第25話 ハイエンドピエロ
《次で終わりかぁ》
《名残惜しいけど……今日はこれを聞きに来たと言っても過言ではない》
《やっぱり最後は……?》
「――――"タイム・イズ・オーバー……ピエロのサンカ、ご覧あれ!!"」
《来たァァァ!》
《っぱこの曲だよなぁ!》
《ハイエンドピエロだぁぁぁあ!!》
『ハイエンドピエロ』、導化師アルマの5周年ライブにて初公開。
リリースから5年経った現在の再生回数は驚異の1億越え。
「"ボイスとフェイスで魅了する 必中貫通投げナイフ"
"君も道を化かしてみるかい? 心を手玉にジャグリング"
"アイアムトランス キラキラアナザー ライイズラブ クラクラなアザー"」
癖になるメロディに情緒溢れる歌唱力、聞く人全てを惹きつけ親しまれ続けている。
そしてこの曲一番の沼は歌詞の解釈。
「"仮面の下はどんな顔? そんなの知ってどうするの?"
"愛想もない。愛嬌もない。知らぬが仏の素顔"
"だから私はアタシになるの 理想の自分を演じるの"
"映える舞台爆ぜる歓声 アタシの居場所はここだけだ!"」
一見すればこの曲は『道化を導く道化』という導化師アルマのコンセプトに沿ったもの。
VTuberを道化に見立て、苦悩するVTuberを
「"オンステージ 喝采のウェイブライト"
"嘘色クラウンをかぶれば このハイエンドなピエロに釘付け♪"
"ランラン会場沸かすのは 妄想具現のジョーカー"
"サンハイ唱和プリーズミー フェイクだからこそ美しい"
"惑わしてやる さあ一緒に世界を偽ろうぜ!"」
《ハイ!ハイ!》
《相変わらず神曲すぎるぅ!》
《マジで何年経っても色褪せないな》
しかし導化師アルマというキャラクターの背景を深掘りすると、この曲の解釈は違ったものになる。
「"咲き続けろと水をやり 超熱量が期待生む"
"擦り減る心、一雫 錆びゆく刃の拷問"」
導化師アルマのキャラデザイン、額につけられた赤鼻トナカイの仮面は、とあるVTuberを模したものという考察が挙げられていた。
「"ミュートボイス カラカラなスロート メルトメイク ドロドロなフェイス"」
10年以上前、『雪車引グレイ』というトナカイモチーフのVTuberが存在した。
「"苦しむ姿はもう見たくない 偽物でもかけがえない本物"
"休んでくれと願う君……アタシの気持ちも知らないで"」
VTuberがブームになる前の先駆者、雪車引グレイは2年近く活動したところで引退したと言う。
本人は一身上の都合と報告したらしいが、引退原因についても考察という名の邪推が残されていた。
その中で最も有力なのは、声帯の故障だった。
「"もっと見てよ。嗤ってくれよ! 君の最推しを独占させてよ!!"
"一月一年十年先も、ずっと好きでいてくれる?"」
喉の不調で引退したトナカイモチーフのVTuber。
そして後に続くようにデビューしたトナカイの仮面を着けた導化師アルマ。
「"フォーゲット 惨劇は終わらない"
"ヒビ割れクラウンを乗せても このハイエンドなピエロもお手上げ"」
二人の物語こそが『ハイエンドピエロ』の歌詞の本当の意味なのではないかと。
そのような考察が曲の人気を加速させた。
「"乱嵐陰口放題の タネ暴かれてるトリックスター"
"惨敗道化はクチナシ 反論せぬまま終幕"」
どれだけ考察されても導化師アルマはノーコメント、一切言及しなかった。
ここまでが世間の考察。
「"くらましてやる さあ孤独に世界を偽ろうか……"」
《くっ……胃が痛い……》
《分かってても2番は辛いよなぁ……》
そして、ここからは「私」個人の考察。
「"世界は舞台 人は役者で 演じていたのは灰色道化"」
中の人と交流し、何度もコピーして導化師アルマの投影を繰り返した。
ここまで同じ人をコピーし続けたのは初めてだ。
おかげで導化師アルマの心情志向はおおよそ把握できた。
「"道化ですらない君は何者? 過去の語りがブーメラン"」
その上でこう思った。
導化師アルマはこの曲、『ハイエンドピエロ』を全力で歌ったことがないんじゃないか?と。
本来の彼女なら絶対にこう魅せるはず、そう感じる部分で彼女はどこか手加減しているように映った。
「"生きるべきか死ぬべきか 上手に生きる台本をください"」
手加減する理由があるとすれば、それは彼女の部屋で見つけたグッズ。
彼女が『推し』と答えた、グレイという名のキャラクターへの遠慮のように思う。
「"馳せる過去果てる幻想 アタシの居場所ないなった……"」
導化師アルマにどんな過去があったのか全て知っているわけじゃないが、彼女にとって『グレイ』という存在は足枷になっているような気がした。
「"――――ないならゆこう 新世界"」
だから私はここで、その枷を外してみたいと思った。
「"君が幸福を教えてくれた だから次は私の番だ"」
《おお……おお?》
導化師アルマの最高のパフォーマンスを全世界のファンに見てほしいから。
「"君と見た夢が潰えぬ限り――――私の未来は輝ける"」
《なんか……ライブでテンション馬鹿になってるだけかも知れないけど……》
私が魅せられる最高品質の導化師アルマをここに顕現させる。
「"スタンダップ 閉幕にゃまだ早い"
"剥がれ落ちても這い上がれ こんなバッドエンドは誰もが望まない"」
《今までよりクオリティめちゃ上がってない?》
それは今ステージに立っている
「"ショータイム 開闢はここから!"
"似合いのクラウンをあげるわ このハイエンドなピエロにお任せ♪"」
《すげぇよ……最高の曲だと思ってたのにまだ上があるのかよ……!》
ああ楽しい。本当に楽しい。
これが導化師アルマの見る景色、スーパースターの景色。
これが……本気の景色!
「"RunRun時代を駆け抜ける 偶像奇跡のスーパースター"
"造花も真紅に実らせる 救済手腕は全世界へ"」
《ああ……終わっちゃう……》
終わらないで欲しい。ずっと続けていたい。
アタシはまだまだ本気を出せる!
本当の本気はこんなものじゃない。
だってこれは……偽物の本気、だから……。
「"導いてやる さあみんなで道化になっちゃおうぜ!!"」
《道化になりゅうぅぅぅ!!》
《一生導いてください!!!》
そうだ。私は導化師アルマの
「"誰にも導けないアタシは 緞帳不動のハイエンドピエロ――――"」
《アンコール! アンコール!》
《間違いなく今までで最高のライブ!》
どうか私に見せてください。導化師アルマの本物の本気、私の推しの全力の愛を……!
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