第41話 同期とお泊りコラボ

 配信を終えた休日の夕方。

 ツムリはメッセージで送られた住所まで来ていた。


「おっ、お邪魔しますぅ……」

「邪魔じゃない。上がって」


 ティアに招かれるまま部屋に上がり込む。

 1LDKのオートロックマンション。

 立地を考えても家賃は高そうだ。


「ティアさんって一人暮らしなんですねぇ」

「ん。友達呼ぶの、初めて」

「えー私なんかが初めて貰っちゃって良いんですかぁ?」

「良いよ。ツムリは初めての友達、だから」

「んぐぅっ……!? こ、光栄ですぅ……!」

「? 晩ごはん、作ってある。食べよ」


 ふざけて聞いたつもりが、思わぬ萌えカウンターを受け言葉を詰まらせるオタク少女。

 そのままダイニングに通され、食事を並べられた席に座る。

 出来立てらしい湯気を見せる品々。

 メニューは白米と煮込みハンバーグにサラダ。

 小綺麗に盛り付けされており、ちょっとしたレストランにでも来た気分になる。


「ナニコレ旨ぁ……お料理上手ですねぇ」

「ありがと。食べてもらうのも、初めて」

「お部屋も綺麗ですしぃ、生活力高いですねぇ。家事なんてどこで覚えたんですかぁ?」

「んー、習い事、かな」

「習い事で家事……? それって花嫁修業ってやつじゃあ……裕福なご家庭だったんですねぇ」

「さあ? 他の家、知らないし。家出したから、もう関係ない」

「なるほど家出……え、家出ぇ!?」


 気になることだらけで質問を続けていると、とんでもないワードが出てきた。

 危うく吹き出しそうになった米をしっかり飲み込み、箸を止めて話を聞く。


「高校で寮に入って、卒業したら帰ってこいって言われたけど、無視した。VTuber、やりたかったから。何も言ってないけど、仕送り引き出してるから、生存報告はできてる」

「わぁ……厳しい親御さんだったんですかねぇ。配信者許してくれなさそうな感じのぉ」

「厳しいっていうか、過保護。家に居たときは、友達作るのも、危ないからダメって」


 親に反対されるというのは配信者あるあると言って差し支えないだろう。

 遊んで稼いでいるように思われ、将来安泰というわけでもない、実際社会的なスキルやマナーは身につきにくい。

 それを過保護な親に伝えるのは難しいかもしれないと納得する。


「でも確かにこれだけ一人暮らし上手ければぁ、もう心配してもらわなくても大丈夫ですよねぇ。嫁に欲しいくらいですぅ」

「じゃあ一緒に住む? ツムリなら、良いよ」

「ひゅごっ!? ぐふぇっん゛ん……あー、魅力的なご提案ですけどぉ。生活スタイルの関係でちょぉっと厳しそうですねぇ……」

「そう? ざんねん」


 からかっているのか?と疑いの目を向けてみるが、その表情に悪戯心は見えない。

 ただ純粋に慕ってくれている、そう思うと余計に心がキュンキュンして辛くなるツムリだった。


 そんな身の上話をしながら食事を終え、今日集まった目的であるゲームを始める。

 ただし、配信という形で。


「こんばんわ。歌うカマキリ、魔霧ティア、です。今日は友達、遊びに来てる」

「はぁいどうもぉ。厚かましくも友達やらせてもらってますぅ異迷ツムリですぅ。今日は唐突にオフコラボすることになっちゃってぇ、告知もなしにすみませんねぇティア友のみなさん」


《ほんといきなり過ぎてビビった》

《あの魔霧ティアが友達呼んでオフコラボ……成長したなぁ》

《ビジネス以外でも友達できてるのね。ちょっと泣きそう》


「あの、ティアさん? ティアさんが普段自枠コラボしなさすぎて友好関係疑われてるんですけどぉ」

「大丈夫。ティア友のみんな、ティアが友達誘うの下手なだけって、気づいてて言ってる」

「なら良いんですけどぉ。あ、そうそう。さっきティアさんの手料理食べたんですよぉ。煮込みバンバーグ美味しかったですぅ」


《手料理……だと……!?》

《ティア様のお手々で捏ねられた肉……食べたい……生でいいから……》

《↑勝手に生肉食って成仏してクレメンス》


「ティアさんひょっとして日常生活とか全然話してない感じですか?

「? 現実のティアの話なんかして面白いの?」

「少なくともティア友名乗ってる人はそういう話に飢えてそうですねぇ……というかこれティア保護者って感じですかね」

「そう? まあいいや。今日は、マジクラの勉強する」


 視聴者に暖かく見守られながら始まった配信。

 パソコンは1台しかないため、操作するティアに後ろからアドバイスするツムリという構図になった。

 そうして小一時間、マジクラウォーでオンライン対戦しながら学んだ。


「そうそう、黒と白の魔法は他より1秒溜めが長いんですよねぇ。代わりにそれぞれ特殊効果があって、黒魔法は速度が速くどんな属性に対しても1.2倍ダメージ、白魔法は相手の魔法攻撃を跳ね返すことができるんですぅ」

「ふぅん。ツムリ、思ったより詳しい。結構やりこんだ?」

「そんなにですよぉ。あ、先輩方のアーカイブはたくさん見ましたねぇ」

「そっか。大会に向けて対策?」

「それもちょっとありますぅ。基本的にはただ推しが多いだけなんですけどぉ」


《知識はあるんだなツムりん。あんな下手なのに》

《ティアちゃんも推しの一人なんやろなぁ》


「そっか。……ツムリは、色んな人の真似してる。どうすれば、別人になりきれる?」

「えぇ? えっと、ティアさんは別人になりたいんですかぁ?」

「別人というか、自分のままだと魔霧ティアはつまんない、から。どうすればいいかなって」


《全然つまんなくないけどなぁ》

《でも悩んでるおかげで成長してるのかな?》

《最近どんどん良くなってきてるよね。トークも上手になってきたし》


「そのままで十分魅力的だとおもいますけどぉ」

「ティアの魅力って、なに?」

「え? 語って良いんですかぁ? 1時間は余裕で語れますけどぉ」

「うん。語って」

「お、おぅ……お許しが出るとは思いませんでしたぁ……」

「語れない、の? ビッグマウス?」

「そんなことないですぅ! 良いでしょう。オタクを煽ったこと、後悔させてやりますよぉ!」


《なんか始まったw》

《さーて何分保つかなー》


 唐突に始まったツムリによる魔霧ティアプレゼン。

 一応ゲーム配信ということでティアはゲーム操作しながら話を聞いていた。

 そしてさらに時間は経過。


「あとぉ……あ、もう時間ですかぁ? ちょっと語り足りませんでしたがぁ、如何でしたかねぇ」

「ゲームしながらだったからかもだけど、よく分かんなかった。ツムリ説明下手?」

「ぐぬぅ……語彙力不足が憎いですぅ……」

「でも、ツムリがティアのこと好きなのは、よく分かった。ありがとう」

「うぁ……推しからの認知気持ちいぃ……」


《マジで1時間やりきったw》

《拙かったけど伝わったぜ……あんたの熱いソウル》

《わかるって心の中で10回以上言ってたわ》

《ツムりん……お前もう名誉ティア友名乗って良いよ……》


「ん、キリ良いし今日の配信はここまで」

「ですねぇ。なんかティアさんのチャンネルなのに後半私ばっかり喋ってて申し訳なかったですぅ」

「みんな喜んでたからダイジョブ。じゃあ、また明日の配信で。おつかれさま、です」


 予定外な上想定外に長く続いた配信を終了させる。

 流石にティアも疲弊したようで、目を擦っている。


「疲れた。もう寝ていい?」

「あっはぁい。今日は遅くまでお疲れさまでしたぁ。じゃあ私はこの辺でお暇しますねぇ」

「? なんでおいとま?」

「なんでってぇ……え? まさか今日ってお泊り会なんですか!?」

「だって、もう夜遅い。それとも、帰ってやることある?」

「それはないですけどぉ、でもお布団とかはぁ?」

「あ、お泊り初めてだから、ない。ティアと一緒のベッドじゃ、イヤ?」

「イヤなんてそんなわけ……! 大歓迎に決まってるじゃないですかぁ!」

「ん、お泊り決定」


 まんまと口車に乗せられ、推しとの同衾が決定するファンの人。

 身支度を済ませ、共に床につく。


「これが噂に聞く、修学旅行の夜、わくわく」

「やっぱりそれも初めてなんですかぁ」

「女二人、話すことと言えば、恋バナ?」

「いや今までの感じからティアさん絶対話すことないですよねぇ。あとブイアクトの恋バナは好みの女性を聞かれるらしいですぅ」

「……すぅ」

「わくわくしてた割にすぐ寝ますねぇ。まあ疲れたとも言ってましたかぁ」


 会話が始まると思いきや早くも終了し脱力する。

 隣の可愛らしい寝息を聞きながら寝ればきっと良い夢見になるだろう。

 そんな浮ついたことを考えながら瞳を閉じたが、その音に思考を遮られた。


「……んぅ?」


 まるで管に風が通るときの振動音のような嫌な音。

 ぜぇ、ひゅぅ、といった掠れた呼吸音。

 その音源は寝苦しそうにしている隣の少女。


「んんー? これぇ……ちょっと不味そう、ですよねぇ……?」

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