番外編「石見一家の異世界奮戦記 2」

 その後、怪我人達を兵士さん達と俺達でお城の中に運び込んだ。

 死者は今のところいないらしいが、重傷者が多く一刻を争う人もいるらしい。

 今は母さんが魔法をかけて、マウとユウが手当を、父さんや俺達はその手伝いをしている。


「妖怪のままだったら、あっという間に皆を治せたんだけどにゃあ」

 そう言いながらテキパキと手当てを繰り返す。


「あ、これ……お姉ちゃん、ママは?」

 ユウが何かを手にしてマウに尋ねる。


「え? あっちだにゃ」

 重傷者を治療している母さんがいた。

 するとユウはそっちへ走って行き


「ママ~、ちょっと手伝ってにゃ~」

 母さんの手を引きながら言う。

「ごめんなさい。今手が放せないのよ」

「うん。だからこれとこの薬と回復魔法を合わせれば、もっと楽になるにゃ」

「え?」


 そして、ユウの言うとおりに調合した薬を使って治療していくと


「げ!?」

「にゃああ!?」


 なんと息も絶え絶えだった人達があっという間に生気を取り戻した。

 おまけに傷口、いや火傷や骨折も、聞けば内臓破裂までもが治った。

 なんちゅう薬だよ、それ!?


「凄いわ! これって伝説の薬と同じ効果よ!」

「よかったにゃ~」

 母さんはユウを抱き締め、うりうりと頬ずりしていた。



 ……そういやユウは将来医者になりたいって言ってたな。

 あんな薬作れるなら、どんな難病でも治せそうだな。

 

 皆を元気にして、その笑顔を見て喜んでいるユウが目に浮かぶ。


 あ、やべ。想像したら涙が出てきた。


「政彦、たぶんあたしと同じ事考えてたにゃ?」

「え? あ、うん」

 マウもその目に涙を浮かべていた。


「将来子供が出来たら、また今みたいに思えるんだろうにゃあ」

「そうだな。そして遠い未来では、あの子がな」



「ありがとう。おかげで死者が出ずに済んだよ」

 そう言うのはやや長い黒髪で穏やかな目つき、口髭を生やしていて、背は俺や父さん、道彦より少し高く、白い軍服を着た男性。

 それは


「兄様。無事だったのね」

「ああ。久しぶりだな、ユウカ」

「ええ。ところで何があったの?」

「ん、その前に皆に自己紹介させてくれ。私はこのエレメント聖王国の王でユウカの兄、ハクジュだ」

 伯父さんが俺達に話しかけてきた。


「あ、はい。俺は石見政彦です」

「初めまして、石見道彦です」

「あたしはマウ。この子はユウだにゃ」


「政彦と道彦はわたし達の息子。マウちゃんは政彦の婚約者、ユウは養子よ」

 母さんが補足すると


「そうか。こんな時でなければゆっくり話したかったが」

 伯父さんが項垂れた。


「あの、正体不明の敵が攻めて来たとか聞きましたけど」

 俺が尋ねる。

 

「そうなんだ。そして娘のイマが、その敵に攫われたのだ」

「え? 娘さんて事は俺達の従姉妹で、王女様?」


「ええそうです。私達の一人娘よ」

 茶色っぽくて長い髪、背は母さんと殆ど同じ位で、見た感じ二十代位で、やっぱ軍服を着た女性が話しかけてきた。

 

「サエも無事だったのね」

「ええ。久しぶりね、ユウカ」

「あなたと兄様が結婚して、イマちゃんが生まれた時以来よね」

 二人が懐かしそうに話していた。


「えと、俺達の伯母さん?」

「そうよ。そしてユウカの親友でもあるわ」

 叔母さんがこっちを見て言った。


「母さんの親友ですか。なるほど」

 道彦が何か納得したかのように頷いた。

 ああ、この人も見た目結構若いからな。


「ところで、敵は何か要求して来たんですか?」

 道彦が尋ねると


「いいや。今のところは何も」

 伯父さんが首を横に振る。


「正体不明という事でしたが、どんな姿かも分からないのですか?」

「全身が銀色の軍勢だったが、見た事もない武器や術を使っていた」


「ねえ、兄様でも敵わなかったの? 破邪の力は通じなかったの?」

 今度は母さんが尋ねた。


「大軍で空と陸からの同時攻撃をされたので、追い払うのが精一杯だったよ。あと奴らは妖魔ではないようで、破邪の力は効かなかった」

 叔父さんがそう答える。


「そうなのね。それとそいつらは何処から来たの?」

「分からん。もしかすると異世界から来たのかもな。今は気を感じ取れないし」


「なあ、マウは分かるか?」

 俺がマウに尋ねると

「あたしは今は人間。ちょっとは気を感じる事が出来るけど、ダメだにゃ」

 そう言って首を横に振る。


「そうだ。守護神様に聞いてみては? この世界にも居るはずでしょ?」

 道彦がそんな事を言うが


「既に祈ってみたが反応が無いのだよ。聞こえているはずなのだが」

「何故でしょうね? あ、まさか今日は休日とか?」

 おい、神様に休日って


「休日はまだ先なんだがなあ」


「本当にあるんかい!?」

 俺が思わず叫ぶと


「あるわよ。月の中頃になると神託で翌月の休日予定を教えてくれるのよ。基本その日は祈りを捧げるのも禁止なのよ」

 母さんが説明してくれた。

 

「……そりゃ神様だって休みたいだろけど、今は非常事態だって分かるだろ?」

「ええ。だから反応が無いというのはおかしいわね」



「そうだにゃ。王女様が身につけてたもの、なんか無いかにゃ?」

 マウが何か思いついたようだ。


「え? 部屋に行けばあるだろうが、それで何をする気だね?」

 伯父さんが首を傾げながら言う。


「探し人を見つける術だにゃ。これは自然界の力を利用するものだから、今のあたしでも出来るにゃ」


「へえ、それで身に付けてるものって、アクセサリーか」

 俺がマウに聞くと

「それでもいいけど、出来れば下着がいいにゃあ……ジュル」


 ゴン!


「冗談なのに酷いにゃー!」

 マウが頭を押さえながら言うが、冗談で涎垂らすなー!


「ま、まあとにかく案内しよう」

 俺達は伯父さんに連れられて、イマさんの部屋へと向かった。

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