第8話「新たな生活」

 侵略者達がいなくなり、地球に平和が訪れた。


 そして政彦とマウは世界の英雄と呼ばれて……いなかった。


 日本の首脳陣は人工衛星などから撮った映像で彼らが侵略者を撃退したのを知っていた。

 なので当初は政彦達を救世主として世界中に大々的に紹介しようとしたが、政彦はそれを固辞した。

 自分は目立たずに普通に暮らしていきたい。

 マウは元々そんなの興味なしだし、政彦と一緒にいれればそれでいい、と言った。


 首脳陣はしつこく食い下がってきたが、たけさんがそれを言い含めて収めた。

 たけさんは世界中の有力者や妖怪変化の類に顔が利く、言わば世界の影のドンでもあったからだ。


「わかりました。では私達はこれで」

 そう言って総理大臣はその場から去ろうとしたが、ふと振り返って政彦の手を取り

「改めて本当にありがとう。君達が世界を救ってくれた事は一生忘れないよ。それとね……」

「はい?」

「君達があれを吹き飛ばした時は凄く胸が震えたよ。まるで子供の頃にテレビで見たヒーローが現実に来てくれたかのようだったよ」

 総理大臣の目には感激の涙が浮かんでいた。


「たとえ世間に知られなくても、君達はこの世界を救ってくれたヒーローなんだ。だからもし何か困った事があったらいつでも訪ねてきてくれよ。では」

 そう言って総理大臣は去っていった。


「今まで政治家っていい印象なかったけど、ちょっと考えなおそ」

 政彦はそう呟いた。



 それから世界は少しずつ復興していき


 政彦は普通の暮らしに戻った?





 そして

「う~ん、もう朝か」

 政彦はベッドから起き上がろうとしたが

「・・・・・・おい、マウ。何しとんじゃ」

 マウは政彦のパジャマのズボンをずらそうとしていた。

「にゃ、ちょっと政彦のアレが起きてるか見ようと」

「・・・・・・てめえ」

 政彦がマウを殴ろうとした時、勢い良く部屋の襖が開いた。


「政彦、いつまで寝て・・・・・・あら」

「あ、母さん」

「にゃ、お母さん」


 そこにやってきたのはやや青色っぽい髪を短く揃え、眼鏡をかけていて顔は十六歳の息子がいるようには見えない、いや息子と同い年と言っても通用するくらい若々しい政彦の母、石見優華いわみゆうかだった。


「あのねえ、そういう事は学校から帰ってからにしなさいな」

 優華は呆れた表情でそう言った。

「母さんはそれでいいのかよ?」

「いいわよ、マウちゃんは政彦の奥さんだし。あ、なんならわたしが息子の息子を」

「ゴラ---! なに危ない事言うとんじゃこの母親は---!」

「冗談よ。さ、早く支度しなさい。遅刻するわよ」

「はいはい・・・・・・」

「にゃ~、じゃああたしはもう一眠り」

 そう言ってマウはそのまま寝ようとしたが


「マウちゃん、あなたも政彦と一緒に学校に行くのよ」


 ・・・・・・は?


「母さん、何故にマウも?」

「そうだにゃ、妖怪には学校も試験も何にもないんだにゃ」

「マウちゃんは政彦と同い年の遠縁の子って事になってるのよ、その子が学校にも行かず家でゴロゴロしてたら世間はどう見るか・・・・・・」


 そうだった、マウが妖怪だって事は内緒にしとこうって話し合ったんだった。

 ご丁寧にたけさんが裏から手を回して戸籍まで作ってくれたし。

 ちなみに名前は「上原舞優うえはらまう」となってる。


 たけさん曰く、好きなAV女優の苗字をつけたとかって、おい。


 


「う~ん、でもマウが学校行って大丈夫かなあ」

「何かめんどくさいにゃ~」

「マウちゃん、あなた頭はいいと思うけど現代の知識はあまりないでしょ、だからそれを学んで来て頂戴。そうしないと政彦が後で困るから」

 優華はマウにそう言った。

「・・・・・・わかったにゃ! じゃ、行こ政彦!」

「う、うん・・・・・・」


 本当に大丈夫かなあ・・・・・・




 こうして政彦とマウの新たな生活が始まった。

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