第44話 ゲーム大会開催

「遂に波乱の幕開け……血で血を洗うブイアクト内部抗争……。今宵は無礼講! 先輩後輩全て敵! 各期生対抗マジクラウォー、開・催・です!!」


 事前告知されていた箱内ゲーム大会。

 その進行は大会参加を辞退し司会役を買って出た二人によって行われる。


「皆さんお待たせしました! 司会はこのサイキョーヴァンパイア紅月ムルシェと――――」

「……あ、うん。魔霧ティア」

「がお送りしますー。ティアさん? ひょっとして緊張してます? うりうりー」

「揺らすの、やめて、ムルシェ。食べたもの出そう、うぷ……」

「おっと本当に余裕なさそうなのです」


《お待たせされました!》

《開始早々不安しかないw》

《ゲーム外で波乱起こすのはやめてもろて》


「ではルール説明からしていきましょう! 今回のマジクラウォーのカスタムは4vs4のチーム戦、リスポーンは一人1回まででリスポーン地点はスタート地点と同じ進入禁止の安全地帯となっているのです」

「えと、アイテムは、全員に属性付与できる防具、あと回復の杖がチームに一つ、です」

「それからボイスチャットはチームメンバーと近くの敵の声が聞こえるよう設定されているのです。味方と連携しつつ存分に敵と罵り合いやがれです!」


《割とスタンダードな設定ね》

《この司会めちゃ暴言推奨してくるw》

《4期生入ってから初の全員参加ゲームイベントだし、遠慮しなくていいって言いたいのかもね》


「さてさて今大会は勝ち上がり形式、初戦の対戦相手は事前にくじ引きで決まっているのです。記念すべき一戦目のマッチングは……2期生vs4期生! お先に2期生から意気込みをどうぞ!」

「マジクラといえば魔法、魔法といえばこの法魔エルですよねー。エルのファンタジーな魔法捌き、お見せしますよー」

「ニオがいるんだから負けるわけないよねっ。戦犯は晒し上げちゃうよー」

「戦犯? この幽姫ツララとは縁遠い言葉だな。いつも通りクールな技を披露しようじゃないか」


 配信画面に立ち絵が表示され、用意してたであろう出場者コメントを言う。

 しかし見慣れない立ち絵、普段と姿が異なる者もいた。


「はーい……本日は月末ということで幼い方の狡噛りりでお送りするのじゃ……」

「リリ、ちっちゃい。なんで?」

「リリさんは人狼ですので月の満ち欠けで姿を変える設定があるのですよ。月末は新月って扱いで獣の力が弱まり可愛い幼女になってしまうそうで。逆に15日は満月ってことでモフモフのワンちゃんになるのです!」

「狼! 犬じゃなくて狼じゃよムルシェ殿! まあ美獣とは程遠い可憐な姿でも食い散らかしてやるのじゃ」


《りりちゃんかわヨ》

《戻さないで。月末だけと言わずずっとこれで行こう?》

《ロリリ殿人気すぎぃ!》


「じゃあ、今度は対戦相手。4期生のみんな、意気込み言って」


 ティアの指示に従うように4期生の立ち絵が現れる。

 その内一人が息を吸い、声を張り上げる。


「宣誓! 我々4期生は――――スポーツマンシップに乗っ取らないことをここに誓うっス!」

「おおーなんだか体育祭のような……ん? 乗っ取らない?」

「害悪プレイヤーと罵られようと勝ちに行きまーす」

「何故ならこれは身内大会、撮れ高になれば何をやっても許されるからナ!」

「害悪プレイ万歳ですぅ!!」

「えっと、ティアさんの同期はユニークな方が多いのですね?」

「うん。ティアと仲良くしてくれる、良い友達」

「良い友達ですか……今の聞いちゃうとちょっと反応に困るですね……」


《この選手宣誓は新しいww》

《あれ? この子ら新人だよな?》

《わー対戦相手気の毒ぅ……》

《いくらなんでも無礼が過ぎるw》

 

 4期生のイカれた宣誓に盛り上がるコメント。

 もちろんその姿は対戦相手の2期生も見ていた。


「あれ一戦目の相手ってマジ?」

「おおう、SNSで少々不穏な呟き見つけてしまったのじゃ」

(異迷ツムリ)《作戦ゆえ、配信枠立てませぬ》

「わーなんて不気味ファンタジーな……とりあえず要注意ですねー」

「はっはっはっ。所詮新人と侮っていたが少しは楽しめそうじゃないか」


 真正面からの害悪プレイ宣言に各々の反応を見せる。

 ムルシェの言う通りまさに波乱の幕開け、そんな大会初戦になりそうだった。







「――――両チーム、準備は整いましたかね」

「うん。大丈夫みたい」

「確認ありがとうございます。それでは始めましょう。第1試合、開始です!!」


 ゲーム内の戦闘開始に合わせてムルシェの号令がかかり、出場者は一斉に動き出す。

 スタート地点の安全地帯を抜け、それぞれが作戦通りの配置へと。

 チームに1つ配られた回復の杖を持つのは2期生が狡噛りり、4期生が異迷ツムリで両者共比較的後方に控えていた。

 そして早くも1つ目の戦闘が始まろうとしていた。


「さて初見の対戦相手、君達はどう動いてくるかな……む、ダークくんか。この幽姫ツララに正面から向かってくるとは、その勇気は評価しよう!」

「胸借りるっスよツララ先輩。誰かが足止めしないとすぐに全滅させられちゃうんで」

「よく分かっているじゃないか。しかし近づくばかりで撃ってこないのか……何を考えているのか分からないが、反撃はさせてもらうよ」


 接近する久茂ダークを近づけさせまいと幽姫ツララの魔法が射出される。

 一発目の紫魔法、それをダークは難なく躱した。


「なるほど。今のを避けられるとは良い反射神経をしている」

「あざっス」


 続けざまに攻撃魔法を放つツララに対し、ダークは回避行動を取りながら攻撃とは別の操作をする。

 そして初の被弾は五発目、しかしその頃にはダークの防具は紫色に染まっていた。

 防具の役割はダメージ軽減、色が近ければ近いほど軽減倍率は上がり最大で半減となる。

 対するツララも攻撃魔法の色変更を試みるが、同じ攻防が繰り返されるだけ。

 そうこうしている内に後方から回復が飛ばされ、削られたダークの体力は元通りになった。


「攻撃せず回避に専念、色を見て防具の属性変更、集中して飛んでくるヒール……その立ち回り、防御全振りタンクか! 面白い、見たところFPSは慣れていないのだろう? チームの役に立つためこの幽姫ツララの足止めに特化する、その心意気やよし!」

「しばらく付き合ってもらうっスよ。ウチのオフェンスが暴れ終わるまで……!」


 ゾンビのように敵に張り付く、害悪とまでは言えない嫌がらせを続けるダーク。

 そんな攻防の他所で戦況を変化させる者も居た。


「よっしゃーりりちゃん先輩やったヨ。センカの勝ちー」

「うっわ先輩に煽り屈伸かぁ……マナーがなってないんじゃないかなっ」


 嬉しそうに上下運動するセンカを見て辟易としながらも、2期生達は危機感を覚えていた。

 チームの要である回復役の狡噛りりが撃破されたことで、攻めの手が少しばかり鈍る。

 その隙に4期生は次の行動に出る。


「一人キル? じゃーあれやるわ」

「自分はツララ先輩についてるっス!」

「おーけーセンカは二人引き付けるヨ」

「んー? 何か始める気かなっ?」

「確かにセンカちゃんは上手だけどー、2対1じゃ長くは保ちませんよー?」

「大丈夫だヨ。どうせチャンスは一瞬だしナ」


 変わらずツララの足止めをするダーク。

 ニオとエルの二人にちょっかいをかけつつ上手く立ち回るセンカ。

 少々遅れながらも二人の仲間を無言で回復するツムリ。

 そして戦場で一人フリーになったシューコが異様な動きを見せる。


「あれは、シューコくんが高台に登って……まさか!?」

「気づいても邪魔させないっスよツララさん!」


 狙いに気づいたらしいツララ、しかし阻止しようにもダークに阻まれ間に合わない。

 そしてバトルフィールド中央に位置する高台頂上に達したシューコはある場所へと魔法攻撃を放った。

 それは侵入不可エリアゆえに安全地帯と呼ばれる場所、つまり2期生のリスポーン地点。

 その遠距離射撃は蘇生直後の狡噛りりへと向かう。


「っと危ないのじゃ……ん? なにゆえ安地に攻撃が?」


 着弾。しかし攻撃は大きく逸れて地面に激突する。


「ごめーん。リスキルガチャ失敗したわー」

「しゃーないスよ。当たったら儲けもんっス」

「どうせ確率5%以下のゴミガチャだしナ」


 失敗を明るく受け止め、次の行動へと移る面々。


「リスポーンキル、キルした敵の蘇生と同時に再度キルする戦術。安地を狙えるのは中央の高台だけ。それも距離制限で確実にエイム通り飛ばずランダム方向に反れる。ゆえにリスキルガチャというわけか」

「しかも高台って絶好の的じゃないですかー。確かにセンカちゃんに気を取られて狙えなかったですけどー、リスク半端ないですよー?」

「うーん害悪プレイに命賭けすぎっ☆」

「危うく早々に脱落しかけたのじゃ……」


 4期生のプレイスタイルにかき乱される2期生の面々。

 既に撮れ高は十分過ぎるほどだが試合はまだ始まったばかり。


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