第七話 依頼完了
「マイア!」
「お姉ちゃん……!!」
感動的だなァ、とマスダは三姉妹の再会の様子を見守る。届けられた"御神体"を手に村長を名乗る老人を筆頭とした村民の複雑そうな表情も面白いが、それよりは目の前の光景の方が面白い。
ここまで走り通しであった馬――アンタレスといったか。彼も変わらず落ち着いた様子で三姉妹を見守っている。冒険者の相棒ともされるこの馬は「24時間寝て24時間走る」とも評される通り、まだまだ余力があるようだ。中堅冒険者の彼女たちからしたら、とても頼れる存在なのだろう。父親みたいな。知らんけど。
◇◇
「あの、本当にハルラックまでお送りしなくて良いんですか? かなり距離もありますし、大変なのでは」
翌朝。
流石に道がまだ直っていないだろうと修道都市モリーの宿にて一晩を明かした一行は、正門前で別れようとしていた。良ければ乗っていかないか、というクレアの誘いをマスダが断るのは、これで三度目となる。よっぽど恩を感じているらしい。
「うん。ま、帰りは護衛なしで頑張って」
そう言われると、これ以上は護衛をしてくれと言うに等しくなってしまう。本当に足はいらないのだろう、と納得し、クレアは改めて頭を下げた。
「……この度は、ありがとうございました。お陰で無事ここまで辿り着き、妹を失わずに済みました」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
姉に続き、妹二人もぺこりと頭を下げる。
「じゃあね」
「はい、またお会いした時はよろしくお願いします!」
クレアの声にひらひらと手を振りながら背を向ける。
またお会いしない方が健全だと思うけど。心の中で一人呟きながら、マスダは目的地へと足を運んだ。荷馬車の走り出す音が聞こえだすまでは、随分と時間が掛かった。
◇◇
「お前……見張りはどうした」
「んー?」
驚愕に見開かれた老人の目が、逆光に照らされるマスダを映す。ロッキングチェアから立ち上がったその脚はかたかたと震えていた。
「答えよ!」
「知る意味無くない?」
「なにを、……キッ」
奇声を一音。
断末魔になり損ねた声を最期に老人はぐちゃりと倒れ伏した。後頭部を強かに打ち付けていたが、もうそんな痛みも分からないだろう。良かったね。
喉から吹き上がる血をバックステップで避け、血の付着したナイフを仕舞いながら室内を見渡す。昨日の今日とはいえ一日空いている。奥底に隠されていたら面倒くさいなあと思うも。
「お」
部屋の隅の箪笥へ近寄る。その陰、掛けられた風呂敷を除けると、鍵のついた箱が現れた。ポケットから取り出したピッキングツールで邪魔な鍵も除去し、中身を拝見。
「御神体、ね」
三姉妹の一人――ユリアだったか。彼女が抱えてここまで運んできたそれは上質な布で丁寧にくるまれていたので、中身を見るのはこれが初めてだ。
マスダの荷物の中で、魔力感知のマジックアイテムが激しく反応している。正体は、これも同じくマジックアイテムだ。御神体と呼ばれるようなものではないし、一般的に流通している魔法が込められたようなものでもない。。例えば、そう。何かの封印を解く鍵になるような、そんなもの。
「……ま、もうお役御免だけどね」
ユリアの捕らわれていた祠は爆破して封鎖した。この村にいた数少ない住民はもういない。
廃村を隅々まで探すような物好きが現れても、封鎖された祠の中に何とか立ち入っても、鍵はマスダの手の中だ。暫くは安泰だろう。
"御神体"を荷物袋に突っ込み、元村長の家を発つ。ハルラックまでの道のりは長いが、足取りは軽い。なんせ良いことをした後だ。気持ちが良いね!
――依頼料:2000Rを手に入れた!
――アイテム:開扉の魔球を手に入れた!
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