第50話 マジクラウォー決勝戦③

「決勝戦、文字通り最後の戦いなのです。最後に笑うのは一体どちらになるか!」

「アルマ、ぶいえすツララ。れでぃー、ふぁいっ」


《幽姫ツララ念願の闘い……!》

《ツラたん勝ってほしいけど、アルさんが最強のままでいてほしい気持ちもある》

《ドキドキ……》


 客席大盛り上がりの中、一定の距離を挟んで見合う二人。 


 先に動いたのは導化師アルマだった。

 通常の魔法より1秒長いチャージを経て発動したのは黒魔法。

 高速高火力の魔法が飛来するが、幽姫ツララはギリギリのタイミングで躱す。


(一発目は黒魔法、この距離なら躱せるが……問題は次だ)


 続けてアルマは魔法のチャージを開始する。

 その行動に合わせツララも魔法攻撃を試みる。

 ツララの防具と同色の青魔法が着弾する直前、アルマも遅れて魔法を発動する。

 発動したのは白魔法、ツララの青魔法を飲み込み拡散する。


「くっ……」


 広範囲の青魔法となって返ってきた攻撃を避けきれずツララは被弾する。


(やはり読まれた……! 発動するまで黒か白か分からない、さらに攻撃が届くか届かないかギリギリの距離調節。相変わらず厭らしい戦い方だ……!)


 絶え間なく魔法のチャージを繰り返すアルマ。

 そのチャージが黒魔法ならチャージ中に魔法で応戦したいが、白魔法だった場合反射ダメージを受ける。

 そのチャージが白魔法ならチャージ中に接近して近距離戦に持ち込みたいが、黒魔法だった場合大ダメージ確定。

 一見運頼みに見える攻防、それをアルマは心を読んでいるかのように相手の行動を予測し優位に立つ。

 

 現在残りHPは75%程度、次に白魔法の反射ダメージを受ければ残り50%となり黒魔法1発で倒れることになる。

 不用意に動けず、それも読まれているのか黒魔法を撃たれギリギリの回避を要求され続ける。

 苦しい状況が続きそれを見る者達も悶える。


「よく分かんないけど、高度な駆け引き? ツララ、辛そう」

「ぐぬぬ……ムル的にはアルさんに勝ってほしいですがこれ見てるとツララさんも応援したくなるのです……!」


《わかる。どっちも勝ってほしい》

《もう勝敗とか決めなくて良いんじゃなかろうか……?》

《ゲーム性全否定で草》


 防戦一方の幽姫ツララ、視聴者から見ても分かる導化師アルマの圧倒的優位。

 回避を続けながら思考する。


(前はムキになって相手の土俵で戦い敗北したが……やはり読み合いでは勝てんな。だがそれを受け入れてしまえば確実に勝つ方法はもうない……)


 実際に戦えば活路を見いだせるかと思ったが、タイマンである限りアルマの戦闘スタイルに弱点は見いだせない。


(残る手段は運に頼ることだけ……だが何を怯むことがあるか。それがの醍醐味だろう!)


 最後の策に移行する決心を固め、アクションを起こす。

 黒魔法を回避した直後、既に次のチャージを開始しているアルマ。


(最近は勝てる相手とばかり戦ってきたから安全策に逃げることばかり考えてしまっていた。しかし本来ゲームとは互いに技術も読み合いも互角なら、最後は運頼みになるものだ)


 もしかしたらこの行動すら読まれているかもしれない。

 それでも、一度動くと決めたのなら迷いは禁物だ。


(ならば今僕にできるのは、最善を尽くした上で祈ることだけだ!)


 アルマの魔法発動直前まで接近し、ツララも同時に魔法を放つ。

 発動したのは白魔法、ツララのみが反射ダメージを受ける。


「読まれることは想定済みだ。だがこの距離ならもう黒魔法は使えまい」

「けどこの体力差なら十分普通の撃ち合いで勝てるよ」


 残りHP50%以下、それは弱点属性の通常魔法で削りきれる値。

 散々反射ダメージを半減される様子を見て防具の色を把握済みのアルマは迷わず緑の魔法を放つ。


 インファイターさながらの近距離戦闘、見てから回避する余裕なんてはずもない。

 回避の方向もきっと読まれる。

 そう判断したツララは先に防具の属性を変更してから攻撃魔法を発動する。

 ツララへの着弾、遅れてアルマに着弾。

 互いに40%程度のダメージを受ける。


「おや、導化師様なら変更後の防具属性まで読んでくると思ったが。読みを怠ったな?」

「っ……死にかけの状態でよく言うよ」

「なに。これ以降ダメージを受けなければ問題ないさ」


 気丈に振る舞うがHPはまさに風前の灯火。

 一瞬遅れて攻撃したツララは次の攻撃を回避するしかない。

 アルマの攻撃モーションを見て動く。


 躱す方向は左か右、もしくは回避先に攻撃されることを予想し後退する3パターン。

 この選択もきっと読まれる。

 考えて選んでも、本能的に選んでも。


(ならばせめて……3分の1の運ゲーに持ち込ませてもらう!)


 ツララは回避の瞬間、キーボードの移動キーを3つ同時に押した。

 動く方向は完全なるランダム、そこに人読みが介在する余地はない。

 そして幸運にもツララは左方向への回避に成功する。


「今の不自然な挙動……読み合いから逃げたね?」


 返答することなく回避先で攻撃するツララ。

 アルマにも回避する選択肢はあった。

 しかし操作精度はツララの方が圧倒的に上。

 下手に動くよりも単純な動きで読み合いに持っていきたいアルマは攻撃を受けつつ次の攻撃魔法の準備に取り掛かる。


「これでHPはイーブン。さあ勝利の女神はどちらに微笑むか、最後の賭けゲームをしようじゃないか!!」


 最後の攻防、迷う暇もなく選択の時は訪れる。


 ………………。

 

「…………決着っ! 最後に生き残ったのは――――幽姫ツララ! ツララさんの勝利なのです!」

「2期生、優勝おめでと」


《うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!》

《うおおおおおおおおおお!!!》

《うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!》


 言葉を失うほどの激戦を目にし、大歓声を上げる視聴者。

 戦闘フィールド、一人残された幽姫ツララ。

 盛大なSEが流れ、画面にはVictoryの文字。

 対象的に静寂に包まれた部屋で女性は一人拳を作る。


「…………よし」


 ブイアクト各期生対抗マジクラウォーは、幽姫ツララの初勝利で幕を閉じた。

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