第5話 アイカツおじさんはふたりなら最強でしょ!?でしょ!?
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※この物語は、あくまでもフィクションである。
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「うう~~~さぶさぶ!」
権助は両手をコートのポケットに突っ込みながら、梅田の街を小走りしていた。
2017年12月23日(土)、昼過ぎ。
本格的に冬が到来し、この日の大阪の最低気温は3℃を記録していた。
「早く建物の中に避難しないと……」
震える権助は、寒風から逃げるように近くのカフェへと駆け込んだ。
「は~、さっぶ……」
白い息を吐き、両手を擦りながらカウンターへ。そして店員のお姉さんに注文する。
「アイスクリームふたつ下さい」
気がふれたわけではない。
むしろ、これを買うために来たのだ。ここは、権助行きつけのゲームセンター・梅田namcoに併設された「一番カフェ」。様々なアニメとのコラボメニューを提供しているこの店で今日から始まったのが「『アイカツ!』『アイカツスターズ!』ミニクリアファイル付きアイスクリーム」である。
アイ(ス)カツ!
そのダジャレが言いたいがために始まったこのイベント。
何故その気持ちを夏、いや、せめて春まで待てなかったのか。
買いますけど。
「えーと、BとFで」
6種類ある味の中から、ストロベリーチーズケーキのB「アイスはいちいち!いちご気分」と、様々な味の組み合わさったレインボーのF「Message of a Rainbow」を注文し、クリアファイルの入った銀色の包みと一緒に持って、空いている席に座った。
「……さて、食べるか」
意を決してスプーンを持つ。アメリカ生まれのディッピンドッツアイスクリームとのコラボによる小さな球状アイスは、カラフルなビーズを小鉢に盛ったようでとても鮮やかだ。
「うん、美味いな。……しかし、これは」
冷凍庫から取り出したばかりのせいか、わずかに霜を帯びたアイスの粒がペタペタと舌に張り付いて少々食べ辛い。権助は暖かい店内の気温に、しばし自然解凍を任せることにした。
「先にクリアファイルを開けよう」
袋の糊をペリペリと剥がし、封入されたA6サイズのミニクリアファイルを取り出す。一枚は、草原に寝そべる八人のアイドルたち。もう一枚にはネオン風のオシャレなイラストが描かれている。
「『ヒラリ/ヒトリ/キラリ』と『オリジナルスター☆彡』か。いいな!」
クリアファイルは全10種類。かねてよりカワイイと評判の『アイカツ!』『アイカツスターズ!』歴代エンディングイラストが描かれており、権助が口にしたのは、出てきた絵柄のエンディング曲名であった。
「お、そろそろアイスも溶け始めてきたか」
再びスプーンを手に取り、アイスの粒を掬う。
「アイスはいちいち!いちご気分」は濃厚なチーズと甘々なイチゴの組み合わせが見た目以上のボリューム感で、「Message of a Rainbow」はそのカラフルな色合いが示す通り、舌の上でコロコロと味が変わるのが面白い。
「しかしだ。アイスひとつにつきクリアファイル一枚で、全10種類のランダム封入となると、コンプするためには一体何杯アイスを食べることになるんだろうな……」
権助は、文字通り背筋が凍る気がした。
「まあ、この真冬に一度に五杯も六杯もアイスを食べる人はいないとは思う……が……?」
言いながら、権助は斜向かいのテーブルに色とりどりのカップアイスが六杯並べられているのを見つけてしまった。その座席に座っているのは二十代の男性が一人だけである。
「どうやら、甘くて見ていたようだ……」
改めて店内を見回すと、アイ(ス)カツ!初日ということもあってか大半の席が既に埋まっており、結構な賑わいである。権助はこの盛況ぶりを仲間に伝えようと、スマホからキラキラッターを開いた。
「”今、梅田namcoへアイ(ス)カツ!に来ています。お客さんでいっぱいです”っと。……あれ? これは……」
権助は、自分の書き込みとほぼ同時刻にアップされた、ある写真に目を惹かれた。それは、見覚えのある並べ方をされた六杯のカップアイスの写真だった。
「……よし」
権助は食べかけのアイスを手に持ち、席を立った。
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「あの、突然すみません。私、権俵権助という者ですが……」
「……えっ!?」
椅子に座っていたその男性は、権助の名前を聞いて一瞬驚いた表情を見せると、慌てて立ち上がって目線を合わせた。
「あっ、初めまして! クルクルです! いつもキラキラッターでお世話になってます」
「いえいえ、こちらこそ。お逢いしたかったです」
「あ、そうだ。これどうぞ!」
と、差し出されたのは彼のマイキャラ「クルクルちゃん」のアイカツ!カード。権助もカードケースから「ゴンスケちゃん」のカードを取り出した。
「ウチの子をよろしくお願いします」
名刺交換ならぬアイカツ!カード交換。
他のプレイヤーのカードを読み込ませることでフレンド登録ができるという仕様から自然発生した、アイカツおじさん同士の挨拶である。
「あ! とりあえず溶ける前にアイス食べちゃいましょうか」
「えっ」
言うと、クルクルさんは権助が二杯食べる間に、六杯のアイスを矢継ぎ早にかっこんでいった。
「そんな勢いで食べたら……」
「~~~~~~~~っ!」
案の定、ツンとした頭痛に襲われてこめかみを手で押さえている。
が、さすが二十代。あっという間にすべて平らげてしまった。
「……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……。じゃあ、せっかくだし、やりましょうか!」
そう。アイカツおじさん同士が邂逅し、隣接するゲームセンターには『アイカツスターズ!』筐体がある。となれば、やることは一つしかない。
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二人はアイスを片して、カフェから10メートルと離れていないキッズカードゲームコーナーへ向かって歩き出した。
「……………………」
権助は「あること」を言い出そうとして、自身の胸の鼓動が高まっていくのを感じていた。
「あの……」
「あっ!」
その言葉を遮らせたのは、『アイカツスターズ!』筐体の前に立てられていた看板だった。
”アイカツスターズ!認定大会 星のツバサチャレンジ ~天王星のスタープレミアムの証~ 12月23日(土)13時~”
認定大会。
それは定期的に開催されている公式イベントで、用意された専用ステージにおいて一定以上のスコアを出すことで、「認定証」と貴重なアイカツ!カードがもらえるというものだ。
ゲームセンターの店員が司会者となり、集まった子供たちを順番に呼んでチャレンジしてもらう賑やかなイベントで、いつも日陰に隠れて一人でプレイしているアイカツおじさん・権俵権助にとってはまったく無縁な行事であった。
しかし問題は、大会の進行をスムーズにするために、店内にある四台すべての筐体を使用するということにあった。
「こりゃあ、しばらくプレイできそうにないですね……」
がっかりする権助に、クルクルさんはあっけらかんと言った。
「えっ? せっかくだから参加しましょうよ」
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「ごんだわらごんすけ……と」
エントリーシートに名前を記入し、大会の開始を待つ。よくよく見てみれば、約50人の参加者の半数以上が権助と同じアイカツおじさん&お姉さんであった。
(さすがアイカツおじさん西の聖地・梅田namcoだな。これなら遠慮も気後れもしないぞ)
「ノルマスコア、行けそうですか?」
記入を終えて戻って来た権助にクルクルさんが尋ねた。
「いやあ、今日はグレチェン狙いだったんで一式揃ったコーデ持ってきてないんですけど、エルザ様の太陽ドレスとアクセに復刻キングレオのシューズを合わせてセクシーでゴリ押ししようかなと(*)」
(*:訳「プレミアムレア未満のドレスが一定確率で上位ドレスに変化する『グレードチェンジ』を一度に狙うため、ハイスコアが取れる上下一式揃ったコーデではなく、レア度の低いカードをトップス・ボトムス・シューズすべて種類バラバラに持ってきてしまっているので、手持ちの中で一番アピールポイントの高い『エターナルクイーンドレス』『エターナルクイーンクラウン』に、前弾で復刻された『アイカツ!』時代のプレミアムレアシューズ『キングレオロングブーサン』を組み合わせてセクシー属性のポイントを無理やり高めて、基礎スコアを底上げすることでノルマ超えを狙いたいと思っています」)
「あ~なるほど。今回は『裸足のルネサンス』(クール属性のステージ)ですけど、基本は子供向けイベントなんでそこまでボーダー高くないでしょうから、それでいけそうですね」
待ち時間中に話すそんな会話も、今の権助には新鮮だった。
「では次、ごんだわらごんすけさん」
「あ、はい!」
司会者に呼ばれて筐体前に座り、コインを投入する。大会と言っても、やることはいつもと変わらない。カードを読み込ませてマイキャラを着飾り、リズムに合わせてボタンを叩く。
(……よしっ、クリアだ)
「おめでとうございます!」
結果発表画面で喜ぶマイキャラ・ゴンスケちゃんを眺めていると司会者がやってきて、権助に認定証と「イノセントプリンスクラウン」カードを手渡した。
そのオンデマンド印刷ではない厚めのカードが、旧『アイカツ!』を思い出させて懐かしかった。
「よかった、権俵さんも無事に合格ですね」
先に認定証を受け取っていたクルクルさんが権助を出迎えた。
「おかげさまでなんとか。それにしても、思っていたより大人の参加者が多くて驚きました」
「今日は年齢制限無しの大会ですからね。それに、ここは繁華街で子供が来づらいゲーセンですから、大人が参加するのにハードルが低いんですよ」
「なるほど……それはありがたい」
そう答える権助だったが、恐らくいつもの彼であれば、ひとりぼっちの心細さに尻込みしてきっと参加はしなかったことだろう。権助は、同じ価値観を持つ仲間の存在を心からありがたいと感じた。
「あ、もう最後の一人みたいですね」
お母さんに連れられた小学生の女の子が認定証とカードを手にして嬉しそうに席を立つと、店員が慣れた様子で後片付けをし、てきぱきとゲームを通常モードに戻して去って行った。
少しの沈黙。
「……あの」
権助が、さっき言えなかったことをようやく口にした。
「ふたりでアイカツ!しませんか?」
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二人掛けの低いロングチェアをずりずりと引きずり出して、権助とクルクルさんが横並びに座った。本来、これは親子連れのためのものだ。だが、アイカツおじさん同士で座ってはいけないという法は無い。左の席に権助、右の席にクルクルさん。百円硬貨を一枚ずつ投入すると、見慣れたメニュー画面が現れた。しかし、そのアイコンを選ぶのは二人ともこれが初めてだった。
”ふたりであそぶ”
その中から、さらに第3弾シーズンオータムから追加された”ふたりで協力”を選ぶ。
”遊びたいステージを選んでね!”
「どの曲でもいいですよ」
権助はそのクルクルさんの言葉に甘えることにした。
「実は、前から二人で遊ぶならコレと決めていた曲がありまして」
そう言って選んだステージは、「POPCORN DREAMING」。
「あ~、なるほど。自分、今”あのコーデ”持ってるんですけど……やりますか?」
権助が頷く。アイカツおじさん同士の以心伝心。
”セルフプロデュース、スタート!”
権助が取り出したのは、鮮やかなピンクが目を惹く「ガーリーアイランドコーデ」。それを確認したクルクルさんが、続けて「スカイアイランドコーデ」を読み込ませた。
”ガーリー&スカイユニット結成!”
この2着は、昨夏公開された『劇場版アイカツスターズ!』において、主人公・ゆめとローラが友情を確かめ合った双子ドレス。そして、これを着て歌ったのがこの「POPCORN DREAMING」であった。
♪ 笑顔と笑顔が かさなれば 夢は膨らむ ハズム リズム
ポップコーンみたいに弾けたら おしゃべり VERY VERY 楽しいね♪
~~~~~~~~~~~~~~~~~
”ひだりのおともだち”
”左の「緑ボタンを押してね!」”
”みぎのおともだち”
”右の「黄色ボタンを押してね!」”
”ふたりでいっしょに”
”中央の「赤ボタンを押してね!」”
~~~~~~~~~~~~~~~~~
曲が始まると同時に、見慣れぬ操作方法の説明が表示された。
(なるほど、三色のボタンを二人で分担するのか。これなら、小さなお子さんが難しくてクリアできないステージでも、隣でお父さんやお母さんが手伝ってあげることができる。実によくできたゲームだ。我々は成人男性二人組だが!)
既にお手伝いが不要な年齢に達している二人は、滞りなく譜面をこなしていく。
”トップスアピールチャンス!”
”ひだりのおともだち”
”ボトムスアピールチャンス!”
”みぎのおともだち”
交互にスペシャルアピールを出し、そして。
”シューズアピールチャンス!”
”ひだりのおともだち”
”みぎのおともだち”
最後は二人で一緒に。
曲が終わると、結果発表画面の前に、大きなハートマークの枠が表示された。その空っぽの中身に、ピンクと水色の綺麗なグラデーションが注がれていく。
”100%ベストフレンド♪”
同時に押した赤ボタンの精度から算出された二人の相性である。思わず、二人の「おお~」の声がハモる。さらに驚きはこのあと排出されるアイカツ!カードメイクにも続く。
「あっ、一枚のカードにマイキャラが二人とも映ってますよ!」
「うわー、これはいい記念になるなぁ」
「あ~、ポーズどうしよう……」
「背景、星とかでデコりましょうか?」
その姿、初めてプリクラを撮りに来た女子の如し。
(ああ、二人で遊ぶとこういう楽しみもあるんだな。こうして長い間アイカツ!で遊んでいても、まだまだ知らないことだらけだ……)
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「今日は本当に楽しかったです! ありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ楽しかったです!」
まだ午後三時とはいえ、風の冷たい梅田namco前。
権助とクルクルさんは別れの挨拶を交わしていた。
「それじゃあ、またどこか……と、キラキラッターで!」
「ええ、また!」
一瞬の邂逅を果たした二人のアイカツおじさんは、またいつもの日常へと戻っていく。
「………………………………」
「………………………………」
戻っていく。
「………………………………」
「………………………………」
戻って……。
「えっと…………帰る方向、同じなんですね」
気まずい沈黙を破り、権助が尋ねた。
「あ! いえ、実はこのあと心斎橋で元・STAR☆ANISの吉河順央さんの復帰ライブがあって」
「えっ!? ……実は、自分もなんです」
と、権助は懐からチケットを取り出して見せた。
「それじゃあ、一緒に行きますか!」
「ええ!」
今日の出会いは、もしかしたら一期一会なのかもしれない。
しかし、同じ方向を向いて歩いていれば、その道はいつでも交わることができる。
そこに『アイカツ!』があり、アイカツおじさんがいる限り、彼らの歩く道はこれからも続いていくのだ。
-おわり-
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