまだ完全覚醒していない今なら結界をすり抜けれるはずじゃからな」


「では伝説にあるという八人の戦士も?」

「ああ。既に全員その世界にいるぞい。というかそのうちの一人はマウ殿、あなたじゃ」

 眷族はマウを指さしながら言う。

「え? 私が……では他の七人とは?」

「偶然じゃが一人は既に出会っておる。まあ彼は最終決戦までは出てこれんじゃろうがの」

「え? あ、まさかミッチー?」

「そうじゃ。彼には苦労ばかりかけて申し訳ないと思うが、これが終わったら精一杯報いるつもりじゃ。無論マウ殿にもの」

「……私は」

 すると眷族が笑みを浮かべて

「あまり言えんのじゃが少しだけの。勇者はマウ殿に希望をくれるのじゃ」


「え? それは」

「まあ、会えばわかるじゃろて」

「そうですか……わかったにゃ。勇者と一緒に大魔王を倒して、またユウと会うにゃ」

 

「ふむ。ではマウ殿、幸運を祈るぞい」


――――――


 目が覚め、ユウの容態を見るとすっかり熱はひいていた。

「よかった。もう大丈夫のようだにゃ」


 そして数日後、マウはユウと共に眷属に教えてもらった村へと旅立っていった。

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