第十三話 交渉②
「この村を通れるようになれば、エルクァさんのでかい利益になる。こっちの大回りする街道よりも往復で数日分早く到着する。他所の家よりね。今後オリトニアと長く付き合うことを考えれば、どれだけのアドになるかって言うのは、商人じゃなくても分かることだろ。逆に考えれば、この依頼が俺にしろ俺じゃない冒険者にしろ完遂出来ないのであれば、エルクァさん家的には大損だ。他にもあてがあるような軌道に乗り切った安定してる家ならともかく、ドがつく新参者の成り上がり商人には大打撃だろ。ここまでが依頼の価値について。次は、依頼の難易度の話をしようか。ゴブリン討伐。これだけならありふれた、駆け出しの冒険者がまず手を付けるようなモン――駆け出しならそのまま帰ってこないパターンも多々あるけど――、200Rが相場ってのは、いつでもどこでも貼ってあるような依頼だから、わざわざ自前で依頼書準備するような人なら見たことくらいあるんじゃない? まあ、それはともかくただのゴブリン討伐なら1500Rは破格。討伐対象数が馬鹿の量でもここまで跳ね上がらない。上がるとしたら、例えば魔法か何かの影響で馬鹿みたいに強くなったパターン。これだけなら冒険者に頼むまでも無い。ハルラックでもそれ以外でも、騎士団なり自警団なりに報告すれば対処してくれる。強化ゴブリンが街道に出てきても困るしね。寧ろその方がエルクァ家の報告のお陰だって、報告する相手によっては大々的に言ってくれる可能性もある。冒険者よりはよっぽど宣伝効果が見込める。だからこれはナシ。次は、絶対に他言せずに遂行してほしいパターン。これはデカイ組織に頼む限り一切漏れないなんて不可能だから、ゴブリンが強かろうと雑魚であろうと騎士団なんかよりは冒険者に回すのは納得。でも、白の薄氷亭に依頼を出す必要はない。同じくらいかそれ以上に信用されてる冒険者ギルドもあるしね。名の売れてる冒険者パーティなら口を滑らせる心配はない。それこそ信用問題だし。
調べがついていることは十分に理解できただろう、と一度言葉を区切る。
「よくご存じなのですね。地図にも乗らぬ、小さな村だというのに」
「そうだね。そういうの詳しい奴がいるから」
マスダが村の近くを通りがかったことがあるのは事実だが、エルクァ家だとかクラド家だとかそういった話は、軽口を叩いてる間にシクストから
ついでに言えば推理の真似事も、シクストのロールプレイのようなものだ。その本人はガバガバだなあと言いたげな目でマスダを見ているが、それはそれ。精度が甘かろうと、依頼人と答え合わせができたならそれで良い。。
「絶対に失敗せず、誰にもバレずに、それなりに名のある商人家が糸引いてる一家の殺害。あってる?」
「……ええ。間違いございません。そこまでご存じなのであれば、隠す必要はございませんね」
「最初からそうしてくれれば、俺の舌も疲れなくて済んだんだけど」
「このような依頼を出すのは初めてなもので――無礼をお許しください」
表舞台で活躍し始めたばかりの新米商人家が、何度も出すような依頼内容ではない。
「それは報酬次第かな」
喋り疲れた口をティーカップの中身(濃厚なミルクティーはすっかり冷めていた)で潤しながら笑みを浮かべる。依頼人、ズミは頷いて依頼書の報酬部分を訂正してみせた。
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