第二十話 相談

 他のメンバーからは「リーダーと参謀の意見に従う」と言われてしまったため、リードは自らが所属するパーティ――小鳥隊の参謀と呼ばれる男、ノクトと自室にて顔を突き合わせていた。


「……親父がきな臭いと称する、割の良い遺跡調査の護衛か」

「ああ。そもそも遺跡調査の時点で、危険は考慮すべきだろうが」

「ふん。僕たちのところに依頼書を持ってきている時点で、その辺りの不安要素はすべて覚悟のうえなんじゃあないか」


 顎のラインで綺麗に切り揃えられた髪を揺らしながら、ノクトが息を吐く。


「直球で聞いてやろう。リーダー、何故その依頼を受けたいんだ」

「……そうだな。彼抜きでも駆け出し向けの依頼は熟せているが、こういうタイプの依頼は避けているだろう。彼の技術があれば安心できるが、仲間とはいえいつまでもおんぶにだっこでは成長できない」

「それは、アイツに限った話ではないと思うが?」

「もちろんだ。何かしらの理由で誰かしらが欠けた場合でも、私たちは常と変わらず依頼を熟せるようになる必要がある。ただ、現状では彼の比重がかなり重いのは確かだ。現にいない間は中堅向けの依頼は避けている」

「……」


 リードの言葉に、顎に指をかけて少しばかり考えるそぶりを見せた後、ノクトは小さく口を開いた。割と嫌そうに。


「……認めたくはないが、その通りだな。遺跡調査ともなれば、盗賊染みた技術や器用さに頼りっきりになることは目に見えている。幸い、直近の依頼で罠の解除の類には慣れてきたところだし……」

「何より、私たちは冒険者だ。挑戦も必要だろう」

「……そうだな」


 こくりと互いに頷き、話は終いだと立ち上がる。

 結果を仲間に伝えて、後は依頼へ赴くだけだ。



    ◇◇



「え、……なんで出かける準備万端なの」


 青鳥の止まり木、の文字が躍る鳥を象った看板。その前で小鳥隊と呼ばれる五人のパーティメンバーが揃い、正に出発しようとした瞬間だった。

 音も無く駆け付けた軽薄さを捏ねて作られたような青年が、茶髪を揺らしながらリードへ問いかけた。


「マスダか」

「マスダですけど……その格好、ただのお出かけって感じじゃないよね」

「これから依頼を受けに向かうところだ」

「依頼!?」


 返された言葉に、マスダと呼ばれた青年が露骨に反応を示す。


「え、なんで。俺は? 俺も行く」

「お前は留守番していてくれ」

「なんで!?」


 軽く断られ、堪らず絶句しかける口を何とか動かす。


「なんで……え、まさか噂のパーティ追放ってヤツ……? 俺なんかした!? めちゃくちゃ役に立ついたら超便利ポジのつもりなんだけど」

「軽さと調子乗りなところとたまに見せる人でなしっぷりには呆れることもあるが」

「リード!?」

「落ち着け」


 慌てた様子で取り乱すマスダとは対照的にリードは至って落ち着いた様子で、穏やかな口調で続ける。


「私たちにも、成長が必要だ。マスダ、お前は確かにとても頼りになる。気配に敏感だし、気が付けば先回りして罠を解除しているし、戦闘能力も高い」

「え、ありがと」

「だからつい頼ってしまうが、いつまでも頼りっぱなしというわけにもいかないだろう」

「頼りっぱなしでいてくれて良いけど」

「私たちにも成長が必要だと言っただろう」

「……でもさあ、今までだってちょいちょい討伐依頼とか俺抜きで行ってたじゃん。なんで長期依頼っぽいのまで置いてくのさ」

「今回、遺跡調査の護衛依頼を受けるんだ。少し調べたところ、ゲイザーも出るらしい。正にお前に頼りっきりになりそうな依頼だろう」

「そんな楽しそうなのに! 連れて行ってくれないの!?」


 ゲイザー、と呼ばれるのは「目玉のモンスター」だ。大きな一つ目であったり、球体に複数の目がついていたりと目の数に差はあれど、基本的な能力は変わらない。充填した強力な魔力による、一撃必殺とも言える石化能力だ。魔法防御力も高いので、次々と放たれる石化魔法を避けながら、物理的に攻める必要がある。

 器用さに敏捷性。そして大胆かつ的確に急所を攻める物理攻撃。

 どれもがマスダの得意分野だった。暗殺者みたいだな(笑)とはパーティメンバーの談である。


「……喧しいぞマスダ」

「ノクちゃんまで」

「ノクちゃんと呼ぶな」

「痛っ」


 小鳥隊の参謀、ノクトが黒の手袋に包まれた指先でデコピンをかます。布ごしにそこそこに良い音を立てて、マスダは額をおさえた。


「今回のお前の役目は留守番だ。聞き分けろ」

「……」

「帰ってきたら一杯奢ってやろう。分かったな」

「はーい……」


 納得しきれてなさを露骨に表情に出すマスダの頭を叩いたり撫でたりしながら、五人の男女は出発していく。どんよりと凹んだ様子を隠さぬマスダを憐れんで、こっそり様子を窺っていた青鳥の止まり木のマスターは、そっとブランチに誘うのだった。



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