第3話 アイカツおじさんとステージに咲くふたつの華
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※この物語は、事実を基にしたフィクションである。
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「ダンシングディーバの新曲!? まさか今になって……」
2016年9月。
自宅でスマホを開き、日課の『フォトカツ』を立ち上げた権助は、その「おしらせ」項目を確認して驚愕した。
『アイカツ!』シリーズの楽曲を使ってリズムゲームを楽しめるスマホアプリ『アイカツ!フォトonステージ!!』通称『フォトカツ』では、現在進行形で楽曲の増えている『アイカツスターズ!』だけでなく、既に放送が終わった『アイカツ!』にも新曲が提供され続けている。
ゆえに、『アイカツ!』新曲の発表そのものは特別に驚くことではなかったが、問題は、それが「ダンシングディーバの新曲である」ということだった。
ダンシングディーバ。
それは、『アイカツ!』第130話『ユニットの魔法』にて結成された、”おどるイナズマ”黒沢凛と、”ステージに咲く氷の華”氷上スミレの二人が結成したユニット。その際立った歌唱力と華麗なダンスの組み合わせは、これまでに「チュチュ・バレリーナ」「LOVE GAME」といった名ステージの数々を生み出してきた。
しかし、二人の蜜月の時間は過去の物。
2016年3月に行われた大型ライブイベント『アイカツ!ミュージックフェスタ』をもって氷上スミレ歌唱担当である”もな”がAIKATSU☆STARS!を卒業し、ひとりのシンガー・巴山萌菜として旅立っていった。この時から、今後もうダンシングディーバの新曲は無いものと思われていたのだ。
それがまさか半年も経った今になって「もなが卒業前に収録していた最後の曲」が提供されるなど、青天の霹靂、恵みの雨、救援物資、命の恩人であり、とにかくアイカツおじさんたちは驚きと共に大いに喜んだのである。
♪バトンをつないで きらめくステップで 伝えたい FROM ME
今日だって ハロー・グッバイ 毎日がSPECIAL
「透き通った歌声に、気持ちの昂る躍動感あるメロディ……ああ、やはりダンシングディーバは素晴らしいユニットだな……」
権助は新曲『きらめきメッセンジャー』を堪能し、その曲でリズムゲームの最高ランクを出し、amazonで収録CDをカートに入れてから呟いた(セットプレイ)。ただ一つ惜しむらくは、もはやこの曲をライブで聴く機会が無いということだったが、これ以上を望むのは贅沢というものだ。
「ああ、『アイカツ!』というアニメやゲームが終わっても、彼女たちのアイドル活動はずっと続いているんだなぁ」
権助は、『アイカツ!』第146話「もういちど三人で」における、星宮いちごの台詞を思い出していた。
「私ね、世の中のアイドルとかみんなを照らすスポットライトって、ずっと動いてる気がするんだよね。ぐるぐるってね。ずっと、ぐるぐるぐるぐるね。だから、その時その時で照らされる人数は少ない。でも、照らされなかった人がいなくなるわけじゃない。だから、次のチャンスは誰にでも来るんだよ。その場所に立ってる限りね」
それは、劇中で行われた人気投票企画「アイカツ8」の選に漏れたアイドル達へ向けられた言葉であったが、同時に古参アイカツおじさんたちへの言葉でもあった。
『アイカツ!』は、アニメの話数やゲームの弾を重ねるごとに次々と登場人物が増えていく。その上、主人公交代に伴うレギュラーキャラクターの入れ替えもあり、最終的には主なアイドルだけでも30人近い人数となったのだ。
メインターゲットである小さな女の子たちは次から次へと出てくる煌びやかな新アイドルたちに目を輝かせる。そして、いつしか『アイカツ!』を卒業し、また新しい子供たちが『アイカツ!』や『アイカツスターズ!』を好きになり、また新しいアイドルに夢中になっていく。
それでいい。それでいいのだ。
しかし、アイカツおじさんたちに「卒業」は無い。
新アイドルへスポットライトが当たることにより、何年も前から応援してきたアイドルの出番が、台詞が、少なくなっていくのをただ見ていることしかできないのだ。そんな時、彼らはあの星宮いちごの言葉を思い出す。
照らされなかった人がいなくなるわけじゃない、と。
そうやって信じ待ち続けてきた結果、巡って来た「次のチャンス」が『フォトカツ』であり、このダンシングディーバの新曲なのだ。ありがとう『アイカツ!』。権助は関係各所に感謝を捧げながら、今はただ『きらめきメッセンジャー』に心を預ける至福の時を過ごすのであった。
だがこの時、権助を始めとするアイカツおじさんたちはまだ気付いていなかった。この曲の持つ、もうひとつの大きな意味に。
そして、運命のあの日……2017年3月26日を迎える。
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時は遡り。
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2012年12月10日。
彼女……藤城リエは、この日放送された『アイカツ!』第10話のライブステージ「AngelSnow」を見て、恋に落ちた。
アニメにハマり、データカードダスを熱心にプレイし、瞬く間に『アイカツ!』の魅力の虜になった。
それから二年半が経った、2015年6月28日。
NHKホールで行われた、『アイカツ!』初代歌唱担当、STAR☆ANISによる初の全国ライブツアー「SHINING STAR*」最終公演。
その場所に、藤城リエは居た。
彼女の『アイカツ!』愛は二年半という時間によって削り取られることはなく、むしろその大きさを増していた。一番くじに必死になったり、『アイカツ!』とコラボした商品を買い漁ったり、彼女の『アイカツ!』はずっと続いていた。
そして『アイカツ!』が三年目を迎えた時、彼女は再び恋に落ちた。
第102話「アイカツしよう☆Ready Go!!」にて登場した新キャラクター、”ステージに咲く氷の華”氷上スミレに。
その日から、藤城リエは前髪を切りそろえ、長いストレートヘアをトレードマークとした。氷上スミレと同じように。
氷上スミレのようになりたい、そう憧れた。
データカードダスを何度もプレイし、熱心にスミレのプレミアムドレスカードを集めた。しかし残念ながら、スノープリンセスコーデのトップスだけは揃えることはできなかった。
それから更に一年半後……2016年4月。
『アイカツ!』は放送を終え、『アイカツスターズ!』へとバトンを手渡した。
氷上スミレ歌唱担当・もなが卒業すると同時に、AIKATSU☆STARS!は新たなメンバーを迎えた。一人は、新主人公・虹野ゆめの歌唱を担当する「せな」。そしてもう一人は、そのライバル兼親友・桜庭ローラを担当する「りえ」である。
そう、その日から藤城リエは「りえ」となった。胸に抱いた憧れを現実のものとしたのである。
”夢は見るものじゃない 叶えるものだよ 輝きたい衝動に素直でいよう”
彼女の歌う『アイカツスターズ!』初代オープニングテーマ「スタートライン!」の歌詞そのものであった。
それから、瞬く間にまた一年が過ぎた。
2017年3月26日に開催が決まった『アイカツ!ミュージックフェスタ2017』。
このライブでは、『アイカツスターズ!』の楽曲はもちろん、一年ぶりに『アイカツ!』の楽曲も解禁されることが決まっていた。しかし、それには問題点がひとつ。氷上スミレの歌唱担当が既にいないということであった。
果たしてこの問題をどうやって解決するのか……会場に集まったアイカツおじさんたちは疑問に思いつつ、ライブを楽しんでいた。
そして。
その時が来た。
その曲は「LOVE GAME」。
黒沢凛と氷上スミレによるユニット・ダンシングディーバの持ち歌である。
そして、新たな氷上スミレとして壇上に上がったのは……りえであった。
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”わたしがスミレちゃんとして歌うかも。ごめんね。”
りえが二代目の氷上スミレに決まった時、彼女は相方である黒沢凛の歌唱を担当する”ななせ”へそんなメールを送った。
先代の”もな”が歌う氷上スミレがあまりにも大好きで、あまりにも大きい存在だったために、ミュージックフェスタという大舞台でスミレとして歌うことへの不安と恐怖に押しつぶされそうになってしまったのだ。
そのメールに、ななせから返って来たのは。
”なんで謝るの?怒るよ。一緒に頑張ろうよ。”
この言葉で、目が覚めた。
”わたしが好きなスミレちゃんに少しでも近づきたいと思ったし恥じないパフォーマンスをしたかった。”
”そこからは色んな意見を出し合って、ダンディバで一緒に歌えるなら最高にカッコよくやろうよって!”
それから、彼女は彼女なりのスミレを生み出すための特訓を始めた。相方のななせだけではない。先代のもなとも連絡を取り合い、新たなスミレを育んでいった。
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そして2017年3月26日、運命の「アイカツ!ミュージックフェスタ2017」開催日。
りえが大観衆の前でスミレとして、ダンシングディーバとして歌ったその時……止まっていた氷上スミレの時間は再び動き出したのである。
そのことを観客たちが本当に実感したのは次の曲であった。
「きらめきメッセンジャー」
多くのアイカツおじさんたちは、フォトカツで繰り返しプレイしていたのこの曲の真意をここで初めて知ることになる。
♪バトンをつないで きらめくステップで 伝えたい FROM ME
今日だって ハロー・グッバイ 毎日がSPECIAL
憧れのレジェンド キミがくれた いつかの想いを 今度は私が手渡そう
それは、”もな”から”りえ”へと手渡された”氷上スミレ”という名のバトンの物語。
そして、この時りえが身に纏っていたのは、もなから氷上スミレの魂ごと受け継いだ衣装……あの時、データカードダスで最後まで手にすることのできなかったスノープリンセスコーデであった。
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2017年4月30日。
あれから一ヶ月が経ち、『アイカツスターズ!』も二年目へと突入した。
この日、あべのHoopで行われた『アイカツスターズ!』として一年ぶりの大阪でのミニライブイベント。集まった多くの子供たちの前で、せなとりえは「虹野ゆめ」「桜庭ローラ」として新オープニング曲『STARDOM!』を披露した。
♪ 憧れは次の憧れを生む わたしはここだよ
震えるような高みへと 夢は夢を超えていく
今、憧れの目で彼女たちを見ている子供たちの中から、また次のバトンを受け取るアイドルが生まれるのかもしれない。権助はいつものように遠巻きに彼女たちのステージを眺めながら、そんなことを思った。
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2017年5月19日。
権助は仕事帰りのスーツ姿のまま、久しぶりに梅田ロフト前で行われているストリートライブステージへと顔を出していた。約半年ぶりに、”もな”こと巴山萌菜がゲスト出演をするからだ。
彼女はこの半年の間に二枚のCDをリリースし、東京と大阪でそれぞれワンマンライブを成功させ、今後もまだまだたくさんのライブの予定が詰まっているという活躍ぶりで、権助は「こんなに近くで見られるのも今のうちかな」と嬉しさと寂しさを噛み締めながら、彼女の澄んだ歌声に耳を傾けていた。
AIKATSU☆STARS!を卒業した当初はアニソンのカバーを中心に歌っていた巴山萌菜であったが、だんだんとオリジナルソングの数も増えている。そんな彼女が今、一番伝えたいという歌が、この日最後に歌った新曲『cu letters』。
♪花束のようなきらめき 新しい時間の始まりを告げる
歌わせてくれた 会いに来てくれた あの日もこれからもありがとう
五線紙の上の文字のメロディー あなたに届ける
この作詞を手掛けたのは只野菜摘。
『アイカツ!』時代に、氷上スミレの曲をずっと作り続けてきた人物であった。
氷上スミレというアイドルが繋ぎ、育んだ二つの華は、
今日もステージの上に咲いている。
- つづく -
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参考資料
2016/11/9 巴山萌菜 オフィシャルブログ
2017/3/30 藤城リエ オフィシャルブログ
2017/3/22配信 ニコニコ動画「第十五回もなもな生放送」
2017/4/10配信 ラジカツスターズ! 第53回
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