第11話 4期生のコラボ配信
「4期生オフコラボ配信ー!!」
某日、ブイアクト公式チャンネルにて。
『V』の字を模した体躯のマスコットキャラがライブ配信を進行していた。
オフコラボ配信、つまり生身の5人がスタジオに集合して撮影している。
「4期生のデビューから早5日、本日は初の同期コラボ配信ということで司会は公式マスコットでお馴染み、山田アク丸が務めさせていただきます」
《アク丸君おひさー》
《相変わらず見た目に似合わず口調がお堅いww》
「それでは出演者の皆さん、お名前の方いただけますかね?」
「向出センカだヨー」
「絵毘シューコでーす」
「久茂ダークッス!」
「魔霧ティア、です」
4期生の5人が画面に映り、様々なコメントが飛び交う。
その中で異迷ツムリに対するコメントは少し毛色が違った。
「あ、異迷ツムリですぅ」
《雌カタツムリおひさ》
《初配信一生待ってる》
「え? ツムリさんまだソロ配信してないんスか?」
「あっそのぉ……実はまだパソコンが届いてなくてぇ」
《パソコン無いは致命的すぎるww》
《デビュー決まった時点で準備しなー?》
《ソロ配信童貞おつ》
「どどど童貞じゃないですぅ! ちゃんと女の子ですぅ!」
《ちゃんとってw逆に怪しくなるわw》
《まーた属性増やしてるよこのカタツムリ》
「はーい。雑談はそのくらいにしてそろそろ進めますよー」
内輪話にマスコットキャラが割って入る。
すると配信画面に企画名と思しきテロップが流れた。
「心を通わせろ! チーム対抗ジェスチャークイズー! どんどんぱふぱふ―」
「なんかぁ……企画コール古臭くないですかぁ……?」
「んー? よく聞こえなかったけど誰かアク丸の悪口言いました? ちなみにアク丸の中の人はブイアクトの統括マネージャーなので最強カード持ってるんですよ? 『大人の事情』って言うんですけど」
「ひぇ……あの、レトロ風でバチクソお洒落なコールだと思いますぅ……」
《大人の事情は草》
《流石アク丸君大人げないw》
《権力に弱い陰キャカタツムリ》
「チーム分けは3対2になるようくじを引いてもらいます」
「あっ私赤色引きましたぁ」
「げ……んんっ。シューコさんも赤だったわー。よろしくー」
「ん、二人共、よろしく」
「センカさんと二人チームみたいッスね。よろしくッス」
「おう。足引っ張るなヨ」
《センカ姉さんw大物すぎるw》
《シューコちゃん声引きつってない?》
「では先行、久茂ダーク&向出センカチームから始めていきましょう」
企画のジェスチャーゲームとやらが始まった。
ルールは至ってシンプル、一人がお題をジェスチャーで伝え、他のチームメンバーが答える。
制限時間内に正解した解答数を競うというものだ。
そしてツムリ達3人は後攻、敵チームの解答が終わるまで待ち時間となった。
「暇ですねぇ」
「うん。暇」
「…………」
「えと、シューコさん?」
「シューコ、感じ悪い」
ムッと顔をしかめて咎めるティア。
対してシューコはカメラに映ってないからか、いつもの媚びた感じは一切なく気だるそうに口を開いた。
「あーうん。この際だから言っとくわ。異迷ツムリ、私あんたのこと嫌いだから」
「え……アッハイ……」
「当たり前でしょ? 顔合わせもなしにデビューしてきて、しかも自己管理もろくにできない。ポッと出のあなたを同期として認められるわけないし。ったく……なんであなたなんかにアルマさんは……」
次々出てくる自分への罵倒。
ただ、最後の一言でとある疑問が浮かんだ。
「アルマさん? えと、もしかしてですけどぉ……嫉妬ですか?」
「はぁ!? あんた喧嘩売ってんの?」
「売ってないですぅ。むしろ私、シューコさんのこと好きになれそうです!」
「……え? 意味分かんないんだけど。マゾなの?」
ツムリは本気で嫌われていると分かっていても、シューコに悪い印象を持たなかった。
過去にも人から酷く嫌われたことはあったが、その人達とシューコは決定的に違う。
シューコは陰口などではなく真正面から言い放ち、それも全て正論だった。
つまり、自分の非を直せば和解できるチャンスがあるということ。
「違いますぅ。そりゃ嫌われるのは悲しいですけど、でも正直に言ってもらえるのは嬉しいです。だから、えと……認めてもらえるよう精進しますぅ」
「……はぁ。あんたと話してると調子狂うわ」
面倒そうに顔を背けるシューコ。
するとツムリは他方から袖を引かれて向き直る。
そこには即席チームの残り一人、ティアが居た。
「ティア、とは?」
「え?」
「ティアとは仲良く、してくれる?」
感情の起伏が少ない彼女は無表情のまま、無垢な目で見てきた。
上目遣いなどのあざとさは一切なく、ただ純粋に仲良くしてくれるかと質問してきている様子。
擦れたオタクには逆にそれが刺さった。
「うっわ可愛ぁ……推せる……」
「え?」
「タイムアーップ!」
質問の回答をする前に時間切れ、つまり相手チームの解答時間が過ぎてしまった。
「正解数は7問。まずまずの結果ですね」
「むー。ダーク、もっと読解力を養うんだヨ」
「センカさんの表現が独特過ぎるんスよぉ……」
「早くも責任を擦り付け合っていますねー。ぶっちゃけ配信的には接戦が期待できる数字なんでとても助かってます」
《ギスギスで草》
《理論派のセンカちゃんとパッションのダークちゃんで相性悪そうw》
《アク丸君ぶっちゃけ過ぎぃ!》
「それでは後攻、異迷ツムリ&絵毘シューコ&魔霧ティアチームの番です。ジェスチャー役は決まっていますか?」
「ツムリ、よろしく」
「えぇ私ですかぁ?」
「ツムリちゃーん。失敗したら……分かってるよね?」
「ひ……はいぃ……」
《笑顔の圧が強い》
《陽キャに絡まれる陰キャの図》
《こっちも早々にギスギスw》
「んー、分かんない」
「ツムリちゃんやる気あるー? 真似するの得意なんじゃないの?」
「いやジェスチャーって真似なんですかねぇ……」
「はーいジェスチャー役は黙ってくださいねー」
「んぅぅ……!」
《言われ放題ww》
《今度はジェスチャー役が不憫役かぁ》
《4期生の胃痛ポジが決まりつつあるな》
「タイムアーップ! 正解数は10問、後攻チームの勝利です!」
「ツムリ、後半分かりやすかった。褒めて遣わす」
「うんうんお疲れ様ー」
「……あ、はい。声真似と一緒って思い込んでみましたぁ。そしたらモノとか動物の気持ちも分かるようになってきたというかぁ、最後の方あんまり記憶ないんですけどぉ……」
「それ危ない扉開いちゃってない?」
「では敗者チームのセンカさんとダークさんには罰ゲームを受けてもらいましょう」
《褒めて遣わすww》
《罰ゲーム……ゴクリ》
《ぐへへ》
「ぶーぶー。これ人数多いほうが絶対有利ッスよー」
「違うヨ。ダークが戦犯かましただけだヨ。だから罰ゲームはダークだけにしようヨー」
「仲間に売られた!?」
「勝者チーム、何か罰ゲームの案はありますか?」
「あ、じゃあ……罰ゲームじゃないかもですけど」
小さく手を上げ、注目を集める。
緊張が込み上げ上擦る声を抑え、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「あの……私だけ全然会ったこと無くて、良く思ってない人もいると思いますぅ。けどできれば……今後とも仲良くして貰えませんかぁ?」
発言後、数秒間の沈黙が堪らなく痛かった。
その冷えた空気は温い口調で塗り替えられた。
「じゃー仲良くするから代わりに罰ゲームやってくれヨー」
「え」
「あ、いいわねそれ。そうしましょそうしましょ」
「シューコさんまで!?」
「勝者チームがそう言ってくれるならお言葉に甘えるッスかねー」
「頑張れ。罰ゲーム耐えれたら、友達なったげる」
「わぁ……良くない流れできちゃってるぅ……」
《クラスの玩具にされる陰キャの図》
《折角勝ったのにw》
「でも結局何にするんスか?」
「無難に、一発芸?」
「え? 一発芸で良いんですか?」
「おー持ちネタあるんだヨ?」
「ん? 一発芸ってまさか……」
《ほう。一発芸とな?》
《隙を見せたな? 来るぞ。奴の「十八番」が》
「"こんあーるま♪ 道化を導く道化こと導化師アルマです"」
「うわ、ホントにめちゃ上手いッスね声真似」
「デビューのときは、男の人だったけど」
「あのときは高い声出なくてぇ……」
「じゃあ誰でも真似でもできるんだヨ?」
「んー、んんっ……"もちろんだヨー”」
「おおーセンカの真似なんだヨ」
「本物と聴き比べてもマジで違い分からないっすね」
《やっぱ声帯が化け物過ぎる》
《音域の広さも凄いけどイントネーションの再現とかも半端ないんだよなぁ》
《はよソロ配信で披露してくれ》
「えへぇ。ど、どうですかねぇ……シューコさん?」
「……ふんっ。まだまだね。声だけ真似てもアルマさんに届くはずないじゃない」
「ですかぁ……まあですよねぇ」
「そうよ。アドバイスしてあげるからあとで録音させなさい。練習用の台詞も考えたげるわよ」
「はーい……ん?」
「まだまだって、ほんとに思ってる?」
「あー。シューコさんガチの迷い人っすからねぇ」
「うんうん仲良いようで結構結構。それはそれとして、敗者チームはちゃんと罰ゲーム受けてもらいますよ? 何も思いつかなかったときのために渋ーい健康茶を用意してますので」
「「アッハイ……」」
そんなこんなで小一時間オフコラボ配信は続いた。
完全に打ち解けられたとは思わない。
けれど表面上だけでも笑い合うことができた。
ブイアクト4期生、今度の同期とは上手くやれそうな気がする。
オフコラボ配信終了後、控え室の異迷ツムリの元に二人が接近してきた。
「ふぅ。あっマネージャーさんと……」
【見ていたよ、配信お疲れさま】
「社長さん……あの、デビューしたのに全然仕事してなくてごめんなさぃ……パソコンまだ届いてなくてぇ」
【ツムリはスカウト直後にデビューしたのだったね。急かしてごめんよ】
「社長が謝ることないですよ。準備期間が一切なかったわけじゃないですし、ただの怠惰です」
「酷ぃ……」
優しく慰める社長と辛辣に言い放つマネージャー。
しかし社長が来るとは何か用でもあるのか? と思っていると話題を持ちかけてきた。
【皆とは仲良くやれそうかな?】
「あっはいおかげさまでぇ……」
「確かに、思ったより話せていて安心したよ。この調子で先輩方ともどんどんコラボしていこうか」
「あの……あんまりハイペースなのはちょっとぉ……」
しばらく会話を続ける。
社長は何やら言葉を選んでいるように見えた。
【そういえばツムリは随分アルマに気に入られているようだね】
「へぁっ? えと……そう、なんですかね……えへぇ」
【うむ。是非とも彼女を支えてやって欲しい。あれで意外と繊細だからね】
「? えと、分かりましたぁ……?」
導化師アルマが繊細というイメージができず、つい生返事をしてしまう。
アルマはブイアクトの最初期メンバー、ゆえに社長とも何かしらの関係があってもおかしくないが……。
ひとまず難しいことは抜きにして、彼女の1ファンとして仲良くできるのは喜ばしいことだと思うようにした。
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