番外編「岡崎三郎」
天正十年(1582年)六月二日未明
京・本能寺にて
歴史上では
燃え盛る本能寺の中では、ある戦いがあった。
世界の命運をかけた一戦が。
「な、何を躊躇っておる! 早くせぬか!」
胸を押さえ、苦しそうに立っていた信長が目の前にいる者達にそう叫ぶ。
「し、しかしそれでは上様までも」
その中の一人、甲冑姿の壮年の男が言う。
「か、構わぬ! 儂ごと此奴を、大妖魔を討て!」
信長がまた苦しそうに叫ぶ。
「う、うう」
壮年の男が戸惑っていると
「……御免!」
その後ろから現れた二十代位の武者が、手にしていた刀で信長の胸を突き刺した。
「ぐふっ! ……よくやった。礼を言うぞ……す」
信長は満足そうな笑みを浮かべ、倒れた。
「いえ……お救いできず申し訳ありません」
その武者、三郎が目に涙を浮かべながら言ったその時
ギャアアアア……
信長の体から黒い霧のようなものが吹き出したが、すぐに炎の中に消え去った。
それは大妖魔の成れの果てだった。
織田信長は戦国の世に現れた大妖魔を倒す為、ありとあらゆる手を尽くしていた。
妖魔に立ち向かえる者達を探し出し、先程の武者、三郎の元に集め、そして……と思っていた矢先に彼自身が大妖魔に取り憑かれた。
そして大妖魔は「第六天魔王」として日ノ本を、そして世界中を焼き尽くさんとしていたが、それは三郎達の手によって防がれた。
「わかってはいても、最後まで望みを捨てたくはなかった」
信長の亡骸を見つめながらそう言ったのは先程の壮年の男性。
「……日向守様。あなたはこれからどうされるおつもりですか?」
三郎が「日向守」と呼んだ彼、明智光秀に尋ねる。
「私は次の天下人の礎になろう」
光秀には自分が後釜に座る気がないようだ。
光秀は信長から「もし儂が妖魔に憑かれた時は遠慮はいらぬ、討て。そして後は頼む」と命じられていた。
それが「本能寺の変」である。
「次、とはどなたですか?」
「それはわからん。だができれば
「日向守様、私は『岡崎三郎』です。もう昔は捨てました」
三郎は首を横に振り、光秀の言葉を遮る。
「……本当にそれでいいのか?」
「ええ、大妖魔を倒してもまだ妖魔はいます。私はこれからもそれらと戦い続けるつもりです」
「そうか。では私もいずれ死んだ後、何かの形で助力しよう」
「はい、ありがとうございます」
その後明智光秀は
だが光秀は逃げ延び、後にとある場所で病に倒れていた僧「
そこで光秀は天海にこう言われた。
「私はもう長くない。私が死んだ後はあなたが『天海』となってはくださらぬか?」
「え、何故?」
「その方があなたも都合がいいのでは?」
天海はみなまで言うな、全てわかっているという目をしていた。
「……かたじけのうございます」
天海がこの世を去った後、光秀が世に知られている「
そして三郎は
「でりゃあああ!」
刀を振り下ろすと、そこにあった黒い影が消え去った。
「ふう。大合戦で妖魔の力も膨れ上がっていたが、なんとかなったな」
三郎はとある場所を見つめ、刀を収めながら呟く。
目線の先にあったのは先程まで合戦が行われていた場所、関ヶ原であった。
「これで徳川の天下か……しかし何の偶然か私の『命日』に、かあ」
三郎はしばらくその場でかつて捨てたと言った遠い昔を思い出していた。
その後も三郎は妖魔と戦い続け、やがて生まれ故郷に近い場所でその生涯を閉じた。
――――――
現代
「なあ兄ちゃん、岡崎家の初代、三郎様ってもしかして」
政彦が父の従弟で彼の担任でもある岡崎信一に尋ねる。
「お察しのとおり、だよ」
信一はニヤけ顔になっていた。
「マジかよ、おい……なあ兄ちゃん」
「何だ?」
「三郎様はたとえ世の中に知られてなくても、世界を守ってくれた英雄だよな」
「そうだな……」
信一は目を閉じて頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます