番外編「石見一家の異世界奮戦記 1」
目を開けると、辺り一面真っ白だった。
空からはチラチラと雪が降って来る。
俺達家族は母さんの実家へと向かっているところだった。
しかし聞いてたよりも寒い。
もう春だというのに。
くっそ、もう少し厚着してこればよかった。
「っと、ここが母さんの生まれ故郷なの?」
俺は母さんに尋ねた。
「そうよ。わたしはこの世界、エレメント聖王国の王女だったのよ」
そう、ここって異世界なんだよな。
「て言うかさ、母さんは本当に異世界の王女だったんだ」
「昔からそう言ってたじゃないの、もう」
母さんが呆れながらそう言うが
「そんな話子供の頃ならともかく、この歳になってはいそうですか、と……いや、今なら信じられるな」
なんせマウも俺も異世界へ行ったことあるし。
「にゃあ~、こたつで丸くなりたいにゃあ~」
「寒いにゃ~」
マウとユウも震えていた。
そうそう、ユウはうちの養子になり、俺の弟になった。
今は「
最初はマウの弟として戸籍を作ってもらおうとしたら、本人が嫌がった。
曰く、マウはいずれ結婚して苗字が変わっちゃう。
それは嫌だ、自分もずっとマウと同じがいいって。
それを聞いた父さんが「それなら自分達の養子にならないか?」と言ったら、ユウは「パパとママが出来た」と喜んで了承した。
しかしいきなり弟が二人も出来るなんてな。
ユウはともかく、俺に双子の弟がいたなんて。
「ねえ母さん、今までずっとここに帰ってなかったんでしょ? 何でまた帰ろうと思ったの?」
その弟、道彦が母さんに尋ねる。
双子だから当然同い年で、十八歳。
道彦は生まれる前に妖魔王とかいう、天界を消そうと企てたとんでもない奴に攫われたそうだ。
なんでも道彦を忠実な部下として育てようと思っての事だったらしいが、道彦の話を聞いてると妖魔王がそんなに悪い奴だと感じられなかった。
マウもその妖魔王の事を知っていて聞くと、元々は明るく優しい女性だったそうだが、最高神様という一番偉い神様に愛する人を消されたので闇堕ちした、って具合だったらしい。
そして妖魔王は向こうの英雄と戦い、最後は和解したそうだ。
それで道彦は妖魔王の手で俺達の元に戻されたはずだったが……別の異世界へ行って、マウや他の仲間達と一緒に大魔王を倒した後、うちに戻ってきたのが去年の事。
道彦は最初に戻る途中、何故かその異世界から妖魔王の声が聞こえたらしい。
そしてなんとなくだけど妖魔王、いや「育ての母親」がそこに囚われているような気がしたんで、助けに行こうとした。
ただその世界に入ったせいか肝心のその記憶が飛んだらしく、戻ったのは大魔王が倒れた後だったって。
父さんも母さんも道彦の事は全然話してくれなかった。
言うのが辛かったが、いつかは俺に話すつもりだったらしい。
でも、その前に戻ってきた。
二人があんなに泣いてるの、見た事なかったよ。
お互い最初は余所余所しい所があったが、今はもうすっかり慣れた。
ああ、道彦が以前マウに手や口でされたとか言いやがったので、本気でぶっ殺そうとしたらやたら強くて、最後はお互いズタボロになって引き分けた。
それを見ていた信一兄ちゃんが「二人共デタラメ過ぎるぞ」と震えていた。
まあ、裏山が吹き飛んでたもんなあ。
それは後で彦右衛門様が戻してくれた、説教付きで。
「わたしの兄様、あなた達の伯父様がね、今回はどうしても帰って来てくれって手紙を送ってきたのよ。それと家族も連れて来てくれって」
あ、長い事以前を思い出してたつもりだったが、そんなに時間経ってなかった。
「へえ、何の用だろね?」
「さあねえ。普段なら気が向いたら帰って来いだったのに」
「いつでも帰れるなら、何で帰らないの?」
「わたし達って駆け落ちしたのよ。兄様は賛成してくれたけど、父様と母様が猛反対してね、帰りづらいのよ」
「そうなの?」
俺は父さんに尋ねた。
「ああ。もし義兄さんも反対していたら、俺は死んでいたかもな」
「……もしかして、伯父さんって父さんより強いの?」
「内に秘めた気が途轍もなく強いのだけは分かったが、どうだろうな?」
マジですか。
「お祖父さんとお祖母さんも歳だろうし、寂しくなったんじゃないの?」
「そうかしら?」
「あれ? 皆、あっちから煙が出てるにゃ~」
ユウが遠くを指さしながら言う。
「え、あれってもしかして、火事じゃ?」
「あっちはお城の方……皆、わたしの側に寄って! 転移魔法で一気に行くわ!」
俺達は母さんの魔法であっという間にワープした。
こんな時になんだが、母さんが魔法使えるのは知ってたが、ワープもできたんだ。
城下町に着くと家等が焼け崩れ、人々が焼け出されていた。
倒れている人、瓦礫の下敷きになっている人もいた。
「う、う」
「大丈夫ですか!? いったい何があったのです!?」
道彦が近くに倒れてた兵士さんに尋ねる。
「正体不明の、異形の軍勢が攻め込んで、う」
「!?」
兵士さんが何も言わなくなったので、まさかと思ったら
「大丈夫、気を失っただけだよ」
道彦が安堵の表情を浮かべた。
その時、城の方から大勢の兵士が駆けて来た。
「どうやら救助に来たようね。知ってる人もいるわ」
そう言って母さんがリーダーらしき年配の男性に挨拶すると、全員が一斉に敬礼した。
そして全員救助活動の為に散らばっていった。
「さ、ユウカ様と皆様はお城の方へ。陛下がお待ちですよ」
男性が母さんを促すが
「いいえ、わたし達もここを手伝うわよ。城へはその後でね」
母さんがそう言った。勿論異論など無い。
「ははは。そう仰ると思いましたが、一応は言わないと陛下に叱られますからな」
「流石ね。それと改めて久しぶりね、近衛将軍さん」
うお、結構偉い人なんだな。
「ええ、お久しぶりです。あれからもう二十年になりますが、お変りなくお美しいですな」
「わたしは十七歳。二十年前じゃまだ生まれてないわよ?」
母さんがそう言って首を傾げるが
「「息子より年下の母親がいるかー!」」
俺と道彦が揃って叫び、将軍さんは苦笑いしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます