第四部 「No Aikatsu! No Life」

第1話 アイカツおじさんと消えたまっP 

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※この物語は、それなりにフィクションである。


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アイカツ!&アイカツスターズ!アニメ公式 認証済みアカウント @aikatsu_anime 2016年8月30日


10/4発売「アイカツスターズ! Blu-ray BOX1」初回特典はリバーシブルの“水ぬれを恐れない♪ミニポスター”?「ゆめが表ならわたしも表!うん、いいじゃん??」

【BD担当K】

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「BD担当K……か。まっP、いよいよ消えてしまうのか」


権助は自宅のPCでツイッターを眺めていた。


少しでも『アイカツ!』情報を見逃すまいと、様々な『アイカツ!』関連アカウントをフォローしているため、権助のタイムラインは常にその話題で持ち切りであるが、中でも特に有益なのはやはり公式アカウントである。そのツイート担当者は、アニメ・ゲーム・ライブ・BD/DVDなど話題によって複数名が入れ替わる形になっているのだが、その内の一人だけ、明らかに「オーラ」の違う者がいた。


それがBD/DVD担当の前任者「まっP」である。


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いちご「近頃ね、実家のベッドだと眠れないんだ」あおい「そうなの?」い「でね、ずっと考えてたんだけど今わかった♪」あ「??」い「隣にあおいが居ないからだよっ♪」あ「へ…へえぇ?っ♪///」【BD担当まっP】

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ユリカ「花火大会、気が進まないわね。蘭は?」蘭「あたしは音が苦手なんだ。回りの人にしがみついて迷惑かけちゃうから…」ユ「行くわよっ!と言うか強制連行っ///」蘭「何で急に積極的なんだ?」【BD担当まっP】

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かえで「収録終わった?レッツ一緒にゴーホーム」ユリカ「嫌よ噂になったら困るわ」か「え?ずっと待ってたんだよ?」ユ「ま…まあ偶然同じ寮の方向に、手を繋いで歩くだけなら許さなくもないわ///」【BD担当まっP】

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リサ「Amazonさん限定BD-BOX5は、なまら大きい描き下ろしB1布ポスター付き♪コレさえ飾れば…いつもののっちが一緒に居る気分///」 【BD担当まっP】

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小学生女児には無い、一部のアイカツおじさん&お姉さん特有の視聴スタイルとして、「『アイカツ!』を百合アニメ(女性同士の恋愛物)として楽しむ」という観方が存在する。


その行為自体は他のアニメ作品でもしばしば見られることで、別に珍しいことではないのだが、特に『アイカツ!』には、元々そういった視聴方法を助長する土壌があった。


その大きな要因の一つが「男女間の恋愛描写禁止令」である。


このコンセプトは、他の少女向け作品との差別化および、「想いが成就したところで終わってしまう」という恋愛物の宿命から逃れ、作品を長く続けるためであると語られている(『アイカツ! オフィシャルコンプリートブック』木村隆一監督インタビューより)。その代わりに描かれるのは、女性同士の友情、師弟愛、姉妹愛……。それらは時に、男女間の恋愛よりも濃密な関係描写として視聴者に受け取られることになる。


『アイカツ!』百合界隈でのメジャーなカップリングを挙げると、まずはなんといっても主人公・星宮いちごと親友の霧矢あおいの組み合わせ……いわゆる「いちあお」である。親友でありながらいちごのファン1号を自認するあおいと、仕事のスケジュールから摂取カロリーの管理までをもあおいに一任するいちごの関係は、既に熟年夫婦の域と言える。このコンビは、番組終了後もアプリゲーム『フォトカツ』で木村監督直々の作詞によるデュエット曲「青い苺」がリリースされたり、2017年3月に行われた『アイカツ!ミュージックフェスタ2017』の来場者特典として、人気投票で一位になった「ウェディングドレス姿のあおい」カードが決定した際に、対となる「ウェディングドレス姿のいちご」カードが制作されてセット配布されるなど、公式による福利厚生が充実しているのも特徴である。


他にも、第一話からの憧れを二年越しの劇場版で「恋の歌を届ける」という形で昇華した「いちご・美月」、初期と後期で派閥の分かれる「蘭・ユリカ様」および「かえで・ユリカ様」。百合回の名手・高橋ナツコ脚本による第171話「ベストフレンド」で30分丸ごとデート映像を流した「まどか・凛」の後輩コンビ、なぜかヤンデレ気味に受け取られがちな「あかり・スミレ」、最終的に結婚式まで挙げてしまった西のアイドルたち「ここね・みやび」など。新シリーズ『アイカツスターズ!』に入ってからも、劇場版での大胆な告白シーンで「友情」という言葉の意味を再定義せざるを得なくなった「ゆめ・ローラ」ペアに、過剰な姉妹愛描写の目立つ「夜空・真昼」、正反対の属性を持つ幼馴染「ゆず・リリィ」など、そのカップリングの数々は枚挙に暇がない。


…………。


とはいえ。


とはいえ、だ。


これらは、あくまでも視聴者側の勝手な受け取り方であり、当然ながら非公式なものである。それを踏まえた上で、改めてまっPのツイートを読んでいただきたい。


……いかがだろうか。


アウトか、セーフか。その判断基準は各々の中にしかないが、これらのツイートが子供たちの閲覧する『アイカツ!』公式サイト上にでかでかと貼られていたわけだから、当然のように賛否両論巻き起こり、速やかにTogetterにまとめ晒しあげられたことは想像に難くないだろう。まっPのツイートには常に賛否分かれたレスが大量につき、中には、まっPの本名と思われる名前まで書き込まれる始末。


しかしながら、ただ一つ言えるのは、まっPはどんな罵倒に晒されようとも、己の百合妄想小説を全世界に向けて投稿し続ける鋼のメンタルを持っていたということである。


そして、そんなまっPも『アイカツ!』のBD/DVDが全巻発売され、最後の業務である劇場版『アイカツスターズ!』の宣伝も終え、ついにその役割を後進に譲る時が来た。


後を受け継いだBD担当K氏のツイートは至極真っ当な宣伝に徹していた。権助は「これが本来の宣伝の形だよな」と胸をなでおろした。


……しかし、その心中にはどこか寂しさがあったことも否定はできなかった。


「まっP……一体、彼は何者だったんだろうな」


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そして……『劇場版アイカツスターズ!』の熱い夏が終わり、まっPが表舞台から姿を消して迎えた2016年9月。


権助がラテ欄の深夜枠をチェックしていると、ふと、ある番組名が目に留まった。


「新番組『レガリア』? 9月に始まるなんて、随分と時期外れなアニメだな。とりあえず、録画してみるか」


こういう、ちょっとした興味が新たな楽しみに繋がるのはよくあること。リモコンを手に取り、録画予約をセットしたのだった。


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「さて、第一話だが」


放送の翌日、仕事から帰って来た権助は雑務を一通り片付けてテレビの前に座った。


「おっ、主題歌を歌ってるのは『アイカツスターズ!』で作詞をやってるTRUEさんじゃないか」


「へぇ、BD/DVDの発売元、『アイカツ!』と同じハピネットなのか」


「このヒロイン、どことなく『アイカツスターズ!』の白鳥ひめ先輩に似てるな」


このように、無関係な作品から「実質アイカツ要素」を見出してしまうのはアイカツおじさんの癖であるが、まあ、それが興味が広がるきっかけになることもあるので一概に悪いとも言えない。


そして。


「ふう、これで一話終わりか。とりあえず、来週も観てみるかな」


画面に流れ始めるエンドロール。


「……!?」


権助は、そこに唐突に既視感を覚えた。思わずリモコンを手に取り巻き戻す。


「あっ!」


エンドロールの一番最初に流れてきた人物名。それは、ツイッター上で幾度もまっPに対して投げかけられていた名前であった。


「名前が初めに出てくるということは、つまり……!?」


権助は素早く検索窓にその氏名を入力し、表示された数件の検索結果から先頭のページを開いた。


そこには、件の氏名と共に「ハピネット ピクチャーズユニット」の人事異動を報せる内容が記されていた。


「役職はGM……ゼ、ゼネラルマネージャー……執行役員……」


なんとなく、あの奔放すぎるまっPのツイートが放し飼いにされていた理由が分かった気がする権助であった。


「い、いやいや待って……別に本人かどうかまだ分からんし……というか、分かっても反応に困るだけだし……」


アイカツ!公式百合SS職人、まっP。その正体は、いまだ謎に包まれている。


はず。


- つづく -

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