第18話 ライブのレッスン②
「もーぉしわけないっ! 予定より1週間も遅れちゃって!」
久々のアルマとの再会。
今日は約束通り、デュオ曲のレッスンをするために集まった。
彼女は遅れたと言うが、実はデモ曲の音源と振り付けは既に貰っている。
1週間も遅れた理由は単純に予定が合わなかっただけ。
「仕方ないですよぉ。アルマさん今忙しいんですよね?」
「ですなぁ。10周年となると雑誌にメディアにグッズコラボ、仕事のオファーが来るわ来るわ。マネージャーも優秀なもんで隙間なく仕事埋めてくれちゃって……ありがたいことなんだけどねぇ」
ブイアクトに所属するようになってから導化師アルマの激務っぷりはよく耳にする。
同じ事務所でも彼女とのコラボは1ヶ月以上前の予約が必要と言われるくらいだ。
「でさ。実は今日のレッスン以降も予定空かなくて。あと1回くらいしか曲合わせできないかなーって……」
「えぇ……だ、大丈夫ですかねぇ? 一応初めての大舞台なんで、その……流石に不安ですぅ」
「だよねぇ。そういうわけでさ、今日は助っ人を連れてきたんだ」
「助っ人ですかぁ?」
アルマが言うとレッスン室の扉が開き、一人の女性が入室する。
ツムリには初対面の人間だったが、その声を聞いてすぐに理解できた。
「来ましたわよアルマ。それから……初めましてですわね。異迷ツムリさん」
「!? そ、その声とお嬢様口調、まさかぁ……!」
「お、初対面だと思ったけど分かってくれるんだ。そ、彼女は私の大親友にしてブイアクト1期生……」
「ロカ・セレブレイトですわ」
ブイアクト1期生ロカ・セレブレイト。
導化師アルマを語る上で彼女の存在は不可欠、そう言えるほどに絡みの多い人物。
「わぁ……わぁ……」
「……アルマ。この子どうしたんですの? もしかして人見知り?」
「たぶん感極まって語彙力死滅しただけだと思う。ツムりん? そろそろ復活してー?」
「へぁ!? あ、すみません。ロカアルと同じ空気吸えたことが幸せすぎてトリップしてましたぁ」
「ああ。アルマと同類ですのね」
ロカは見慣れたモノと接するように嘆息する。
ようやく意識がはっきりしてきたツムリは元の話を思い出した。
「そ、それでロカさんが助っ人っていうのは?」
「それはね。私の代わりにツムりんのレッスンを見てもらおうと思って。ほら、今回の曲のテーマって導化師アルマ二人のミラーデュオでしょ? 完成度高めるなら一番の理解者であるロカちんが一番適任だと思ってさ」
「理解者云々はともかく、ダンスは得意ですの。あの声真似の精度であれば、心配なのはダンスの方でしょう?」
「正しくその通りですぅ……」
人選理由を聞かされ納得する。
アルマ本人との練習が少ないのは不安だが、彼女をよく知る人物が評価してくれるのなら心強い。
「それじゃあ時間もないし、早速練習やって行こうか」
アルマの号令と共に、貴重な一回目の練習が始まった。
◇
「これは……想像以上ですわね」
「うん。想像以上にダメダメだねぇ」
「ぜぇ……す、すみまぜぇん……はぁっ……」
繰り返し曲に合わせて振り付けの練習をしてみたものの、それは見るに耐えないものだった。
なまじアルマがミスなく踊れてしまうがために、その不出来さは際立ってしまう。
「逆にアルマさんは何でそんなに踊れるんですかぁ。練習する時間なかったんですよねぇ?」
「一応この道10年のプロだからねぇ」
「ワタクシに言わせればまだまだ甘いですけれどね。ほらここのステップ、貴女昔から苦手ですわね」
「うっ手厳しい……」
ロカは練習風景を収めた動画をアルマに見せながら指摘する。
その仲睦まじい様子を拝みたい衝動に駆られるが、迷惑かけている身としてグッとこらえる。
その代わりに、一つ真面目な要求をすることにした。
「あのぅロカさん。その動画私にも送って貰えませんかぁ?」
「え? ええ。それは構いませんけれど」
「ありがとうございますぅ。次までには最低限仕上げてくるんでぇ」
「……本当にできるんですの?」
ロカは静かに聞いてきた。
彼女はそのまま続けて、淡々と現実を突きつけてくる。
「貴女に求められているのはもう一人の導化師アルマとしてパフォーマンスすること。その意味は分かっていますわね?」
「それはぁ……トップVTuberの名に恥じない最高のパフォーマンスをぉ……」
「そう。ただ合わせるだけじゃありませんわ。でも今のを見る限り体力もセンスも中の下、逆立ちしても届くようには思えませんわ」
「そうですよねぇ……じゃあ沢山頑張らないとですねぇ」
「っ! 貴女は……!」
危機感を感じさせない腑抜けた口調に憤るロカ。
冷静さを欠きそうになったそのとき、横から制止の手が伸びた。
「ストップロカちん。あんまり後輩虐めちゃダメだよ」
「アルマ……けど次のライブは貴女にとっても……」
「そうだね。でもさ、大切だからこそ私はツムりんにお願いしたのさ」
自分のために憤りを見せてくれたロカを優しく諭し、今度はツムリの方に向きかえる。
「ツムりん。やれるんだね?」
「はい。その……信じられないかも知れませんけどぉ……」
「よし。じゃあ信じた」
「……え?」
まさか二つ返事で了承されると思わず、どう言い表したものかと悩んでいたツムリは言葉を失う。
そしてアルマは、過去に聞いたような言葉でツムリの背中を押す。
「ツムりんを信じて頼んだ以上、ライブで失敗しても私の責任だよ。だから気楽に、やりたいようにやりな?」
「あ、ありがとうございますぅ。でも絶対成功させるので心配いりませんよぅ」
「ん。期待してるね」
円満に話をまとめる二人。
となれば気になるのは反対していた残る一人。
二人はチラリとロカの方を見る。
「……はぁ。分かりましたわ。協力すると言った以上最後まで付き合いますの。けどツムリ、ワタクシこう見えて結構厳しいので覚悟なさい?」
「あ、あはは……お手柔らかにぃ……」
先輩からの圧に後ずさりしながらも、許しを得られ一安心する。
ようやく話に区切りがついたところでアルマが動き出した。
「じゃ、私そろそろ迎え来ると思うから……って言ってるうちに来たみたい」
「アルマ。次の仕事が控えているのだから早く着替えなさい」
「はーい」
外から声をかけてきたのはマネージャーと思しき女性。
アルマは追随する形で退室した。
すると女性は歩きながらアルマに愚痴を溢す。
「お待たせマネさん」
「まったく。どうしてもと言うから時間を空けてあげたけど……あなたなら直前のレッスンでも間に合うでしょうに」
「イヤでーす。それじゃ最高のパフォーマンスにできませんから」
「はぁ……いつも言ってるでしょう? 最高じゃなくて良い、平均点で十分だって。ファンは導化師アルマが出演してさえいればそれで満足するのだから」
「……分からず屋め」
導化師アルマ担当マネージャーの無月は優秀だった。
激務と言われるアルマのスケジュールを無駄なく調整する地頭の良さ。
それは彼女の合理主義な性格が功を奏したもの。
しかし、それ故に生まれた価値観の相違。
アルマは担当マネージャーが苦手だった。
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