第49話 マジクラウォー決勝戦②
「誰が予想したでしょう! 決勝戦二人目の脱落者は……幽姫ツララ! 1期生はたった一人の犠牲でツララさんの撃破に成功したのです!」
「ツララ、どんまい」
《やることえげつなww》
《本気の導化師がここまで恐ろしいとは……にしても手段選ばなさすぎw》
《え? アルさん闇落ちでもしたん?》
視聴者からも少々の戸惑いが見られた。
それだけ今までの導化師アルマからは予想できない行動だったということ。
「1期生の快進撃は止まらない! 残った3人で行動し1人また1人と撃墜していくのです!」
「あ、サイコもやられた。けど、これで2期生、全滅」
「アルさんとロカさん二人が残基を残したまま2期生は4人共残基0、まさに圧倒的! ……アルさん、本当にどうしちゃったのでしょうか……?」
同じくギャップに戸惑う紅月ムルシェは呟く。
波乱の幕開けとなった決勝戦。
第一幕は終了し2期生はリスポーン地点に集結していた。
「流石アルマさんですねー。まるでツララさんを相手しているような感覚でしたー……」
「何もできずやられてしまって申し訳ないのじゃ」
「ぎりぎりサイコ姉だけ倒したけど……めっちゃキツイね!」
続々と復活する味方に対し、一番最初に到着していたツララが口を開く。
「試練、というわけだな。差し詰め魔王討伐、自分と闘いたくばまず四天王を倒してみせよと。……いや3人で四天王は無理があったかな」
「ツラたん……」
「分かっている。これは対話の拒否だ。まったく、挑戦状を着払いで突き返された気分だよ」
願い虚しく、挑戦相手から拒絶を受ける。
そもそもこれはチーム戦であり、むしろ正攻法で戦っているのは導化師アルマの方かもしれない。
しかし、それでもアルマなら応えてくれると思っていただけに歯がゆさは拭えない。
「アルマ先輩、貴女がその気なら……戦わざるを得ない状況を作り出すまでだ。みんな。僕のワガママ、聞いてくれるかい?」
「もちろんですー。ツララさんがいないと勝てそうにないですからねー」
「しょうがないなぁ。今回だけだよっ」
「折角の決勝戦をオードブルだけで終わらせては勿体ないのじゃ。試合のメインディッシュ、しかと飾り付けておくれ」
味方からの了承を得て安全地帯を出る。
少し先で待ち構えている相手チーム。
今度は誰も隠れることなく、両チーム全員集結している。
「……珍しいね。基本ソロプレイのツラたんがチームプレイなんて」
「おまいうってやつですねー」
「ソロプレイ主義の1期生が集まって大人しくしてるなんてさっ。導化師様に飼いならされちゃったのかな?」
「安い挑発だなニオ・ヴァイスロード。カチュアはただ動く必要がないからここに居るだけだ」
「攻め込んできた敵を迎え撃つ。そこにソロもチームもないのデスよ」
口論による小競り合いもそこそこに、お互い魔法を放つ準備だけ整える。
「こちらもチームプレイとは少し違うのじゃ。ワシらは盾であり矛であり回復アイテム……」
「これからお見せするのは完全装備のソロプレイヤー――――僕史上最強の幽姫ツララだ」
先に動き出したのは2期生、陣形を固めて前進する。
対して迎え撃つ1期生が狙うのは幽姫ツララ。
しかし対象のツララには1撃も入れられることはなかった。
彼女が避けきれなかった攻撃は全てニオとエルの二人が身を呈して防いだことによって。
「本当に肉盾として阻みに来るとは……!」
「3期生の陣形に似ていマス。しかし明らかに違うのは……ツララの存在、というわけデスね」
2期生の陣形は幽姫ツララを中心に両サイドを盾二人が固め、すぐ後ろにヒーラーのりりが控えている。
3期生の場合はヒーラーを守りヒーラーが回復する長期戦を意識した戦法だった。
しかし2期生の場合は短期決戦、幽姫ツララワントップ型の陣形。
「あんまり耐えれなさそうですねー」
「すまんが回復もツララ殿で手一杯なのじゃ」
「あーあ、ニオ達をこんな雑に扱ってくれちゃってさ。これで負けたら承知しないからねっツラたん!」
幽姫ツララを守り、幽姫ツララだけを回復する。
そしてダメージを気にすることなく戦える幽姫ツララが速攻で攻めきる。
「誰にモノを言っている。これだけの御膳立てがあってこの幽姫ツララが負けるはずないだろう?」
一人キルされ、一人キルする。
両チーム凄まじいペースで減り続ける激戦。
そして最後の一人、導化師アルマにトドメを打ち込む。
「チーム戦ではこの幽姫ツララに軍配が上がったようだな。アルマ先輩」
「……うん。やっぱり強い。最初に狙い撃ちしておいて正解だったよ」
そうしてツララ以外が全滅する。
2期生の3人と1期生の2人は既に残基0、リスポーンすることもない。
つまりこの場に戻ってくるのは……。
「でもまだ2対1。ツラたんは体力も少ないし、こっちの有利は変わらないね」
体力万全のアルマとロカに対し1撃でも貰えば終わるツララ。
絶望的な状況、1対1だとしてもまともな闘いにはならないだろう。
「何故、ダメなんだ? 僕は……本気の貴女と闘いたかっただけなのだが……」
「…………」
アルマは何も答えず魔法を打つ手を構える。
その反応に落胆し、全てを諦めたようにツララは脱力した。
一瞬で片がつく、そう思った瞬間だった。
状況が一変したのは。
「…………は?」
突如ツララの体力ゲージが最大まで回復した。
2期生のヒーラー、狡噛りりは既に落とされている。
この場に居るヒーラーは一人だけ……。
「あら、誤射してしまったようですわね。ワタクシノーコンですので。御免遊ばせ?」
「ロカちん……アタシ回復必要なかったんだけど?」
「あらそうでしたの。でも残念ながらこれで仕切り直しですわね」
あっけらかんと誠意のない謝罪をするロカ。
その行動の意味は考えるまでもなく分かる。
「試練を乗り越えた後輩のワガママくらい聞いてあげなさいな。それが導く者の務めでなくて?」
友人にまで咎められる始末。
導化師アルマならどうすべきか分かっているだろう、と。
(分かってる。こんな導化師アルマは誰も求めてないって。そんなの私も思ってることですしぃ……)
異迷ツムリの人真似は、声だけでなく人格そのものをコピーする。
慣れてきたとはいえ長時間アルマをコピーした後の疲労は凄まじい。
そして導化師アルマの人読みを真似るために、人真似の応用で人格をコピーし疑似再現している。
3期生との戦いで無理したときは……正直頭痛で吐きそうになった。
幽姫ツララの相手となれば一瞬も気を抜けない。
どれだけの時間、どれだけの精度で集中する必要があるのか、考えただけでおぞましい。
けれど、それでも……導化師アルマならきっとやってのけるのだろう。
自分が背負っている人物は、それだけ大きな存在なんだ。
隣に座る男の顔を見る。
彼はやれやれと言いたげな表情で頷いた。
もう誰も、導化師アルマの選択を阻む者はいない。
「しょうがないなぁ……やろっか。本気のタイマン」
「!! ありがとう……この恩は僕の全力で返させてもらうよ」
「ワタクシはもうお邪魔虫ですわね。ツララさん、介錯をお願いしますの」
「ロカ先輩。貴女に最大級の感謝を」
役目を終えたロカはツララから放たれた魔法を受け退場する。
残されたのは体力最大、万全の状態の幽姫ツララと導化師アルマ。
皆共待望のベストマッチが始まる。
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