第47話 マジクラウォー2回戦②
「ティアさん? 大丈夫なのです!?」
「ごめん……ちょっと、薬……」
咄嗟にミュートにし、小声で伝えた後に離脱する。
持病のこともムルシェには事前に話してあるので配信中断までする必要はない。
幸い喘息を抑える吸入薬は持ってきている。
使用すれば治まるが、復帰までにどうしたって数分はかかる。
《ん? 二人共黙っちゃった?》
《ムルちゃも? なんかトラブル?》
心配そうに自分を見つめるムルシェ。
しかし彼女もプロだ。
コメントを見て一瞬で切り替え、配信を続行する。
「すみませーん。どうやらティアさんの方で機材トラブルが起きてしまったみたいで。ちょっとの間ムルだけで司会するのです」
《あらら》
《機材トラブルならしゃーない》
ムルシェの吐いた嘘に少しばかり驚かされる。
確かに体調不良などと言えば下手に心配させて配信に悪影響なのは分かる。
しかし彼女がそこまで器用なタイプだと思ってなかった。
「あ、サイコさんがキルしたのです。今のはどうやって……んー……」
ティアの知っている紅月ムルシェは天然な可愛らしい女性。
その純粋さゆえ、思ったことをすぐ口に出してしまう。
「やっぱりムル一人で解説しても間違ったこと言っちゃいそうで怖いんですよね……お話相手がいないと緊張感が足りないのです! かと言ってティアさんが戻ってくるのもまだ時間かかりそうですし……」
だが彼女の配信者としての判断力は一流。
普段は失敗ばかりだとしても、それは配信を成功に導く失敗。
そして後輩を導く先輩として、今は失敗できないと本能的に理解しているようだった。
「ということで、助っ人を呼んでみました! そろそろ来てくれそうですね。今暇してそうなマジクラ詳しい人が……」
「待たせたな! 我こそは銀世界の支配者、人の世では幽姫ツララという名で通っているよ」
《ツラたん来たー!!》
《別に待ってなかったけど助っ人助かる!》
臨機応変に、より良い結果のためなら迷わず人を頼る。
ときには幼く見えることもあるが、その行動力は頼れる大人のように感じさせられる。
そんな先輩が側に居ると分かったから、安心して自分の症状を治めることに集中できた。
「ではツララさんから見た2チームの印象を教えてもらえますか?」
「そうだな……じゃあ3期生から、見ての通り連携が素晴らしいチームだ。4人揃ったときの布陣は中々崩せるものではないだろう。ただ麻豆ジュビアと鳴主サタニャ、あの二人は少々闘争心が強すぎて連携を乱しがちなのが玉にキズだな」
《わかる。二人共上手いのにね》
《むしろジュビサタはそこが良い。見てる分にはだけど》
《普段中二全開でふざけ散らかすのにこういうときは真面目に解説してくれるツララ様好き》
「このマジクラウォーというゲームでチームプレイはかなり重要と言える。その理由はDPSの低さ、通常一人キルするには弱点属性で2発、基本的には3発以上当てる必要がある。魔法の連射速度はそれほど高くなく、また魔法の発動を見てから回避することも可能なくらいだ。となれば重要なのは回復役、極論攻撃を受けるたびに回復し続ければ倒されることはない。だが先程のネプのように、複数人から同時に攻撃を受ければ回復する間もなくやられる。攻めも守りもチームとの連携が勝利への鍵となるんだ。他のFPSと比べると試合展開が遅くなりやすく、その分頭を使う場面が多いゲームとも言えるね」
「へぇー。聞いてないことまでベラベラ喋ってくれてありがとうなのです。今日に限っては尺稼ぎたいので助かるのです」
「ムルシェ? 少し言葉に気を遣おうか?」
《ムルシェさん?》
《助っ人で呼んどいてこの言い草ww》
《心なしかツラたんには遠慮ないよねこの子w》
そうして二人が時間を稼いでくれたおかげで、喉の調子もほぼ回復してくれた。
「3期生、ウラノさんのために頑張って。カチュア師匠は、あんまり頑張らなくて良い」
「あっティアさん! おかえりなさいなのです!」
「戻ったかティアくん。トラブルの方は無事解決したのかい?」
「うん。万全。ご迷惑、おかけしました」
「それはよろしい。折角だしこの試合の最後までは僕も実況に参加するとしよう」
《ティアちゃんおかえり!!》
《復帰早々偏った実況ww》
《迷惑なんて思ってないよー》
批判のコメントをほとんど見かけないのも配信の雰囲気を守ってくれた二人のおかげか。
感謝しつつ、再び配信に参加する。
「さて話を戻そう。対する1期生は完全なる個人プレイだな。冷静に俯瞰し敵の隙を探して地道にキルを狙いに行くキル厨科楽サイコ。ゲーム下手を自負しているからか基本的には鳴りを潜め正念場を見極めて活躍を狙う芋砂戦法ロカ・セレブレイト。プレイスキルは高いものの短気ゆえに単騎で深追いしてしまうキッズゲーマーカチュア・ロマノフ」
「ふーん……キル厨? 芋砂?」
「ちょいちょい一言余計じゃないですか?」
《紹介に悪意を感じるww》
《キッズゲーマーは普通に悪口なんよw》
《実際言葉にされると自己中ゲーマーの集まりにしか聞こえないぜ……》
「そして味方と敵両方の意表を突くトリックスター導化師アルマ。タイマンでは負け無し、かくいう僕も彼女には一度も勝ったことがない」
「え、ツララが? あんなに上手なのに? アルマも、チート?」
「ティアくん……真面目なゲーマーにチートを疑うのはやめた方が良い。本当に怒られるからな……」
「えっと、ごめんなさい?」
《まあ。それはそう》
《チートレベルに強いって言いたいのは分かる》
《実際本気でゲームやればやるほどマジのチーターは見たとき萎えるからなぁ》
「なんと言えば分かるか……一言で言うなら、アルマ先輩はじゃんけんが強いんだ」
「なんの、はなし?」
「ゲームの話だ。次に相手が何の手を出すか、得意の人読みで看破できる。そしてこのマジクラウォーでも擬似的にじゃんけんの状況を作り出しているんだ。通常の色魔法とは異なる特性を持つ魔法、白と黒の魔法で」
「あ、1秒溜めが長いやつ」
「ティアさん知ってるのですか?」
「前に、友達と勉強した。黒魔法は、速くてダメージが大きい。白魔法は、相手の魔法を跳ね返せる。その代わり、発動が遅いって」
《勉強熱心! 偉い!》
《友達? あっ俺のことか》
《マジレスするとどこぞのカタツムリやね》
「その通り。2つとも強力な魔法ではある。だがプロゲーマーならこの魔法はサブウェポンにしかなり得ない」
「え、強いのに?」
「それだけチャージ時間のデメリットは大きいんだ。近距離の撃ち合いにスナイパーライフルをメインウェポンにするやつがどこにいる?」
「今、実際にやってる?」
「なんだかアルさんのやってることがなろう主人公のように聞こえるのです……」
「それこそ相手の動きを完璧に予測しなければ使えない無用の長物だ。あの戦闘スタイルで勝ち続けているアルマ先輩はド変態だな」
「そっか。アルマは変態。覚えた」
「覚えないでください! 完全に風評被害なのです!!」
《後輩に余計なこと吹き込む先輩》
《切り抜き素材待ったなしw》
《これは後で校舎裏に導かれますわ……》
「と話してる間に、噂のアルさんが勝負を決めたようですね。第二試合、1期生の勝利なのです」
「流石だな。だがその無敗記録も今日終止符を打つことになるだろう。この幽姫ツララの手によってな!」
「それ毎回言ってるのです。まあアルさんが負けるとは思えないですが精々頑張れなのです」
「もうちょっと同期を応援してくれても良いのではないだろうか……まあ良い。僕は来たる決勝戦に備えてそろそろ失礼させて貰おう」
「ん、来てくれてありがと。ツララ」
《ツラたん来てくれてありがとー》
《良い解説役だったな。大会出たいだろうし司会はやらないだろうけど》
《精々頑張れとか司会が出場者に言って良いセリフかww?》
「ムルがアルさんを応援するのなんて当たり前なのです! ……けど、今日のアルさんはちょっと調子悪そうなのです」
「そうなの?」
「はい。なんだか型にハマりすぎるというか予想を超えてこないというか……アルさんらし過ぎて逆にアルさんらしくないのです」
「んー。ティアはわかんない。アルマのこと、あんまり知らないから」
「最近アルさんとお話できてないのでちょっと心配ですね……って、実況で話すことじゃありませんね! ごめんなさいなのです!」
「大丈夫。きっと喜んでくれる。ムルシェが心配してくれて」
「ティアさん……お慰めありがとうございます!」
《そうかな? そうかも?》
《アルマちゃんライブ辺りからずっと忙しそうだしなー》
「ムルシェ、さっきはありがと。凄いね、トラブルあっても、配信盛り上げれるの」
「え? ムルは人に頼っただけですよ?」
「でも、凄い。ティアは焦って、何もできなかったから……助けてくれて、ありがと」
「えへへ。ムルは先輩として当然のことをしたまでなのです!」
《お二人の絡みを見れて我々も助かっております》
《やっぱこの二人が司会で正解だったってわけ》
《思いの外ちゃんと進行できてるしなー》
視聴者の反応を見てほっと一息安堵する。
一時はどうなることかと思ったが、イベントはつつがなく進行できているようだった。
◇
視聴者のうちの一人。
同事務所にて、紅月ムルシェと魔霧ティアの配信を見ているものが居た。
それは導化師アルマの活動継続を誰よりも望む人物。
【紅月ムルシェ……危険だな】
=============
【】が嫌いになりそうな今日この頃。
明日から毎日投稿! 第二章完結まで一気に駆け抜けます!
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