最終話 アイカツおじさんと今日が生まれかわるセンセイション
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※この物語は、もしかするとフィクションである。
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「なんだ、これ?」
権助はテレビアニメ『アイカツスターズ!』放送中に流れたCMを観て思わず呟いた。
「『ドリフェス!』……?」
どうやら、それはスマホアプリによるリズムゲームのようだった。
「『アイカツスターズ!』の最中に別のアイドル物のCMをやるのか? しかも男性アイドル……」
競合番組のCM枠にコマーシャルを送り込むのはよくあることだが、これは『アイカツスターズ!』のメイン視聴者層である小学生女児にはまだ早い「男性アイドル物」であるし、そういった意図は無さそうに見えた。
「うーん……どういうことだ?」
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それからしばらく後。
「ん? これはあの時の……」
朝食の時間、パンを片手に、権助は新聞のラテ欄に『ドリフェス!』の名前を見つけた。どうやらテレビアニメ化したらしい。放送時間は深夜11時半から。
何故そんな女児が起きていない時間帯の作品のCMを『アイカツスターズ!』放送中に流したのだ? 少しばかり興味をそそられた権助は、ハードディスクレコーダーを立ち上げ、週間録画予約をセットした。
それからしばらく仕事で多忙が続いた権助は、ようやく得た休日を使って撮りためた『ドリフェス!』を一気に視聴することにしたのであった。
そして。
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「じ、実質アイカツだ……」
『ドリフェス!』の主人公、天宮奏は「星宮いちご」から「宮」を、
レジェンドアイドル・三神遥人は「神崎美月」から「神」を……と、
『アイカツ!』のアイドルたちから名前の一部を受け継いだ登場人物たち。
トップス・ボトムス・シューズ・アクセサリーの四枚のカードで衣装をコーディネートするシステム。
そして見せ場として用意されたCGライブ。
それらは皆『アイカツ!』を踏襲したものであった。
……が、権助が真に「実質アイカツ」を感じたのは、そういった表層的な部分ではなかった。
第3話 『2032』。及川慎の親友・風間圭吾がオーディションに落ちたことで己の実力不足を痛感し、芸能界を去ってしまう……という話。
この回を観ている間、権助は頭の中でずっと『アイカツ!』第5話『ラン!ランウェイ!』をリフレインしていた。これは、紫吹蘭の親友・近藤真子が実力不足を理由に芸能界を去ってしまうという、あらすじだけ見ればまるで同じ話だったからだ。
しかし、『2032』は最後に風間圭吾の芸能界復帰を仄めかして終わり、事実、この後ライバルユニットを組んで再登場するのだ。
権助は震えた。
『アイカツ!』の「続き」をこの『ドリフェス!』でやっているのだと。
慌ててシリーズ構成の担当者を確認する。
「やはり……!」
そこにあったのは「加藤陽一」の名前。言わずもがな、『アイカツ!』のシリーズ構成と脚本を担当した人物である。そして、表題の『2032』はこの回のライブで歌われた曲名で、その作詞家は『アイカツ!』でも数々の楽曲を生み出した「こだまさおり」。
二人は『アイカツ!』をきっかけに結婚したアイカツ婚夫婦であり、その共同作業が生み出す歌と物語の相乗効果が、この『ドリフェス!』でもいかんなく発揮されていたのだ。
「生きていた……アイカツの魂が、ここにも……!」
その感動のさなか、CMが流れ始めた。
~ 白銀リリィ、参ります! ~
~ 三弾シーズンオータム! ~
データカードダス『アイカツスターズ!』第三弾のコマーシャルである。
それはこの深夜11時半という、小学生女児が起きていてはいけない時間帯に流すには本来、似つかわしくないものであった。だが、このCMの存在こそが『ドリフェス!』のターゲット層が「アイカツお姉さん」であることを明確に証明していた。
「なるほどな」
アイカツ!をプレイする成人と言えば「アイカツおじさん」が有名だが、実際のところは成人女性、つまり「アイカツお姉さん」の割合の方がずっと高いと言われている。
子供の付き添いで『アイカツ!』に触れるうちに母親がハマってしまったパターンや、かつて大ブームを起こしたセガ『オシャレ魔女ラブ&ベリー』をプレイしていた世代が大人になって再びキッズカードゲームにハマってしまったパターンなどがあると言われており、そもそも男性よりもプレイの心理的ハードルが低いことも想像に難くない。
「ありがとう、加藤さん、そしてこだまさん……。ありがとう、アイカツお姉さんたち……。ありがとう、バンダイナムコ……。そして……」
権助は最後に付け加えた。
「ありがとう、タカラトミーアーツ……」
タカラトミーアーツは、『アイカツ!』の競合相手である『プリティーリズム』『プリパラ』を生み出したメーカーである。そこに権助がお礼を言ったのには理由があった。
『KING OF PRISM』、通称『キンプリ』。
全国の映画館に「応援上映」という文化を根付かせ、八ヶ月に及ぶ超ロングランでヒットを飛ばした映画である。そして、この作品の題名を省略せずに唱えるとこうなる。
『KING OF PRISM by PrettyRhythm』
「プリティーリズム」……それは、かつて『アイカツ!』がその牙城を崩した女児向けアーケードゲームのタイトル。そして、その後『アイカツスターズ!』へのリニューアルを決意させた『プリパラ』の前身。
『キンプリ』は、そのプリティーリズムに登場した男性アイドルたちによるスピンオフ映画であり、その狙いはもちろん「プリリズお姉さん」たちであったのだ。
そう、つまり彼らタカラトミーアーツが「女児向けアニメを視聴する成人女性へ向けた男性キャラ中心の展開」という市場を開拓してくれたおかげで、この『ドリフェス!』が誕生したと言っても過言ではないのだ。
かつてのライバルのおかげで、『アイカツ!』は『ドリフェス!』という新たな命を得た。切磋琢磨できるライバルが居てこそコンテンツは成長する……その言葉を権助は改めて噛み締めていた。
「うんうん、本当に素晴らしいことだなぁ……。ん? ……ブハッ」
テレビを見ながら、権助は思わず飲んでいたペットボトルのお茶を吹いた。『ドリフェス!』第6話に登場したスカウトマンの名前が、いつも『アイカツ!』のライブを取り仕切っている「うっすん」こと臼倉竜太郎氏の名前ををもじった「臼倉太郎」であったからだ。
「わ、脇役キャラにスタッフの名前を使う文化……さすが実質アイカツだな。……えーと、そろそろ撮りためた話も最後かな?」
『ドリフェス!』の視聴が終わりに近づいたその時。
「!?」
権助は、あるCMを目にして固まった。
そして、その目に映ったものを確かめねばならない。そう思った。
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2016年11月24日(木)、19時過ぎ。
仕事帰りの権助は、スーツ姿でいつものようにキッズカードゲームコーナーへと立ち寄った。
入口近くには、ガンダム、ドラゴンボールに妖怪ウォッチと男の子向けの筐体が並ぶ。そこから奥に進むと、プリパラにオトカドールに……そして『アイカツスターズ!』筐体が鎮座している女の子向けコーナーだ。いつもならそこで立ち止まる権助であったが、今日はそのまま更に奥へと歩みを進めた。
そこにあったのは、一台の新作カードゲーム筐体。
流行りの縦長ディスプレイとは違う、やや小さめの液晶画面。
その上下にセットされた、眩しく輝くレアカードの見本たち。
赤・黄・緑の三色ボタンで操作する、その背の低い筐体……。
「……久しぶり、だな」
それは、権助があの時に目にしたCMに映った通りのものだった。
スマホアプリに続き、今日から稼働を始めたアーケード版『ドリフェス!』。
そこに使われていた筐体は、かつて権助が繰り返し遊んでいた……そしてあの時に別れを告げた、旧『アイカツ!』筐体そのものであった。
「…………」
半年以上ぶりに腰かける、低く横に長いロングチェア。かつては疎外感を味わったその椅子が、今の権助には何故だかとても居心地がよかった。
権助は、慣れた手つきで百円硬貨を投入した。
”ICカードをセットしてください”
「お、そうか。プレイデータ保存用のカードを買わな……」
ふと、権助はあることに気が付き、鞄の中から革のカードケースを取り出した。そこから出てきたのは、一枚の桃色のカード。それは、かつて『アイカツ!』のために用意していた予備の「スターライト学園証」だった。
権助が学園証を筐体左部の「へこみ」にセットすると、筐体はたちまち ”それ” を記録用のICカードとして認識した。
「ふふっ……だよな」
そしてアイドルの描かれたカードが排出され、曲を選び、三色ボタンを使ったリズムゲームが始まる。そのこなれたゲーム展開に、権助は初めて遊ぶというのに、とても懐かしい気分に満たされた。
だが、同時に驚きもあった。圧倒的に強化されたグラフィック。驚異的に短くなったロード時間。「カッ!」という爽快なマーカーHIT音と、緩めに調整されたパーフェクト判定による快適なゲームプレイ。そのどれもが『アイカツ!』時代とは比較にならない進化を遂げていたのだ。
「これは凄いな。控えめに言って、最高超えてる」
これなら、最新のゲームとも対等以上に渡り合えるに違いない。
プレイを終えた権助はそう確信した。
「……ん」
席を立つと、後ろに二十代の女性二人組が順番待ちをしているのに気が付き、権助はそそくさとその場を譲った。
「あったねー、ドリフェス!」
「うん!」
権助は、嬉しそうに『ドリフェス!』筐体に群がる彼女たちを見て自分の立場を理解し、苦笑した。
「……ドリフェスおじさん、か。どうやら、またメインターゲットから外れてしまったようだな」
(♪ ハートのボリューム急上昇 キラキラ カラフルなSchool☆days 性別が違っても きっと気持ちは一緒 ♪)
権助は、そんな「ハッピィクレッシェンド」の替え歌を頭の中で歌いながら今日も家路につく。
明日にはきっと、また次の百円硬貨を『ドリフェス!』や『アイカツスターズ!』筐体へと投入するのだろう。
そこに『アイカツ!』の魂がある限り、これからもアイカツおじさんのアツいアイカツは続いていく。
だって、しょうがないじゃない。
好きになってしまったんだもの。
好きになることは、自由だもの。
- おわり -
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