第4話 アイカツおじさんと実質アイカツ

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※この物語は、もしかするとフィクションである。

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”♪ 何度でも呼んで泣いて 蝶結びアミュレット こころ届くまで……! ”


高らかに歌い上げるは、和のテイストを取り入れた煌びやかな衣装に身を包んだ三人の女性アーティスト。彼女たちが華麗にポーズを決めると、権俵権助らステージ前に集まった百人を超える観客たちから一斉に大きな拍手が贈られた。


2016年11月6日(日)、午後二時過ぎ。


ここは京阪電車・樟葉駅直結のショッピングエリア「くずはモール 南館ヒカリノモール」。鉄道ファンの間では、京阪電車の歴史的資料が多く揃えられ、特にオレンジ色の車体が目を惹くテレビ付き特急、旧3000系特急車……通称「テレビカー」が一両丸ごと展示されていることで知られている場所である。


そして、そのテレビカーの向かいに用意されたイベント用スペース「SANZEN-HIROBA」で先程から熱唱を続けているのは、この8月にCDデビューしたばかりの霧島若歌、上花楓裏、ささかまリス子の三人によるアニソンユニット、Mia REGINA(ミアレジーナ)であった。


権助はその聴き馴染んだ歌声にうっとりと耳を傾けていた。


それもそのはず、彼女たちはそれぞれ「わか」「ふうり」「りすこ」名義で今でも『アイカツ!』の歌唱を担当している、STAR☆ANISの最初期メンバーなのだ。


恐らく、今ここに集まっている観客の多くも『アイカツ!』から応援を続けているファンたちであろう。その証拠に、権助の前……ステージ最前列には、歌い踊る彼女たちを目を輝かせて応援している小さな姉妹がおり、二人の頭にはそれぞれ「いちご」「あかり」風のリボンが結び付けられていた。


なお、この姉妹に最前列を譲ったのは権助たち大きなお友達である。アイカツおじさんたちは、これまで行われてきた数々の『アイカツ!』イベントでの経験により、常に「先輩」を最優先とする教育を受けてきているのである。


”♪ さざめく波の予感 こころは待ってたんだ  ”


新曲「蝶結びアミュレット」に続いて、前クールのアニメ『ももくり』のエンディングテーマにもなっていた「ETERNALエクスプローラー」が始まった。


(ああ、『アイカツ!』でないところでも彼女たちの歌が聴けるというのは、ありがたいな……)


先日の「もな」こと巴山萌菜のライブの時もそうだったが、権助は『アイカツ!』以外での彼女たちの活躍に安心感を覚えていた。


『アイカツ!』の歌唱を担当するSTAR☆ANISとAIKATSU☆STARSは、その名の通り『アイカツ!』ありきのユニットである。


あまり考えたくない事ではあるが、もし今後『アイカツ!』というコンテンツそのものが終了した時に、そこですべてが断絶してしまう可能性は十分にあるのだ。そう思えば、こうして「新しい道」を見つけた彼女たちを応援したくなろうというものだった。


「以上、Mia REGINAでした! ありがとうございましたー!」


ミニライブが終わり、続いてCD購入者を対象としたポスターのお渡し会が始まった。権助は、ずらずらと並ぶ観客たちを整列させるスタッフの中に、いつも『アイカツ!』のライブイベントを取り仕切っている「うっすん」こと臼倉竜太郎氏の姿を見つけた。


「……なんというか、まんまと乗せられているというか、客層を見透かされている感じがしないでもないな」


と苦笑した。


今回のミニライブで歌われた「蝶結びアミュレット」をオープニング曲として採用している10月からのアニメ『装神少女まとい』は、『アイカツ!』とは違って子供たちをメインターゲットとしない深夜アニメであったが、Mia REGINAの主題歌につられて『アイカツ!』の視聴者が流れてくると踏んだのか、劇中に「退魔活動、略してタイカツ!」という台詞を入れたり、CMでは「ゆまちんの熱いタイカツ、始まります!」というナレーションが入るなど、所々に『アイカツ!』パロディを挿入していた。


(これは、いわゆる「実質アイカツ」というやつだな)


実質アイカツ。


それは、『アイカツ!』以外のものに『アイカツ!』的な要素を見出した際に使われる言葉で、それ自体はかなり以前から使われていた。しかし、『アイカツ!』の最終回が近づくにつれて、アイカツロスを恐れたアイカツおじさんたちがあらゆるものに『アイカツ!』要素を見出す逃避行動として使い始めたため、その使用頻度はぐんぐんと高まっていき、そのうち「斧が出てきたから実質アイカツ」「斧を使うからザクは実質アイカツ」「ガンダムは実質アイカツ」レベルまで飛躍するパターンも見られる事態となった。


「ま、口には出さないけどな」


「実質アイカツ」という言葉は、『アイカツ!』を忘れぬファンの気持ちであると同時に、演者やスタッフたちに『アイカツ!』という縛りを与えてしまう鎖の言葉でもある。


かつて映画俳優ショーン・コネリーが、すっかり定着してしまったジェームズ・ボンドのイメージを払拭するのに大変な苦労を重ねたというのは有名な話である。


そういうイメージの縛りをこちらから与えてしまうのはよくないと、権助はそう思ったのだ。


しかし。


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「じ、実質アイカツだ……」


その舌の根も乾かぬうちに、権助はそれを口に出す事態に直面することとなった。


彼が自室で観ていたのは、ハードディスクレコーダーに撮りためていた深夜アニメ。その番組は、始まると同時にこう告げたのだ。


”目指すはデビューをかけたドリームフェスティバル、『ドリフェス!』始まります!”


赤い髪の主人公らしき青年が放ったその言葉に、権助は明確な聞き覚えがあった。


”私のアツいアイドル活動、『アイカツ!』始まります!”


それはまさに、三年半に渡って続けられた『アイカツ!』放送開始の合言葉をなぞったものだったのだ。



- 最終話につづく -

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