第10話 幕間:導化師アルマ/紅月ムルシェ

「導化師アルマ10周年! の、記念に! メンバー全員にメッセージ書くぞー!」


 これは少し未来、4期生がデビューしてしばらく経過した頃。

 導化師アルマのライブ配信履歴アーカイブ


「一枚にまとめたいし寄せ書き逆バージョンみたいになりそうかな? この10年色々ありましたからなぁ。ここまでやってこれたのも仲間のおかげ! というわけで10周年という節目に記録を残したいと思ったわけですよ」


 ブイアクトの先導者『導化師アルマ』による他メンバーへの思いが表明された配信。


「次は紅月ムルシェさん。ムルちゃ!君に決めた!」


 一人ずつ指名し、顔写真を載せ、メッセージ欄にカーソルを合わせる。


「一言で言えば一番弟子ですかね。あの子はアタシが育てたと言っても過言ではないぞ! けどあのポンコツだけはアタシの手にも負えなかったよ……地頭は良いのにあの天然さんは。ほんと愛いやつよのぉ」


 思い出を語り、思いの丈を告げる。


「でもね、VTuberとしてはあの子が一番天才かも。純粋に配信が上手いんよ。動画映えする企画を思いつくセンスの良さ。計算され尽くされたかのように撮れ高量産して。本人はそんなつもりないだろうけどさ、それを本能的にやっちゃうんだからちょっと嫉妬しちゃうよね」


 イジるだけでなく、褒めるだけでもなく、多種多様な感情が混ざった本音らしい言葉。


「そんな凄いところも凄くないところも全部含めて! 大好きだぞームルちゃー!!」


 最後に『一番弟子! 超LOVE!!』とメッセージを書き記す。


 普段は人気VTuberとして無敵に振る舞う導化師アルマが人間らしい一面を垣間見せた配信。

 このアーカイブはファンだけでなく、他メンバーも興味を示した。


「っていうアルさんの配信を見たのです……不覚にもムル泣いちまったのです……!」


 その配信を見た紅月ムルシェは思いを吐露した。

 すると次のような問いを投げられ、それに回答する。


《逆に導化師アルマのことをどう思ってる?》


「ムルもアルさんのことは師匠だと思ってるのです! 助けてくれて、褒めてくれて……導いてくれたのです。アルさんが居なかったらムルは今頃どうなってたか分からねぇです。……もしムルが『紅月ムルシェ』じゃなくても、ムルはアルさんのファン、迷い人になってたと思うのです。それだけアルさんは眩しい人なのですよ」


 表裏のない少女が言葉を尽くす。

 偉大な先人を称える教徒のように、推しを語るオタクのように。


《あの曲についてどう思う?》


「あ、アルさんの人気が爆発したきっかけの曲ですね!」


 導化師アルマの『あの曲』といえば誰もが同じものを想起させる。

 再生回数1億超、ブイアクトを知らない人も誰もが一度は聞いたことがある曲。


「んームルの語彙力じゃ表現しきれないですけど……本当に凄い曲だと思います。道化を導く道化ってテーマをそのまま歌詞にしたような歌で。アルさんにぴったりな曲だからか歌い方にも感情が乗ってると言うか……こう、心臓止まりそうなくらい胸が苦しくなるのですよ!」


 足りない語彙力を補うように、身振り手振りで思いを表現する。


「アルさんの言う道化って、ファンとVTuber両方のことだと思うのです。ムルはその両方だから……世界で一番アルさんに導かれた吸血鬼はムルだ!!! って一生自慢してやるのです!」


 紅月ムルシェが導化師アルマに抱いていた感情は『尊敬』だった。

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