第十二話 交渉①
「依頼の話を続けよう。あんたでも、あんたの主人でも良いんだけど。デバラ・アクエルっての、偽名だよね。……あー詮索したいわけじゃないよ、こっちも。あんたの信頼を得るために言ってる。最初は冒険者への依頼も不慣れな貴族サマからの依頼だと思ったんだけどね。きっかけは場所。この地図――その辺の市販品にしては結構精度高いんだけど、依頼書で示してる場所には特に街も村もない。普通の地図には載ってないレベルの規模。そんな村がある。冒険者やってる甲斐があるよね。この辺りも通ったことあるし、この目で見たから間違いない。……まあ、潰れてなきゃだけど、わざわざ依頼持って来たんだしまだ存続してるんでしょ。どんな村だったか? そっちの方が詳しいと思うけど。民家に比べてでかい家がひとつあるのが印象的だった、静かなトコだったよ。で、こんなところに金持ちサマが何の用か。この村の近くには広い森林地帯がある。森を突っ切って暫く行くと、海辺の街オリトニアが見えてくるんだよね。海辺の街、って言われてるだけあって、船の往来で賑やかな貿易港としても有名な街。ハルラックとは交通の不便さであんまり交流は無かったけど、最近になって街道が完成した。こうして、森を通らずに迂回する形で。森の外にはこの村があるし、そのまた向こうには砂漠地帯に足場の悪いちょっとした山脈。全部避けないといけないから、随分と大回りする形になる。村を通してもらえれば、だいぶ近道できるのにって思える程度にはね。とはいえ、一往復するだけならタイムラグは数日分。旅行か単発の仕事なら余裕をもって出発する手がある。急ぎたいなら護衛雇って森を進むのもアリ。でも、あんたたちはどちらも選ばない。何故か。一回きりじゃなくて、何度もハルラックとオリトニアを往復する必要があるから。最近繋がったばかりの街と繋がりを強めたい。それも、出来るだけ早く。あんたたちの商売を軌道に乗せるために。ただの貴族サマじゃなくて、商人家。それも新しい航路を必死に探す、最近出てきたド新参者。そこまで情報が出てきたら、後は簡単。一致している中で、オリトニアと貿易している家を探せばいいだけ。依頼元はアクエルさんじゃなくて、エルクァさんだ」
殆ど一方的に喋り通していたマスダが一息つく。
「誤魔化したいなら聞くけど」
「いえ、結構です。貴方の言う通りだ。――改めて。申し遅れましたが、私はズミ。エルクァ家に仕える使用人と捉えていただければ」
「あっさり答えるね」
「商売と同じく、此度は信用を得るために必要だと判断いたしました」
「へー」
あんな穴だらけの推理でまあ、と思いつつ、シクストは様子を眺めるに徹していた。
「でもまだ、報酬が安いと思う程じゃないでしょ。今までの仮定が正しいとするなら、後の流れも想像できる」
「喋り足りないのか」
「シクストが代わりに話す?」
「つい口が滑っただけだよ、気にしないで」
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