第45話 奔走
いけない。
山吹は日暗の告発文を手に、日暗の家を飛び出した。ツタの森を抜け、桂の林を抜け、実習棟に向かって走った。
告発文には黒い空と白色結晶を処分するまでの計画が簡潔に書かれていた。
日暗は灰谷が天上に戻ってきた翌日、灰谷を1日眠らせ、地上の門のパイロット、佳也と共に研究層に行く。霧絵の具製作所の白色タンクを破損。
さらに次の日、灰谷を最上層に潜ませる。夜に紛れて黒色結晶を使って空の階段に押し入り、黒い空にする。日暗は灰谷を逃がし、容疑者となるように仕組む。佳也は日暗として病院に入り、日暗は佳也になりすます。
霧絵の具製作所の所長を脅迫して白色結晶の在り処を聞き出し、爆破する。多数の場合、証拠隠滅の利点を与え、いくつかを所長自身に爆破させる。最後の結晶が残る学校に灰谷に行かせ、逮捕させる。
霧絵の具製作所所長に結晶の使い方を決める修復会議を開かせる。この隙に現場に白色結晶の使用するという情報を流し、階段をカラにする。
そして残された学校の白色結晶を空の修復に使う。全てが終わった後、灰谷は真実を口にする。
きっと灰谷さんが日暗の言うことを聞いたのは、小夜のためだ。小夜が現れるまで黙っている気だ。だから日暗は小夜に「時間まで出るな」と言ったんだ。
小夜のことは一切、書かれていない。本当は研究層に連れてくるつもりはなかったのかもしれない。小夜は青人が階段で見た時、紅のアトリエに行った時、少なくとも2回は脱走している。それでも小夜を縛り付けなかった日暗を、山吹は非情な人間とは思えなかった。
小夜が最後に飛び出したのは、灰谷と日暗のためじゃないか?
もう1つ書かれていないことがある。使いもしない黒い部屋の絵の具を割ったのはなぜか? 灰谷に部屋の鍵を持たせても、その意味を知っている人はごく限られている。
自分が犯人であると誰かに暗示させたんじゃないか?
学校は光の輪となって現れた。ガラスの建物に飛び込み、円形の廊下を駆け抜ける。白い部屋の前に立っていた梨木が山吹に気付いた。
「どうした?」
山吹は荒い呼吸のままに尋ねた。
「白先生は?」
無言で立っている梨木に封筒を突きつけた。
「日暗の文章です。結晶を使って空を修復するって書いてあります。それから、黒い空にするまでのことも全部」
梨木は外へ飛び出した。山吹は後に続いた。白色結晶がすでに部屋を出たのだと悟った。
空の階段までの道に誰かが倒れていた。駆け寄った梨木が「白さん!」と声を上げた。いくら呼びかけても、白陽は起きない。一体、いつから倒れていたんだ?
「通報しろ! 病院と警察だ。急げ!」
梨木の叫びに、山吹はきびすを返し、走った。先に出た紅と小夜はまだ警察署に到着していないだろう。警察署には青人もいるはずだ。
間に合うか?
白と黒の空を泳ぐ雲は強風に吹かれ、ものすごい速さで流れている。
速く、早く、はやく。風は山吹の心も急き立てるよう、吹き抜けていった。
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