第45話 マジクラウォー1回戦


 試合開始早々に一悶着あったところで試合の展開は落ち着きを見せた。

 その間も配信風景を見ている司会とコメントは盛り上がっていた。


「2期生vs4期生、初デスとなったりりさんに対しまさかのリスキルの追撃! 失敗に終わりましたが4期生は面白いこと考えますねぇ」

「うん。みんないっぱい、練習してた」

「練習するのは良いことです! おかげで白熱したバトルを見させて貰えるのです!」


《防御特化ストーキング、煽り屈伸、リスキル狙い……全部ウザすぎる……》

《宣誓通りの害悪プレイ集団ww》

《見てる分には面白いけど対戦相手としては最悪w》


 4期生の活躍はエンタメとしては優秀の一言に尽きる。

 しかし、その動きが全て勝つための最善策かと問われると……。


「確かに面白い戦術が多いな。しかし……」

「それで勝てるならー、みんなやってますよねー」

「結局のところ真面目にプレイした方が強いんだよねっ」

「少々味気ないかもしれんが、ここは辛酸に塗れた現実なのじゃ」


 そもそもチームの総合力は2期生に軍配が上がる。

 明確なウィークポイントであるダークとツムリを先に叩いてしまえば後は数で押し切られてしまう。

 そうして制圧され4期生は全滅、全員がリスポーン地点に集う結果となってしまった。


「うーん皆残基1になっちゃったカー」

「仕方ないわ。そろそろ最後の作戦行っとく?」

「いけそうっスか? ツムリさん」


 それまで一言も発しなかったツムリは、エモートでサムズアップする。

 それを合図に全員が動き始める中、異迷ツムリのアバターが安全地帯を出る前に、その操作者は小声で声掛けをする。


「ツムリ、出番だ」


 今まで異迷ツムリと思われていた操作者はマネージャー、その男の呼びかけに対し本物の異迷ツムリは素早く反応。

 現在演じてる導化師アルマを一時中断するための行動を起こす。


「……あ、すみませーん。ちょっと電話来ちゃったから席外しまーす♪」

「了解ですわ。緊急の用事だったら配信のことは気にせず行きなさいな」

「あー……うんっ。ありがとねロカちん」


 大会もあると言うのに優しく声をかけてくれる導化師アルマの親友、ロカ・セレブレイト。

 申し訳無さを覚えつつも、マイクのオンオフを切り替える。


「ふぅ。んんっ……はぁい。異迷ツムリ行けますぅ」


 仮面を取り替えるように、喉の調子を整える。

 いつも通りの自分を取り戻した異迷ツムリは次の役目を開始した。


「……なんかー。あの子達雰囲気ちょっと変わりましたー?」


 残基1になった対戦相手が一斉に安全地帯を飛び出したと思えば、先程のような派手な動きはない。

 今までとは別種の不気味さを感じていた。


「今度は何を企んでいるのやら。気を休める暇もないのう」


 何が起こるかまでは予想できず、ただ敵の動きを警戒することしかできない。

 間もなく、戦場では乱戦が起こった。


「あらら被弾しちゃいましたー。りりさーんこっちにヒールをー……」

「ちょっとニオ体力やばめっ! ヒールちょーだい! ヒールヒール!」

「了解なのじゃ。ニオ殿にヒールを飛ばして……って体力結構余裕に見えたのじゃが?」

「りり姉? ニオリスポーンしたばっかだけど今のヒールなに?」

「んん?」

「エルですー。N方向に増援お願いしますー」

「Nねーわかったっ! ……ってガン待ちされてんだけどっ!? エル姉どこー!?」

「ニオさん激ロー! ガンガン詰めて!」

「今そっち行くヨー」


 先程までベテランのごとく連携していた2期生だったが、それも乱れチームはほぼ半壊状態。


「はいはーい。エルが死に戻りしましたよー。というか予想通りカオスなことになってそうですねー」

「ちょっとエル姉! さっきのN指示なんだったのさっ!」

「あーそれエルじゃないですー。たぶんツムリちゃんに騙されてますー」

「あっバレましたぁ?」

「ああそういう……ほんと厄介オタクちゃんだなぁ君っ!」

「薄々そんな気はしておったが味な真似をしてくれるのう」


 4期生最後の作戦を対戦相手も理解する。

 異迷ツムリの声真似スキルは最早ブイアクト内で周知の事実。

 接近すると敵のボイスも聞こえてしまう仕様を利用し、会話に割り込み4期生が有利になるよう誘導していた。

 しかし、それが分かったところで元通り連携できるわけではない。


「ということで一度S側に集まってくださいー。作戦を立て直して……」

「ちょっと待ってくださいー。今の声エルじゃないですー。Sは危険ですー」

「はいー? エルはエルですけどー?」

「え? どっち?」

「これは……相当不味いのじゃ?」


 所詮ボイスチャット、同じ声が2つあればどちらが本物かなど見分ける方法はない。


「2期生の連携が完全に崩されたのです! これは4期生の奇策が完璧に決まりました!」

「うむ。よくやったツムリ」

「そしてこっちの司会は身内贔屓が凄いのです! ならムルも身内応援しちゃうのです。2期生のみんな頑張るのですー!」


《どーっちどっちどっち?》

《もう誰の言うことも信じられんw》

《最後の害悪プレイは盤外戦術かー》

《なんか司会同士の応援合戦始まったw》


 戦闘中一番の盛り上がりを見せる中、2期生は一人ずつ脱落していく。


「あのーニオ本気でヒール欲しいんだけど……今は信じられるわけないかっ☆ ふぎゃっ!」

「まあ集合できなればリンチに合いますよねー。エルも死にまーす」

「……囲まれてしまえば回復の杖があっても耐えられるわけないのう。まったく、見事に一杯食わされたのじゃ」

「おう、お粗末様だヨ」


 2期生の3人はこれで残基0、リスポーンすることはない。

 対して4期生は全員生き残っている。


「これであと一人っス!」

「そうね、あと一人……ラスボスが残ってる」


 圧倒的優勢、のはずだが……最後の一人に直面し全員に緊張感が走る。


「実に見事だ。精鋭揃いの我ら2期生をほぼ壊滅状態に追い込むとは。作戦も然ることながら、特にセンカとシューコの操作精度は中々のものだ。敬意を表するよ」


 最も窮地に立たされているはずの一人が、最も余裕ある雰囲気で語る。


「しかし本当によかった。君達が実力あるもの達で……おかげで僕の出番が生まれたわけだ。チームプレイは終わり、ここからはソロプレイ――――幽姫ツララの本領発揮だ」

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