第五十二話 冒険者指南③

    ◇


 自宅に向かいながら、今日のことを振り返る。

 精霊召喚術というのは思いのほか難しい。けれどその分、習得している人は少ないだろう。出来ることが増えるのは、役割が増えるのと一緒だ。だからちゃんと頑張りたい、のだけど。


 風の精ウェンティーは、シクストの呼びかけに応えた子とは穏やかに接することができた。しかし、いざカディナが詠唱をしても柔らかな風が吹くばかりで、結局呼び出すことは出来なかった。

 他の属性の精霊も試して、試して。結局呼び出すところまでできたのは、光の精ルキスだけだった。


 先生――もとい、シクストからは、カディナが光の精を召喚できたことにはへとへとになっていたので、今日はここまでと言われてしまった。白の薄氷亭まで届けてもらってしまったので、感謝しかない。


「基本的な魔法は使えて、精霊も一体召喚できる。駆け出しパーティーでは珍しいと思うよ」


 そう言ってくれたのだけれど。どうだろう……。

 色々と考えだしてしまう頭を振り、歩くのに集中すればいよいよ門が見えてきた。その横には、


「……あれ、奇遇。どうしたの」

「マスダさん! お久しぶりです。わたしは丁度帰るところで――マスダさんは、何故ここに?」

「心配しなくても、中は入ってないよ。依頼帰りに通り過ぎただけ」

「心配は、してないですけど……」

「した方が良くない? まあいいや」

「あ、ま、待ってください……!」


 じゃあね、も何もなく身を翻して帰ろうとするマスダを慌てて呼び止める。無視も覚悟で言ったのだけれど、マスダは普通に立ち止まり、振り向いた。


「何?」

「ええと、今日。魔法の練習をしたんです」

「へえ、お疲れ」

「ありがとうございます! それであの、ちょっとずつ色々覚えてる‥…つもりです」

「頑張ってるじゃん」

「……!!」


 その言葉だけで、有頂天レベルで嬉しくなってしまった。緊張が解かれて、緩んだ表情でふにゃふにゃと微笑んでいる。


「いつか、マスダさんのお役に立てるように、頑張ります!」

「おー、ありがと。……じゃ、またね」

「はい! 失礼します」


 ぺこりと頭を下げて、大きな門の中へとカディナが消えていく。それを何となく視線で追うも途中で止めて、改めて帰路に就いた。扱いの面倒くさい聖女の送迎と護衛、ついでに教会まで連れて行ったら何が起こったかを事細かに離すことになり、精神的にそこそこ疲れたのだ。


 くわぁと隠すつもりもなくあくびを漏らしながら、白の薄氷亭を目指す。翌朝に向けて、低レベルの冒険者向けの依頼が既に張り出されていた。


 ――こういう類は取り合いになるんだよなあ。


 比較的真っ当な冒険者たちの狙い目の依頼内容だ。早い者勝ちなので、早朝からどたばたと選んでいる音が、まだ布団の虫状態のマスダにまで届くことも多々ある。

 あの子は何から受けるんだろ、と少し考えた末に考えることに飽きた。湯屋には寄ったし、良いだろ。とベッドへダイブする。夜の仕事まで、まだ時間はあるのだ。昼寝――という時間でもないが――くらい、許されるだろう。


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白の薄氷亭に集う狗〜悪役系高レベル冒険者達の暇潰し/金稼ぎ〜 真嶋 @m-j-m

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