第二十八話 第三の依頼

 銀髪の男も少々驚いた――というより、やや引いたような視線を向けている。が、カディナに二人の表情を窺う余裕はなかった。


「……依頼料は」

「へ」

「依頼料。……ああ、あんたじゃなくて、俺が払う側ね。いくら払えば良い」

「へ、あ、えっと……」


 それはつまり、マスダがカディナの提案に乗ったことにほかならない。が、するりと話が進んでしまって、問いかけに対する答えがすぐには出てこなかった。そもそもカディナはこういった場合の相場を知らない。


「じゃあこれ」


 言葉に詰まっていると、無事な方の腕がまだ腰の抜けたままのカディナの両足に袋を落とした。じゃら、と音を立てて着地したそれは、持ち上げてもいないのにずっしりとかなりの重みを感じさせる。


「8000R入ってる。それで受けて」

「8000……!?」

「足りない?」


 そんなわけがない。


「じゃあそれで。西門だよね」

「ま、待ってください!」

「なに? 急ぎたいんだけど」


 依頼料を全額先払いした依頼人であるがゆえか、元々の性格なのか。さっさと先に進めようとするマスダを制し、ふらりと立ち上がって銀髪の男の目を見つめる。


「あの、お願いがあります」

「僕に?」

「貴方も、ついてきていただけませんか。わたしからの依頼です」

「内容は」

「道中、マスダさんの治療をお願いしたいです。依頼料は……8000R、ここにあります」


 両手で持っても尚重たい袋を、男に突き出す。疲労も相まって腕はぷるぷると震えていた。


「……行き当たりばったりにしては機転を利かすね」


 肯定的な返答。しかし変わらずすらりと立った青年は、伸ばさなかった手を自身の細い顎に添えて首を傾げた。


「治療するにしても、何の用意もなく移動しながらじゃその腕、完全には治せないよ」

「え、マジで?」


 軽く返したのは、早くしろと言わんばかりの視線を向けていたマスダである。


「くっついてるだけまだマシみたいな状態の怪我なんだから当然でしょ。傷は塞げるけど、軽い麻痺は残るだろうね」

「えー……ほっといたら?」

「そのプラプラしてるところとは今夜でお別れだろうね。最悪出血多量で死ぬんじゃない。腹もざっくり抉れてるでしょ」

「そ、それは……」


 治療をしなくては最悪死に至り、治療をしても後遺症は残る、という言葉にカディナが狼狽える。


「死ぬよりは全然マシだし。来てくれるなら俺も嬉しいな」

「……ま、良いよ。面倒見てあげる」

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 受諾し漸く皮袋を受け取った男に、カディナは深々と頭を下げる。


(……お礼言われる相手が違う気がするけど)


 その様子を眺めつつ、言っても無駄そうなので心の中で呟くに留めた。

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