第五部 「たたかうアイカツおじさんたち!」

第1話 アイカツおじさんのお料理教室

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※この物語は、あくまでもフィクションである。


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とある初夏の休日。


権俵権助(38歳・独身)は三時のおやつ代わりの魚肉ソーセージをかじりながら自宅の台所へとやって来た。ソーセージを食べ終え、包みをプラゴミ用の袋へ投げ込むと、フン!と大きく鼻息を吹いた。


「よし! 作るか!」


意気込み、両袖をまくって手を洗う。重たい冷蔵庫の戸を開いて収納物を確認し、続いてチルド、野菜入れ、冷凍庫……と順にチェックを進めていく。


「ふむ。……アレだな」


どうやら本日の晩御飯のメニューが決まったらしい。


彼が思い出したように自炊を始めたことと、先日の健康診断で初のB結果(軽度異常)を頂戴したことは、恐らく無関係ではないだろう。中年はこうして料理に目覚めていくのだ。


「まずはこれか」


権助は野菜入れからラップに包んだゴーヤを取り出し、軽く洗ったプラスチック製のまな板の上に置いた。ゴーヤを指先で回して縦向きにすると、グッと包丁を入れて左右に分断した。続けて、今度はスプーンで中に詰まったワタを取り除く。それが済んだら、今度は2mm程度の厚さで半月状に切り分けていく。


「トントン刻むリズムに~♪ ドキドキ踊って~♪」


『アイカツ!』第140話「アイカツレストラン」のテーマ曲『Sweet Heart Restaurant』を口ずさみながら、テンポよく調理を進めていく。


それにしても料理というものは、食べることに比べて、作る手間と時間のなんとかかることよ……と思った。


「そう思えば、やはり『アイカツ!』のアイドルたちは凄いな」


お弁当やパンケーキ、ドーナツにチョコレートといったスイーツから、スペイン料理にアンコウの吊るし切りまで、『アイカツ!』には様々な食べ物が出てくるが、なんと、そのほとんどは登場するアイドルたちによる手作りである。


漫画やアニメにおいて、キャラクターの個性付けのために、よく「料理が下手」という設定が加えられることがある。このような「ドジ」や「不器用」を表す記号は視聴者である子供たちの共感を得やすいからだ。


しかし、『アイカツ!』はそれをしない。


なぜなら、アイドルは子供たちにとって「憧れ」の対象であるからだ。そして、それは同時に親御さんにとっては「良いお手本」として映るため、安心して子供に見せられる番組であるという認識を持ってもらえる効果もある。


「ああ、本当にみんないい子ばかりだな」


上記発言でも分かる通り、この設定は、権助のように親子ほど年の離れたアイドルたちを自分の娘のように見守っているアイカツおじさんにとっても効果を上げているのだが、それは特にバンダイナムコピクチャーズの知ったことではない。


と、そんなことを考えながらも調理の手は止まらない。サラダ油を敷いたフライパンの中に先程のゴーヤ、レンジで解凍した豚肉、一口サイズに切り分けた木綿豆腐を放り込み、適量の醤油とみりんを加えて炒めていく。


「まあ、味付けはテキトーでも火を通せば大抵のものは食えるもんだ。あとは卵とかつお節で完成……と、その前に」


他の食材と一緒に出しておいた、プラスチック製のザル。あらかじめそこに刻んで入れておいた魚肉ソーセージを、ざざっとフライパンに投入した。そして卵と一緒に30秒ほど木べらでかきまぜ、最後にかつお節をまぶして……。


「おし、ゴーヤーチャンプルーのできあがり。あとは……白飯じゃちょっと味気ないかな」


隣にもう一つ大きめのフライパンを並べて油を敷くと、今度はそこに炊飯器から掬った冷やご飯をドサッと乗せて、市販のチャーハンの素と一緒に炒め始めた。


「お手軽、お手軽」


……とはいえ、さすがにもうひと手間ぐらいはかけたい。権助は戸棚に手を伸ばすと、そこから長方形の紙製パッケージを手に取った。その箱の中から取り出したのは、四本の魚肉ソーセージ。これを小さく切ってチャーハンを彩ろうというわけだが……しかし、どうやら彼の関心はソーセージと一緒にパッケージの底から出てきた一枚のカードに向けられているようだった。


「おっ、エルザ様のパープルスカーフアクセだ。なになに、250アピールポイントでフルコンボボーナスアップの効果か、なるほど」


『アイカツスターズ!フィッシュソーセージ』

【内容量】44g

●フィッシュソーセージ・・・・4本

●アイカツ!カード・・・・1枚(全10種)


そこに封入された、DCD筐体からは輩出されないオリジナルアイカツ!カードを求めるアイカツおじさんたちの食卓には、やたらと魚肉ソーセージを使った料理が並ぶと言われている。


「いやー、しかしだいぶ消費したぞ」


権助はかつて戸棚に山盛り積まれていたソーセージのパッケージがいよいよ片手で数えられるようになったことに、不思議な達成感を覚えていた。


「まあ、魚肉ソーセージは色んな料理でなんとでも使いようがあるからな。もしこれが昔流行ったビックリマンチョコみたいなお菓子だったらこうはいかなかったよな。はっはっは……」


権助は、もう一つの戸棚に山積みされている『アイカツスターズ!データカードダスグミ』の箱を視界の端に入れつつ、その乾いた笑いを部屋に響かせるのであった。



-おわり-

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