第16話 夕日色の部屋

 少女が目を覚ますと、目の前に懐かしい色が広がっていた。それは、淡い夕日色に染め上げられた天幕だった。黒い服の彼女までも染まってしまいそうな優しい色だ。少女は柔らかなベッドの中にいた。サイドテーブルのスタンドからほのかな明かりが漏れている。

 どうしてここに……? 真っ暗な森をさまよってからの記憶がない。こんなに温かいところにいるのが、不思議だ。彼女がいるのはいつも、暗く冷たい場所だった。


 呆然としていると、部屋の扉が開き、入ってきた相手に驚いた。

「お姉さん?」

「目を覚ましたのね」

 その人は姉ではなかった。でも、きりりとした顔立ちも長い髪もよく似ている。

「あなたのお姉さんに似てるの?」


 少女が顔をじっと見て頷くと、その人は微笑んだ。

「わたしは紅と言うの」

「......わたしは小夜です」

落ち着いた声の響きにつられ、小夜は自然と名乗ってしまった。

「小夜ね。よろしく」


「あの、わたし......」

 言葉がすんなり出てこない。小夜が言うより先に、紅は意思をくみ取った。

「あなたは外の畑で倒れたの。覚えてない?」

 小夜はぎこちなく頷いた。ここがどこか分からないが、迷い込んだことは確かだ。闇の中で起こったことが、どこから現実だったか夢だったか、自信がない。むしろ、この柔らかな灯りの部屋の方が夢のようだ。


 戸惑っていると、紅が微笑んだ。

「気分はどう?」

「......」

「まだ休んだ方が良さそうね」

 小夜は目を伏せて頷いた。

「わたしは隣りの部屋にいるから、何かあったらいつでも声を掛けて」

 紅は部屋を出ていった。

 小夜は美しい色に安らぎを覚え、胸が痛んだ。

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