第38話 2期生とマジクラコラボ
「魔霧ティアのお喋り特訓企画! 2期生圧迫雑談ー!」
ムルシェのタイトルコールから始まる配信。
ティアに提案した『企画』が数日越しに実現した。
「はいこんヴァーンプ! ブイアクト2期生のサイキョーヴァンパイア紅月ムルシェなのです」
「4期生、魔霧ティア、です。ねえムルシェ。なにこれ」
「ほら圧迫面接ってあるじゃないですか。あれの雑談バージョンです」
「圧迫面接? じゃあ、他にも人来る?」
「もちろんです。皆さん自己紹介の方お願いするのです」
ムルシェの合図に続いて、4人が配信内に姿を表した。
「はーい。得意魔法はC++、プログラミングウィッチの法魔エルですー」
「我こそは銀世界の支配者……。人の世では幽姫ツララという名で通っているよ」
「こちらデバフ系堕天使っ。ニオ・ヴァイスロードでっす♪」
「美食追いし美獣、狡噛リリじゃよ」
「というわけで、今回は2期生フルメンバーでお送りしますよ!」
《思ったより圧迫w》
《初対面レベルの先輩4人てまぁまぁ地獄では?》
《陽キャのコミュ障リンチですねこれ》
「4人も、集めたの? ティアのため?」
「いやー……実はちょっとした打算もあってですね」
「えー? ムルちゃ説明してなかったの?」
「?」
4人のうちの一人、ニオが割り込んだのを皮切りに他メンバーも会話に参加してくる。
「我々2期生は次のゲームイベントの主催者。ゆえに今は裏方仕事をしている」
「裏方仕事、って?」
「基本はステージ設営ですねー。バトルフィールドは用意されたものですけど、折角のイベントですからー。待機所なんかも装飾することになったんですよー」
「資材を集めてステージを作って、と人手が必要な作業じゃが良いイベントにするため苦杯を嘗めるもまた一興。主催者としても良い思い出になりそうじゃろう?」
「でもしょーじきこのステージ設営も時間かかるばかりで動画映えしなかったんで困ってたんですよね。なので作業しながらできる雑談企画は渡りに船というわけなのです!」
《動画映えとかなくても仲良く雑談してくれるだけでこっちは満足だけどね》
《でも企画自体は面白そうだしやっぱムルちゃセンス良いわ》
「そんな裏の目的もありつつ、本題の企画説明に移ろうと思うのです! と言ってもルールは簡単、これから作業しながら雑談するだけです。ちなみにティアさんは1分以上一言も喋らなかったら罰ゲームです」
「タイマー係は任せてくださいー。ムルちゃに頼まれてー、ティアちゃんの音声入力でカウントリセットするアプリ……もとい魔法を作っておきましたー」
「流石エルさん仕事が速い!」
《さすエル》
《魔法……なのか? マジカルというかロジカルだが》
《本人が魔法って言ってるし魔法なんやろ》
「罰ゲームってなに? わくわく」
「ふっふっふ、わくわくしていられるのも今だけです。ムルは知ってるのですよ? ティアさんにぴったりの罰ゲーム、それは――――電波ソングを歌うことです!」
「歌? ティアちゃんって歌得意じゃなかったっけ?」
「え、無理。本当に無理」
「やっぱり。ティアさんよく歌枠立ててますけど、電波ソング聞いたことなかったんですよね。きっと苦手なんだろうなって思いまして」
《そうなの? 歌ってるとこはしょっちゅう見かけるけど》
《ムルちゃもよう見とる》
「なら罰ゲームにぴったりだね。それにけってー!」
「ぬぅ、ムルシェ嫌い……」
「うぐぅっ……いやあの、本当に嫌なら無理強いはしないですけど……」
「……でもやる。こういうのも、友達だと思うから」
「ティアさん……! 一緒にお喋りの練習頑張りましょうね!」
《ええ話やん》
《友情てぇてぇ》
《なんか健気過ぎて泣けてきた》
「それではカウントスタートしつつ作業開始です! まあ最初は戸惑うと思うので慣れるためにも話題をあげるのです。ティアさんの2期生に対する印象を一人一人教えてもらっても良いですか?」
各々が建材を持ってステージ設営作業を開始しつつ、ティアは返答内容を考える。
「んー、じゃあリリから」
「ほう。トップバッターにお選びいただけるとはお目が高いのう」
「変な人」
「ぐむっ……予想以上にストレートじゃのう……。お湯割りくらいの優しい表現にして貰えると助かるのじゃが」
「あ、ごめん。えと……そういう、料理に関係する言葉とか使ってて、喋り方が変。でも、ティアは好き」
「なるほど。個性的で味があるって言いたいんですかね? 確かにリリさんの語彙力はムルもすごいと思うのです」
「そうそれ。ムルシェないす」
「ああそういう。ではお褒めの言葉として謹んで頂戴するかのう」
《マジでブイアクトの料理の人って感じ》
《美食家設定ここまで擦れるのリリ殿くらいだろなぁ》
「ニオはニオは~?」
「あ、ムルシェにイジワルする人」
「えー? ニオなんかしたかなー?」
「カラオケ大会のドタキャンですね。ムルもまだ許してませんからね! けどおかげさまでティアさんと仲良く慣れたので感謝もしといてあげるのです」
「それもう相殺でよくなーい?」
「それはそれです。感謝も恨みもちゃんと伝えないとモヤモヤするじゃないですか。だからなかったことになんてしてあげませんっ!」
《執念深いと思ったら理由可愛い》
《いや結構良いこと言ってる気がするぞ。道徳の教科書に載せよう》
「あとの二人は、あんまり知らない。でも、エルはプログラム書けて、ツララはゲーム上手いって、聞いたことある」
「確かにー、こうして話すのも初めてかもですよねー」
「気にせずとも良い。この幽姫ツララと出会ったからには嫌でも日常的にその名を耳にすることになるからな。もしそうならなければ、僕はそれまでの女だったということさ」
「おおー。なんかカッコ良い?」
「ねーねーツラたん。後ろのオーロラオブジェクト眩しいから消してくれない?」
「いやオーロラは僕のアイデンティティなのだが……あとニオ、前から言ってるけどツラたんはやめてくれ」
「やだ~。だって可愛いじゃーん」
「可愛い通り越して可哀想じゃないか……?」
《ツラたんはほんと最高のあだ名》
《可哀想だから可愛いんだよ》
《中二キャラが可哀想キャラになるのは最早自然の摂理》
そんな魔霧ティア視点の2期生の印象から雑談作業配信は始まった。
「マジクラウォーって、結局なに? マジクラと違うゲーム?」
「うーん同じだけど違うというか……改めて聞かれると説明難しいですね。こういうときはエルさんが頼りになるのです」
「頼られましたー。そもそもマジッククラフトはただのサンドボックスゲームとして売り出してたんですけどー、魔法戦闘要素を作り込み過ぎてそっちが人気が出ちゃったんですよねー。結果PvP魔法バトルゲームのマジクラウォーが追加パッケージとして売りに出され、eスポーツ大会が開かれるまでに発展したわけですよー」
「エル詳しい。ありがと」
「流石ですエルさん!」
「ゲームに歴史あり、だな」
《さすエル(本日2回目)》
《ほぇー知らんかった》
《改めて聞くとすげー変な売りだし方してるなこのゲーム》
「そのゲームの主催者がワシらなんじゃが、正直ちょっと憂鬱なんじゃよ……イベント当日は月末じゃからな……」
「あーそういえばリリさんは設定で……」
「? なにかあるの?」
「ティアちゃんは知らない? なら当日楽しみにしておくと良いですよー。とーってもファンタジーなことが起こるからー」
「? 何言ってるのか、ちょっとよくわからない」
「今のは面白そうって意味ですかね。エルさんはなんでもファンタジーで済ますので慣れるしかないのです」
《そうか! イベントでリリ殿のあの姿が拝めるのか!》
《なんで月末だけなんだろ勿体ない》
《残念系ファンタジー姉さん》
《ファンタジー(意味深)》
あまり関わりのなかった先輩達を会話を通して知ってゆく。
そんな話をしながら会場設営も進んでゆく。
「ん? これ、どうやって作る?」
「それはですねー。ここをこうしてー」
「あ、できた。変な形」
「うわっなにこの違法建築オブジェ。なんでこれで崩れないの?」
「違法じゃないですー魔法ですー」
「なるほど。魔の者の法は人間にとっての違法……いや、ここは異法とでも言うべきか。興味深いね」
「? どういうこと?」
「ムルも何言ってんのか分かんねぇです」
「言語回路が
《なにこの……なに?》
《待機所だしイベントの主旨とは関係ないんだろうけど自由すぎるw》
《アイタタタ……またツラたんの発作が……》
《もはや不治の病。永遠の14歳》
「ツララさーん。ムルこの素材知らないのです」
「それなら錬成レシピ持っているから渡すよ」
「はーい。えとえと、溶岩を錬成して水を注ぐ……」
「あ、ムルシェ、そこで錬成すると……」
「え? あっあっ建築燃えてる! ムルも燃えてるのです!」
「仕方ないな。後始末と素材錬成は僕がやっておくから他の作業を進めていたまえ」
「ごめんなさいなのです……やっぱりムルは参加しても足引っ張ってたかもですね。ある意味司会でよかったのです……」
「そんなこと気にする必要ないがな。司会二人の腕前が見れないのは残念だ。特にティアくん、機会があれば是非対戦願いたいものだ」
「んー。ゲームあんまり、やったことないから。練習してからなら、良いよ」
《むしろムルちゃ出て欲しかったけどなぁ撮れ高枠で》
《ティアちゃんゲーム配信しよ?》
《↑指示厨湧きそう》
「ツララはやっぱり、ゲーム得意?」
「ふむ。それを否定するつもりはないがこのくらいは知識があれば誰でもできる。しかし知識がなくてはプレイスキルが高くとも勝てないからな、知る必要があっただけさ」
「ツララ、意外と真面目?」
「僕はいつだって真面目だが?」
「え? あれで真面目なつもりなのですか?」
「そのつもりらしいですー」
「存在がふざけてるから仕方ないよねっ」
「……あの、僕でも傷つくことくらいあるからな?」
《あれ? 褒められてたはずなのに……》
《存 在 が ふ ざ け て る》
《普段があれだから言われるのも分かるけどね……》
順調に作業を進めながら楽しく会話した。
彼女らは慣れているようで、慣れていないティアも自然に話せた。
「さてそろそろ時間ですが、ティアさん如何でしたか?」
最初は何を話せば良いものかと緊張もあったが、終盤は罰ゲームの制限時間なんてほとんど気にすることがなかった。
それは成長か、それとも彼女らのリードが上手いのか。
「思ったより話せた。けどティア、相槌ばっかりだった気がする。みんなの言ってること、半分くらいわかんなくて、なかなか良い返事思いつかない」
「お喋りってそういうものですよ? 話し上手より聞き上手って言うじゃないですか。でも聞き上手って極論相槌だけでも会話できる語彙力豊富な人だと思いますし。聞いてるアピールするだけでも喋ってる人は安心するのですよ」
「おおー。説得力ある。ムルシェがそういうこと言えるの、すごい違和感」
「え゛っ」
「わっかるー。ギャップ凄いよねー」
「ひどいです……」
《わかる》
《地頭良いの知ってるけど賢いイメージはないのよね》
《天然ボケが多すぎるのです》
「……ともかく、これは経験則なのですが視聴者コメントだってそうです。配信中にコメント拾ってあげると「あ、ちゃんとコメント見てくれるんだ」って嬉しくなってコメントの頻度も増えるのです。これも一つの聞き上手だと思うので、ムルはソロ配信もお喋りの練習になるって昔教えられました。2期生の皆はどうですかね?」
「ワシの場合はメン限で晩酌配信することが多いのう。一人酒も乙なものじゃが、顔の見えない不特定多数の者と飲む酒もなかなか面白いものじゃよ」
「ゲーム配信だと慣れるまではコメント見ながらというのは難しいかもしれないな。もっとも、この幽姫ツララには造作もないことだがな」
「ニオはねー褒められるの好きだからコメント見るの好きだよっ。ニオが推しの話とかしても皆共感してくれてるし、皆優しいから自己肯定感めちゃ上がるんだ~」
「そうですねー。中にはアンチや指示厨などのマナー違反と言われるコメントも見かけることはありますけどー、エルは特に気にならないんですよねー。違う視点からの意見は新しい発見もあるのでー。あ、もちろん誹謗中傷はちゃんと晒し上げますよー」
《反応してくれるのは正直死ぬほど嬉しい》
《マナーは暗黙の了解みたいなとこあるから初見は難しいかも……?》
《こういうこと配信内で言ってくれると配信見るモチベ上がるよね》
「だそうです。視聴者とお喋りするの、ムルも楽しいと思うのです」
「ソロ配信……そっか。今度やってみる」
友達だと思っていた子からの先輩らしい助言。
自分のために色んな人に声をかけてくれて、練習に付き合ってくれて、嬉しくないはずがない。
だからこそ苦手なことも前向きに検討しようと思える。
「というわけで配信も終了間近でしたが……残念ながら1分経過なのです」
「え?」
「うっわ。今のは普通誰でも口挟まないでしょ。ムルちゃきったねー」
「えーでも罰ゲーム配信で罰ゲームなしなんて配信者としてありえないですよね? 企画にした時点で逃れられない運命なのです」
「ティア、嵌められた? むぅ……ムルシェ、悪い子」
罠に嵌められ、罰ゲームを受けることになってしまう。
でも彼女に嫌悪は感じない。
「えへへー。ごめんなさいなのです♪」
画面内の可愛らしい顔も、画面の先でしているであろうイタズラ顔も、今はどんな彼女も愛おしく感じる。
これが友達ということなのだろうか。
言葉だけでなく、心の底からそう思えるようになった一日だった。
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