第48話 マジクラウォー決勝戦①

 ブイアクト各期生対抗マジクラウォー、2回戦1期生vs3期生。

 勝者は1期生、そのキーパーソンとなった導化師アルマ……を偽る少女は過去最大のクソデカ深呼吸を放った。


「…………ぶはっ! すぅぅーー……はぁぁぁづっっがれだぁぁぁ!!」


 試合終了後、一時的にマイクをミュートにする。

 それだけ平静を保っていられないほど消耗の激しい試合。


(アルマの人読みスキルは天性のもの、それをツムリは独自のやり方で疑似再現している。人真似の応用、アルマを演じつつ相手の思考パターンをトレースし属性や攻撃タイミングを予測。先程の2対1の盤面なんて一瞬とは言え人格を3つ宿していたようなものだ……疲れないわけがない。脳が焼き切れるほどの集中力が必要なはずだ)


 横でそれを見る男はその身を案じる。

 彼女の負担の大きさを目の当たりにするたび、心に大きな負担がのしかかるようだった。


(決勝戦の相手は2期生、あの幽姫ツララもいる……短時間では済まないだろうな……)


 先を見据え、気休め程度のマネジメントをする。


「決勝戦の前に4期生の3位決定戦がある。異迷ツムリの方は任せてくれて良いから、今は体を休めてくれ」

「ありがとうございますぅ。あ、声が必要になったらいつでも呼んでいただいて大丈夫なのでぇ」

「……ああ。そのときはよろしく頼む」


(これ以上負担をかけるわけにはいかない。例えそれが……導化師アルマらしからぬ行動になるとしても)


「ツムリ。次の決勝戦だが――――」

「…………え?」


 男はとある提案をする。

 少女はその提案に対し、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。







「3位決定戦決着ぅー! 勝者は3期生なのです!」


 2回戦に続き3回戦の3位決定戦が終了した。


「ティアさんの同期は惜しくも敗れてしまいました……!」

「んー、ホントに、惜しかった? ボロボロだった気がする」

「それはまあ……4期生の害悪戦術は初見殺しの面が強すぎて来ると分かっていれば対策しやすいようですね……」


《3期生の4人陣形は相性最悪だったなぁ》

《タンクは集中砲火されれば軽く吹き飛ぶし、声真似も味方が目の前に居たら惑わされることもないし》

《対策できちゃえば実質4対2だね……》


「みんなが不甲斐なかっただけ。来年に向けて、ティアも一緒に特訓する」

「良い心がけなのです! それではいよいよ決勝戦なのです!!」

「ん。1期生vs2期生、始まる」


 それぞれが決勝戦に向けて準備を開始する。

 そんな中で顔を合わせた2チーム、その代表格たる二人。

 幽姫ツララは語りかける。


「アルマ先輩。今日こそ勝たせてもらう」

「……もちろんアタシも負ける気はないよ。今日のアタシの役目は1期生を勝利に導くことだからね♪」


 堂々たる宣戦布告。

 ツララがタイマン勝負を望んでいることは理解できた。

 対して導化師アルマを演じる少女は無難な返答をする。

 タイマンに応じるとは明言することなく。

 試合開始直前、チームメンバーに確認する。


「みんな、作戦通りよろしくね」

「本当にいいのか?」

「良いも何も、それが勝つための最善だよ」

「確かに勝率は高そうデスが……」

「ワタクシとしても異論はありませんわ。……本当に貴女が納得しているのなら」


 渋々と言った様子で作戦実行を承諾するメンバー。

 おそらく皆が懸念しているのは、導化師アルマらしくない作戦だということ。

 それは本人が一番理解しており、しかしリスクを抑えるために致し方ないと考えている。

 全ては導化師アルマの立場を守るための作戦。


「それでは決勝戦、開始なのですっっ!!!」


 試合開始し、それぞれがフィールドに散らばる。

 決勝戦は中々戦闘が始まらない静かな滑り出しだった。

 2期生の方針は近すぎず離れすぎず、一人で居ることを装いつつすぐに応援に駆けつけられる体制を取っている。


「全然敵さん居ないですねー」

「1期生は自由に動く者が多いからそろそろ見つかっても良い頃だと思うのじゃが……」

「んー静かすぎるね。嵐の前のなんとやらだったり?」


 近い者同士でコミュニケーションを取る。

 ただし、幽姫ツララだけは完全に別行動を取っていた。

 それはある意味自信の現れ、どんな窮地も全てソロでくぐり抜けてきた強者ゆえの動き。

 そしてこの試合では目的があり、警戒しつつ機会を伺っていた。


 導化師アルマとの1on1、真正面から撃ち合う機会を。

 そして早くも発見する。


「アルマ先輩。まさかこれほど早く相見えるとは思っていなかったが、僥倖だな」


 身を隠すことなく姿を表す。

 ツララが望むのは真剣勝負。

 それを理解しているアルマもまた驚くことはなかった。


「待ってたよ。この辺りに来てくれるだろうなって思ってたから」

「それはありがたい。では、いざ尋常に……」

「だから……ごめんね」

「? ……!」


 臨戦態勢を取り集中をアルマに向けようとしたその瞬間、意識外の2方向から魔法が飛来する。

 辛くも回避するが1撃被弾してしまう。

 距離を取り射線上を見渡すとそこには物陰に隠れていただろうカチュアとサイコ、さらによく見ればロカも居た。

 先程の口ぶりから罠に嵌められたと気づく。


「やってくれるね導化師……!」

「ツラたん。悪いけど導かせてもらうよ。敗北の道に、ね」


 幽姫ツララの別行動、そして出現場所をも予測し作られた袋小路。

 それが1期生の決勝戦における作戦だった。


 一斉射撃、弾幕が幽姫ツララを襲う。

 回避、防具属性変更、白魔法全てを駆使してダメージ軽減を図る。

 

「ああ分かるさ……この幽姫ツララの脅威を考えれば、その策が最善だということは」


 複数人による集中砲火では威力よりも手数の方が重要。

 だからだろう。カラフルな弾幕の中に黒色が存在しないのは。


「でもそれは……貴女のやり方じゃないはずだアルマ先輩!!」

「……アタシは道を化かす者。アタシの道はアタシが決めるよ」


 普段の白黒魔法主体の戦法を捨ててまで徹底された導化師アルマによる幽姫ツララ対策。

 仲間の合流は望めない。

 この数相手に逃げ切ることも不可能、そう判断し数を減らすことに思考をシフトする。

 最も接近しているカチュアに攻撃を仕掛ける。


 どんな窮地でもツララの強さは変わらず、間もなく一人目を撃破する。

 しかし攻撃に意識を向ければ防御が疎かになる。

 回復手段のない幽姫ツララは間もなく凶弾に伏す。


「クソ……絶対にこのままでは終わらせない……!!」


 恨み言を最後に、目の前の画面は赤く染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る