第十七話 依頼完了

(……三人か)


 扉の向こうに気配をみとめる。二手に別れた方が速いだろうとシクストは扉へ、マスダは階段へとそれぞれ歩みを進めた。

 階段の先には、部屋は一つしかない。迷わず開けばいびきが耳についた。大きなベッドに、大きい個体がひとつ横たわっている。

 手にした剣を迷いなく突き立てる。二度、三度。ぐちゃりと肉を割く音は、音はすぐに鳴り止んだ。


 切っ先を持参した布で拭いながら、部屋の奥の扉を開く。

 大きなベッドに、ふたつ。小さな箱に、小さいものがひとつ。

 歳の頃を見るに、ひとつ前の部屋のものが小屋の主だったのだろう。……主人だろうとその他だろうと、大した差はない。寝ているのだから尚更だ。

 要領も何もなく、ただ作業のように剣を振るう。


(二階はこれで最後かな)


 オスの個体の胸元を剣先で探る。後生大事にするように財布が仕舞い込まれていた。剣先にひっかかったそれを、無造作に床に放る。重さもほとんどなく、木の板とぶつかる乾いた音が虚しいだけだった。


(ほんとに金無いんだ)


 ひとつ前の部屋でもとりあえず同じことをして、財布の中身が空っぽなことを確認して適当に室内を荒らす。金目のものは殆ど無かった。

 怠さを隠さずに下の階へ戻れば、既にシクストが待機していた。


「流石、早いね」

「全員寝てたし。……帰ろ。罠処理しといてね」

「はいはい」

「テキトーで良いからね」

「はーい」


 玄関に張られた罠に、音が鳴らないよう留意しながら手を加える。そこそこ手先の器用なものが、急いで解除したような有様になった。

 扉を出れば、二匹のコボルトは未だ深い眠りの中にいる。


「あいつらどうすんだろ。食うところ無さそうだけど」

「……」


 マスダの独り言にあからさまに引いた目を向けて、シクストは帰る足を早めた。


    ◇


 翌朝。

 約束通りの時刻に集会所に赴けば、昨日の地獄のような空気が一転、歓迎ムードで出迎えられた。


「ありがとうございます、ありがとうございます……。これでようやく、神に祈りを捧げられる」


 彼らの想像する安寧の日々が訪れるかは、クラド家とエルクァ家次第だろうが――敢えて伝える必要も無い。止まぬ感謝の声を聞き流しながら、マスダは口を開く。


「そういえば、犬が二匹いたんだけど」

「……ああ、申し訳ない。このところはめっきり弱っていて吠えもせんものだから、危険性をお伝えできておりませんでした」

「それは良いけど。特に何もしてないから、あれの処遇はそっちで何とかしてね」

「ええ、勿論です」


 老人がこくりと頷いて微笑む。どうするかは――まあ、何となく想像がついた。


「あとは、エルクァ様とのお約束通り、口を噤ませていただきます。街道から外れた小さな村とはいえ――あの家は少しばかり目立つ。迷い込んだ野盗の目にも入りましょう」

「そうだね。よろしく」


 まだ痛むであろう身体を深々と折り曲げて見送る村人たちに背を向け、小さな村を後にする。最早誰の目にも映らなくなっただろう距離に達すると同時に、シクストが小さく息をついた。


「なんか魔法使ってた?」

「認識阻害」

「あー、シクスト目立つもんね。……俺には掛けてくれてない?」

「お前は目立たないから大丈夫でしょ。地味だし」

「……まあそうなんだけど」




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