第2話 アイカツおじさんとアイカツは実在した
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※この物語は、おそらくフィクションである。
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時は遡り、2015年2月21日(土)。
「アイカツ、それはありがとうの生まれる光……」
と惚けた顔で映画館から出てきたのは、私服姿の権俵権助(36・独身)である。その両手にはカップ麺がそれぞれ一つずつ握られていた。
この日と翌日の二日間限定で、東映系列の映画館である梅田ブルク7で上映されていたのは『アイカツ!LIVE☆イリュージョン スペシャル上映会』という、少し変わった作品であった。
これは2014年8月に東京で行われた『アイカツ!LIVE☆イリュージョン』を撮影した映像を劇場の大スクリーンで上映し、イベントを疑似体験させるという試みである(もちろん、開催時と同様にサイリウムの使用や声援も許可されている)。T・JOY系列の映画館を中心に行われている、歌舞伎やスポーツ中継など映画作品以外の上映イベントの一つであった。
「CGキャラクターによるライブイベント……これは夢があるな」
以前、『アイカツ!』の歌唱担当グループであるSTAR☆ANISのライブに参戦した経験のある権助であったが、アイドルたちがアニメそのままの姿で目の前に現れるLIVE☆イリュージョンには、また別種の良さがあるのだろうなと想像した。
……権助はあくまで「上映」を観ただけなので、想像しかできないのであった。
「もし、また開催されることがあったら絶対に観に行こう」
手にしたカップ麺をグッと握りしめて誓った。
なお、彼が両手にしているカップ麺は、入場者特典のアイカツカードと一緒に手渡された、数か月前に発売された『アイカツ!推し麺』である。そろそろ賞味期限が気になる時期ゆえのばら撒き政策であろうと思われたが、映画館から出てきた人間が一様にカップ麺を抱えている光景というのは極めて珍妙であった。
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時は流れ。
2016年1月9日(土)。
大阪湾へと続く川沿いに建てられたキャパ2,000人規模の大型多目的ホール・堂島リバーフォーラム。寒空の下、コートのポケットに両手を突っ込んだ権助が、その入口を見上げていた。
視線の先……分厚いガラス扉の上には、横幅7~8メートルはあろうかという巨大な横断幕が掲げられていた。
”ライブは一体感!”
力強い筆文字で書かれたその一文は、『アイカツ!』第30話「真心のコール&レスポンス」にて提示されたアイカツ格言であり、『アイカツ!』のライブでは恒例となっている横断幕であった。
そう、本日ここで行われるのは実に十七カ月ぶりとなる『アイカツ!LIVE☆イリュージョン』……その名も『アイカツ!LIVE イリュージョン ~3大チーム!ドリームマッチ♪~』である。
権助が長い長い入場待機列の最後尾から客層を眺めてみると、親子連れからアイカツおじさん・お姉さんまで幅広い。今回は年齢制限の無いイベントなので、いつもより和気あいあいとした雰囲気が感じられる。
入場特典の『スノーイリュージョンセットアップ』カードを受け取り、いざ場内へ入ると、壁際にずらりと並んだ歴代アイドルたちの等身大パネルがお出迎え。アイカツ!の長い歴史が集約されたような景色である。
その他にも、特注であろう歌唱担当グループ・AIKATSU☆STARSのシール販売機や、各地のゲームセンターで行われたレッスン大会(店舗単位での公式大会)で配られた合格証に、CDやDVD、ポスターに、これまでの全てのアイカツ!カードまでもがずらり……と貴重な資料が目白押しで、もはやライブ会場というよりは、ちょっとした展覧会の様相を呈していた。
その中でも一際ひとだかりができていたのが、5月以降に発売が予定されている『S.H.Figuarts』アイカツ!シリーズの展示であった。なにしろ、これまで『アイカツ!』はゲームセンターのプライズですらリアル等身のフィギュアを一切作ってこなかったので、権助のようなアイカツおじさんたち……いわゆる「大きなお友達」にとっては待望、いや渇望の商品と言えた。
「ううむ、これは是が非でも予約せねば。しかし、こういうフィギュアは確か……」
ふと、権助はあることを思い出した……が、気付けばいつの間にか開演時間が迫っていたので、慌てて会場へと入っていった。
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照明の抑えられた場内。常設の座席が無い会場なので、このイベント用にぎっしりとパイプ椅子が並べられている。
権助のチケットに書かれた座席は前方やや左寄り。特別に良い席ではないが、壇上はハッキリと見える、そこそこの位置だ。
椅子に座ってスマホを取り出し、事前にインストールしていた「アイカツ!みんなでおうえんアプリ」を起動した。このアプリは今回のライブと連動しており、スマホを曲に合わせて自動的に色の変わるサイリウムとして使えたり、画面上でセットリストを確認できたりする。
こういったアプリとの連携は、2015年8月に公開された映画第二弾『アイカツ!ミュージックアワード みんなで賞をもらっちゃいまSHOW!』の応援上映でも行われており、この時は、劇中でマラソンに挑戦したアイドル・紅林珠璃が現在どこを走っているのかをリアルタイムで表示したり、映画を観た当日の晩に主人公・大空あかりから電話がかかってきたりといった楽しい仕掛けが用意されていた。
余談になるが。
今ではすっかり定着した「応援上映」という形式だが、そもそもの始まりはここ、大阪の地である。1998年の『ムトゥ踊るマハラジャ』に端を発するインド映画ブームに乗り、2001年6月に今は亡き動物園前シネ・フェスタにて『バーシャ! 踊る夕陽のビッグボス』が上映された際に考案されたもので、声援・クラッカー・紙吹雪などが上映中に解禁された。
一方、キッズアニメ界では2007年の『映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!』において、入場者プレゼントである「ミラクルライト」を使った応援が考案され、以降、恒例化していった。
これらの経緯があり、加えてライブシーンの多いアイドル物が隆盛を極める時代を迎えたことで、応援上映は定着していったのである。
……と、余計な話をしている間に、いよいよ開演時間がやってきた。
場内の照明が落とされると、すっかり耳に馴染んだフィッティングルームのBGMが大音量で響き渡った。それに合わせて、自然と会場のあちこちから手拍子が起こり始める。それはすぐに音楽に負けないほどの大きさになり、そして最高潮に達したその時……ついに目の前に『アイカツ!』のアイドルたちが姿を現した。
「ああ……! 『アイカツ!』は実在した……!」
ここで改めて説明すると、LIVEイリュージョンとは、透明なスクリーンにCGモデルを投影することで、キャラクターがまるでその場に存在するかのように見せつつ、なおかつ音楽とモーションを合わせてライブを行うというイベントである。初音ミクのライブ形式としても有名で、今回のLIVEイリュージョンにも『アイカツ!』風CGキャラクターとなった初音ミクがゲスト出演している。
♪ 今日が生まれかわるセンセイション 全速力つかまえて!
「ああ……!」
先程から感嘆の声しか漏らしていない権助であったが、なにしろ目の前に『アイカツ!』のアイドルたちが現れ、しかも一曲目から切り札とも言える名曲『START DASH SENSATION』を繰り出されている最中なので大目に見ていただきたいし、この後もたぶん「ああ……!」しか言わないので詳細なレポートは省くことにする。
そして……。
夢のような時間は瞬く間に過ぎ去り、アンコール最後の曲『Good morning my dream』もついに終わりの時を迎えた。
ああ、本当に来て良かった……と、権助は改めて今回のライブを反芻した。
まど凛の『フレンド』というサプライズ。あおい・きいの絡みと「大空お天気」のモノマネというレアトーク。劇場版の『輝きのエチュード』を思い出させる、花びらのアイドルオーラを模したサインカードが舞い散る演出etc……どれもが素晴らしく、アニメ・ゲーム・楽曲すべてのファンを楽しませようという、出し惜しみの無いサービス精神に権助は感服した。
ありがとう『アイカツ!』、そして、これからもよろしく……そう心の中で呟いた、その時だった。壇上のスクリーンにその映像が映し出されたのは。
”いつか、アイドルの一番星になる! 虹野ゆめ、『アイカツ!』はじめます!”
これ、アイカツか……? しかし、明らかにキャラクターデザインが違う。
虹野ゆめ? 誰だ?
四ツ星学園? どこだ?
S4? なんなんだ?
その映像が終わる直前、権助が頭の中でこれまで抱いてきた「違和感」がひとつに繋がろうとしていた。
『アイカツ!ジャパンツアー』を駆け足で描いたのは何故だったのか。
そして、本来子供向け作品である『アイカツ!』の大きなお友達向けフィギュアは「放送が終わるまで出さない」という噂……。
残酷にも、映像は最後に告げた。
”新番組『アイカツスターズ!』2016年4月7日放送開始! みんな絶対観てね!”
『アイカツ!』終了まで、あと82日。
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※この物語はおそらくフィクションなので、わざわざ書く必要はありませんが、実際に初めて『アイカツスターズ!』放送告知が流れたのは2月20~21日にヒカリエホールで行われた東京公演です。
この物語はおそらくフィクションなので、わざわざ書く必要はありませんが!!
- つづく -
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