番外編「マウの異世界道中記 その2」
「ど、どういう事にゃ!? 政彦に弟がいるなんて知らなかったにゃ!」
マウは驚きのあまり口調が猫女のそれに戻っていた。
「知ってるわけないじゃん。だって両親ですら知らないんだから」
「ふにゃ?」
「僕はね、母さんの胎内にいた時に妖魔王に攫われたんだよ」
「え? 妖魔王?」
「うん。どうやら強大な力を持った僕を子供の頃から育て、忠実な部下にしようとしたみたいだね」
「待つにゃ。妖魔王ってたしか三千年以上前に倒されたはずだにゃ?」
マウが首を傾げながら言うと
「そうだよ。その妖魔王が倒された時に知ったけどさ、僕は過去の時代に連れ去られてたんだよ」
「そうだったのかにゃ」
「うん。そして妖魔王は最後に『勝手に連れてきてごめんなさい』と言って、僕を元の世界に戻してくれた、はずだったんだけど」
「座標が狂ったのか、この世界に辿り着いちゃったのかにゃ?」
「そうだよ。幸い時系列は合ってたけどね」
「にゃあ、でも何で元の世界に戻らないんだにゃ?」
「あのねえ、時空転移術って誰でも使えるわけじゃないだろ」
「あ、そうだったにゃ」
「まったくもう……たとえ使えたとしても無理だけどね」
「え、なんでだにゃ?」
「この世界には強力な結界が張られていてね、他から入ることもこっちから出ることも出来ないんだ」
「でもあたしは入ってこれたにゃ?」
「それはたぶんあなたが女神だからじゃないかな?」
魔王もよくわからないようだった。
「まあ、とりあえず結界をなんとかした後、転移術が使える人を探せばいいかと思って結界を張った奴、大魔王を倒そうとしたんだけど、返り討ちにあったよ」
魔王は項垂れながら言った。
「にゃ? じゃあもしかしてその顔は」
「そうだよ、その時の傷。これ呪いもあるのか、全然癒えないんだよ」
「にゃあ……」
「その後僕は大魔王の軍門に下ったフリをし、魔王として支配地を広げ、せめてそこにいる人達だけでも守ろうとしたんだよ」
「にゃあ。それならそう言えばいい恋人が見つかったかも」
「言ったけど信じてもらえなかったよ。さっきも言ったけど、この顔もあってね。政彦にはあなたのようないい人がいるのに、僕には……と思って少しヤケになっちゃってたよ。でもあなたがここに来てくれたんで頭が冷えたよ、ありがと」
魔王は頭を下げた。
「にゃあ。ところでどうしてあたし達の事が?」
「それはね、どういう訳か知らないけどさ、この世界に来た時から元の世界の事だけは見えるようになったんだ」
ここから見ていたよ。
しっかし宇宙からの侵略者と戦ってたって……
僕もあっちで戦いたかったよ。
「そうだったのかにゃ。で、あんたこれからどうするんだにゃ?」
「どうするって、どうしようもないよ」
「うーん、ならあたしが大魔王をやっつけてやるにゃ。そうすれば結界も消えて、呪いも解けるはずだにゃ」
「無理だよ。あれはたとえあなたでも……いや待てよ」
「どうかしたかにゃ?」
「あのね、この世界には伝説があるんだ。『この世が闇に覆われし時、異なる世界より勇者と八人の戦士がやって来てそれを打ち祓うであろう』ってのが」
「ふにゃ? なんかRPGみたいだにゃ~」
「そうだね。でさ、もうすぐその勇者が来ると思う」
「え、そんな事わかるのかにゃ?」
「なんとなくだけどね。だからマウさん、その勇者を見つけて手助けしてあげて。僕は立場上表立っては無理だけど、影ながら応援するよ」
「わかったにゃ~。あ、そうだ。一つお願いがあるんだけどにゃあ」
「何? 僕にできる事ならなんでもするよ」
「ほんとに? じゃあ~、ジュル」
「え、な!?」
マウはいつの間にかすっぽんぽんになっていた。
そして
「にゃあああー!」
「うわあー!」
……
「うう……」
魔王はすっぽんぽんになって倒れていた。
「にゃあ、ソレも政彦そっくりだにゃあ♡」
マウはジロジロと見ていた。
「ね、ねえ。手と口だけ? 政彦には悪いけど、ここまで来たら最後までさせてよ、ねえ?」
こやつは兄と違い自分に正直な奴のようだった。
「それはいつか現れる彼女さんとしてくれにゃ」
「う、うん(なら襲わないでよ)」
……まあ、その後
マウは勇者を探す旅に出る事にした。
「マウさん、気をつけてね」
「ありがとにゃ。絶対あんたを元の世界に帰してお父さんやお母さん、政彦に会わせてあげるにゃ」
「うん、その時はマウさんも一緒に」
マウはそれには答えなかった。
「あ、そうだにゃ、あんたの名前ってなんだにゃ?」
「名前? 妖魔王は僕を『ミッチー』って呼んでたけど、本名じゃないと思う」
「そうなのかにゃ? うーん、まあいつかわかるにゃ。それじゃあ」
マウは魔王ミッチーに見送られ、一人旅立っていった。
余談だが、ミッチーの本名は石見
だが本人がそれを知るのは、まだまだ先の話。
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