第37話 魔霧ティアと紅月ムルシェ②

「皆さん! こんヴァンプです!! 夜を統べるサイキョーヴァンパイア、紅月ムルシェなのです。今宵はなんと新たな眷族さんが来てくれてるのです!」

「眷族? よくわからないけど、魔霧ティアです」

「いやー先日のカチュアさんの配信でティアさんと話したら気が合っちゃいまして、仲良くなった結果がこのコラボ配信というわけなのです」


《なんだか心がほっこりする組み合わせ》

《その経緯kwsk》

《そういうてぇてぇエピソードはちゃんとアーカイブに残しといてくれないと》


「えー? ごめんなさいですけどプライベートまで配信に載せられませんよー」

「聞きたいの? お話しする?」

「お喋り配信も良いですが、今日はちゃん企画を持ってきてるのでまたの機会にしましょう!」


《あら残念。楽しみに待ってる》

《次のコラボも期待していいのか! それはそれで嬉しい!》


「では早速、マジクラコラボ配信始めて行くのです! ところでティアさんはマジクラ知ってますか?」

「んーと……マジッククラフト。広大な世界で自由に素材集めやモノ作りを楽しめるサンドボックスゲーム要素に加え、対人戦闘要素も存在する幅広い層をターゲットにした、『魔法を作り、魔法で作る』がテーマのゲーム」

「お、おおー。お詳しいですね?」

「公式サイトの説明文、読んだだけ。やるのは初めて」

「あっよかった……ムル今日ゲーム教えるつもりで呼んだのに自分より詳しいのかと思ってびっくりしちゃいましたよ。ってことでティアさんとマジクラで遊んで行きたいと思うのです!」


《先輩風吹かせておりますなぁ》

《ムルちゃが張り切ってると嫌な予感するの、何故だろう》


 紅月ムルシェ。

 ブイアクト1期生にしてデビューから7年、つまりティアにとって大先輩だ。

 半年経過した今でもコラボ経験が少ないティアは当然ムルシェのこともあまり知らなかった。

 先日共に時間を過ごすまでは。


「ティアさん。連絡したと思うのですが、キャラメイクはできてますか?」

「完璧」

「ではサーバーログインをお願いするのです!」

「うん。入れた。初めまして」

「確かにこの世界では初めましてですねー」

「ムルシェ、なんか強そう」

「ムルは長く続けてて装備も揃っていますので。ティアさんもすぐに追いつけますよ」

「うん。頑張る」


《初々しいですなぁ》

《装備はちゃんとサイキョーだな》


「さて今日の目標なのですが、折角なのでお家を建ててみようと思うのです!」

「お家? あれみたいな?」

「あー……あの大豪邸はロカさんのお家ですね。あれはメチャクチャ時間かかるやつなのでもっと庶民的なお家にしましょう!」


《あんな大きいと目につくよね》

《1ヶ月以上かけてたしなぁ》

《他所は他所! ウチはウチ!》


「まずは素材集めから、木材と鉱石を取りに行きましょう! 斧とピッケルを貸してあげるのです」

「うん。ムルシェ」

「はい? 使い方分かりませんか?」

「どうやって動くの?」

「あっそこから……ネトゲ初めてですか?」

「うん」

「これは長くなりそうですね……えと、動くのはキーボードのWSADで――――」


《ガチガチ初心者かー》

《歌中心でゲーム配信少ないもんね……》


 チュートリアルのごとく教えるムルシェ。

 伐採や採掘を通してアイテムの使い方など操作方法を学ばせてもらう。


「おっと敵が出てきましたね」

「武器ないけど、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。マジクラの攻撃手段は『カラーマジック』という魔法攻撃なので」

「からーまじっく? 色?」

「そうです! その名の通り選んだ色によって属性が変わる魔法なのです。まずはキーボードのCでカラーパレットを出してRGBを決めるのです」

「RGB……聞いたことあるけどよくわかんない」

「大丈夫です! ムルもよく分かってないので!」


《そっか! なら大丈夫だな! ……大丈夫か?》

《ムルちゃって義務教育から外れると途端に頭ヨワヨワになるよね》

《この世で最も不安な大丈夫》


 自分相手に話を盛り上げてくれて、リード上手な頼れる先輩のようだった。

 けどその印象は徐々に崩れてゆくことになる。


「とりあえずRだけ最大にしましょう。そうすると赤色の魔法ができるのです」

「おおー、できた」

「こうして属性を変えるのも理由がありまして、敵にも属性があるのですよ。例えばあそこの敵にエイムを合わせて魔法を撃つと……あっ」

「当たった。赤の敵だから、赤の魔法?」

「……普通に間違えました。同属性はダメージ半減なんで一発じゃ倒せませんね……」


《ムルちゃさぁ……》

《よ、弱いダメージ見せてからの方が分かりやすいかもしれないしね!》


「じゃあ、青の魔法とか? えい。あ、死んだ」

「良いですね! 要は似た色で攻撃するとダメージ倍率が下がる仕様になっているのです」


 敵の倒し方を聞きつつ、道中戦いながら素材を集めて進む。

 すると初心者のティアは攻撃を受けることもあるわけで。


「ムルシェ、ティア死にそう」

「おうふ……そういえば防具なしでしたね。このお肉食べてください」

「食べる。……うん? 体力減ってる」

「へ? あっ! それ生肉でした! 焼いたやつじゃないと回復しないのでこっちを……」

「あ死んだ」

「……ごめんなさいなのです」


《ムルちゃ……最初の方は先輩らしかったのに……》

《やはり長くは保たなかったか》

《それでこそムルちゃだ》


 視聴者もムルシェの失敗には慣れているようで。

 早い段階で彼女が先輩らしくない先輩であることは察していた。

 でも、むしろそのおかげで好感を持てた。


「集めた素材は魔法で錬成して建築材料にして、これで床やら壁やらを作っていくわけですね」

「わかった。よいしょ、よいしょ」

「なんかティアさん、キャラコンの上達速いですね?」

「ん? うん。慣れた」

「始めたばっかりなのにムルより上手いような……これはティアさんがすごいのかムルが下手なのかどっちなのでしょうか?」


《前者、ということにしておこう。その方がみんな幸せ》

《ムルちゃが上手いかって言われると……まあ……》


 欠点があるおかげで親近感が湧いた。

 苦手な教える立場を自分のためにやってくれていることが嬉しかった。

 こんな可愛い先輩、好きになるのに時間はかからなかった。


「いやー……こんなダメダメなムルですけど、これからも仲良くしてくれますかね?」

「友達に、なってくれるってこと?」

「え? ムルはお友達だと思ってましたけど……」

「おおー……ムルシェ、好き」


《てぇてぇの気配を察知! 防御警戒……間に合わない!? ぐあぁぁぁぁ!》

《やさしいせかい》

《やさいせいかつ》

《かってにのんでろ》


 順調に仲を深め、それを見る視聴者も喜ぶ。

 有意義なコラボ配信となった。


「ということで! ティアさんのお家が完成しました! ティアさん初めてのマジクラはどうでしたか?」

「楽しかった。今度自分でも何か作ってみたいと思った。まる」

「はい小学生の日記のようなご感想ありがとうございます!」


《実際二人とも小学生みたいなもんでしょ(褒め言葉)》

《子供の遊びって見てると癒やされるよね》


「さて、最後に告知があるのです。実は今日のコラボ配信の内容にも関係がありまして。今月予定している2期生主催ゲームイベント、各期生対抗マジクラウォー! なんと……司会進行はムルとティアさんの二人でやるのです!」

「やる、のです」


《おお!》

《ムルちゃが司会……だと?》

《大丈夫? アルさん居なくてもできる?》


「心配ご無用! もうムルもベテランですので完璧にこなしてみせるのです! まあちょっとした裏話をするとですね、今回のマジクラウォー大会は4vs4のチーム戦。そのため5人いる2期生と4期生が司会を担当する予定だったのですよ。ただ折角仲良くなれたので、ムルからティアさんにお願いさせてもらったのです!」

「ティアも、ゲーム慣れてなかったから、ちょうどよかった」

「そんなわけで今後ティアさんとの絡みも増えるかもしれませんね」

「うん。嬉しい」


《俺達も嬉しい》

《こうして新たなカプが生まれるのであった》

《てぇてぇはなんぼあっても良いですからねぇ!》


「ありがとうございます!! それでは本日の配信はこれで終わりたいと思います。おつヴァンプなのです!」

「おつゔぁんぷ、です」


 締めの挨拶をし、配信が終了された。

 すると通話中の相手から声を掛けられた。


「ティアさん。ゲームイベントまで何度かやり取りあると思いますが、今後ともよろしくお願いするのです」

「……ね、ムルシェ。司会、ほんとにティアで良かった、の?」

「え? なんでそんなことを?」

「だって、ティアはお話、苦手だから……今日喋れたのは、全部ムルシェのおかげ」


 質問の裏に隠した感情は不安。

 1対1なら問題なく話せるものの、司会ともなれば多くの人と会話することになるだろう。

 そこでもムルシェとしか話せないなんて事態を想像すると、流石に不味い気がした。


「全然そんなことは……」


 ムルシェは否定の言葉を途中で止めた。

 そして改めて口にした返答は予想外のものだった。


「――――ティアさん。それ企画にしちゃっても良いですか?」

「うん……うん?」

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