第34話 歌唱王決定戦の招待②
「続いての挑戦者の方は……最早この企画の常連ですわね」
「今年も懲りずにやってきたか。その根性は認めよう」
《ついに来たか大本命》
《常連どころか皆勤賞》
《うらうらしてきた!》
「そんな期待されるほどの者やないですけどねぇ。快速牛歩のアルデバラン、3期生の初為ウラノですー」
「毎回の出場ご苦労だなウラノ。意気込みを聞こうか」
「いやー今回から強敵増えたやないですかー。前から注目してたけど、流石やねぇティアちゃん」
「ウラノさん。待ってた」
「待ってた? いやそれより……ウラノ"さん"?」
「初対面だろうと呼び捨てのティアさんが"さん"付け? 何やらかしたんですのウラノさん?」
「んんー、数回話した程度だと思うんやけど……え? 知らんうちに怖がらせとったん?」
《さすが3期生の裏番長》
《私また何かやっちゃいました?》
「ううん、そうじゃなくて。ウラノさんの歌は、芸術。一番好き、デビュー前から」
「え、ほんま? 嬉しいなぁティアちゃんみたいな歌上手い子に褒められるの。おおきになー」
「……///」
「あらあら。こんなティアさん初めて見ますわね。本当に熱心なファンのようで」
「これは一つカッコいいところを見せてやらねばならんな?」
「んーカッコいいとこなぁ。正直リリさんのラップ曲もカッコよかったんよ。あれでかなり興奮したし、今からでも曲変えれんかな? ウラノもラップ曲歌ってみたいわぁ……ちらっ?」
「……盛り上げてくれたリリさんを否定するわけではありませんが、一応歌唱王決定戦という名目ですので真面目に歌ってくださると主催側としては助かりますわ」
「ちぇーいけずやなぁ。しゃーない。今日のところは本気で歌って、後輩に良いとこ見せたるかな」
《照れティアかわヨ》
《ウラティア……ありです!》
《やっとカラオケ大会っぽくなってきたな》
《そして、次の曲が始まるのです》
…………。
「――――得点が出ましたわ。96.9、惜しくもティアさんに届かずですわね」
「あちゃー負けてしもたか」
「ううん、ウラノさんの方が、すごかった。採点機械、壊れてる」
「風評被害はお止しなさい。機器は正常ですわよ」
「しかしティアの言いたいことも分からんでもない。ウラノの歌は採点では計れない魅力と迫力があったよ。見事だ」
「えー照れますわぁ。でもそれはそれとして悔しい! ので、帰って特訓でもして来よかなぁ」
「うむ。その向上心も称賛に値するぞ」
《ウラノちゃんの負けかーでもティアちゃんも上手かったしなー》
《ようするにどっちも凄い!》
《既に満足感も凄いことになってる》
「さて次が最後の挑戦者だが……実は本人が立候補したわけではない」
「とある立候補者の代理出場……というかほぼ他推ですわねこれ」
「嫌々出てもらうのも少々気の毒だが、ブイアクトのメンバーである以上歌からは逃げられんだろうさ」
「本人曰く、『さっさと終わらせたいので何も聞かずに始めて欲しいのです……』とのことですわ」
「うむ。では早速、歌唱開始!」
《他の出場者がガチすぎて出たくないのはわかる……歌苦手ならなおさら》
《友達が勝手に私の名前で応募しちゃってー(ガチ)》
《最後の挑戦者……いったいどこの吸血鬼なんだ?》
…………。
「――――はい。得点は84.7ですわ。お疲れ様ですの」
「ムルシェ。その……なんだ。もっと頑張れ。仮にもアイドルなんだし」
「だってぇ! ホントはニオさんが出る予定だったんですよ!? なのに急に「やっぱりムルちゃが出たほうが面白いくない?」とか言い出しやがったんですよ! マネージャーも了承しちゃってあれよあれよという間にぃ……」
「ワタクシはその判断正しかったと思いますわ。なんというかその……とても癒やされましたわ」
《わ か る(天下無双)》
《下手だから良いってこともあると思います!》
《そのままのムルちゃでいてくれ》
「ティアは感動した。ムルシェ、すごい」
「えぇ……ドベなのにどこが凄かったって言うんですかぁ」
「可愛くて、面白かった。真似したくても、ティアにはできない」
「え? 今ムル馬鹿にされてます? ムルなら何言っても許されると思ってます?」
「ううん、馬鹿にしてない。面白いはすごい」
「えぇそうですかね……そこまで言われるとなんか照れるですね。でもティアさんはもっと凄いですよ! 新人さんなのにあんな高得点!」
「ティアは、ムルシェの歌のほうが、好き。アイドルは上手い歌より、好かれる歌。見習いたい」
「むぅ……じゃあティアさんは褒め上手! 全肯定助かります! だからすごいです!」
「ならムルシェは喜ばせ上手。すごくすごい」
「「……ぷっ、ふふふっ」」
《なんだこのてぇてぇ空間。住みてぇ》
《あれ? 体が透けて……オレ、消えるのか……?》
《アッ……(浄化)》
「ティアさん。もしよければ今度コラボのお誘いしても良いですか? もっとお話したいのです」
「ほんと? 絶対しよ」
「ありがとうございます! 時間もなさそうなので詳しくはまた今度!」
「おけ。またねムルシェ」
《なんだろう……見てると微笑ましくなる二人》
《溢れ出るロリ感(間違いなく15歳越え)》
ムルシェの退場、最後の挑戦者のパフォーマンスが終了した。
「さて、これで全員歌い終わったか。しかし新人に一人も敵わないとは少々不甲斐ないな」
「カチュア。これでティア優勝? 友達なる?」
「ふむ、それも吝かではないが一つ聞きたい」
「なに?」
カチュアは訪ねた。
魔霧ティアという人間を見定めるような視線を向けて。
「あの歌、あれが貴殿の全力か?」
「……全力で歌った、よ」
「なるほど、力を入れすぎたわけだな? 普段の貴殿なら100点くらいいくらでも取れるはずだ」
「んー……だって、アイドルの好かれる歌は、100点の歌じゃない、から」
魔霧ティアは答えた。
確信するような物言いで、しかしその目には迷いがあった。
「違うな。それは100点じゃなくても好かれることは可能ってだけだ。貴殿にその2つを両立する技量がないだけだろう」
カチュアはその答えを切り捨てる。
まるで正しい解を持ち合わせているかのような面持ちで。
「この世で最も優れている歌は……100点の好かれる歌だ。しかと見届け給え」
自身に満ちた表情で踵を返す。
その合図にロカは無言で次の曲を流し始めた。
主催者自らの歌唱。
歌い始めた瞬間、それまで見せていた王者のような貫禄は完全に消え失せた。
一切余裕を感じない表情。
息切れするほどの本気の歌唱。
なのにブレない、安定感のある全力。
それを目の当たりにしたティアは……奮えた。
ずっと探していた何かを見つけた気がして。
歌い終わり、一呼吸置いてカチュアは語りかけた。
「ふぅ……どうだティア。カチュアの100点はつまらなかったか?」
「……ううん、超面白い。勉強になる」
《っぱ歌はカチュアなんよなぁ》
《大口叩くだけのことはある》
《息切らすくらい全力で歌ってくれるのがなお良い。一生歌ってればいいのに》
「いやまあ……確かに100点ですけれど、こういうこと主催者がすると出来レースとか言われるから本気出すのはおやめなさいと事前に言いましたわよね?」
「やべっ……ま、まあ過ぎてしまったことは仕方ない。そういえばティアの優勝も阻止してしまったことになるのか。これで友にはしてやれなくなった、すまんな」
「んー残念」
「だがしかし、カチュアが優勝したときの指示はしていなかったな? 今後貴殿は師匠としてカチュアを崇めたまえ。当然呼ぶときは様を付けろ」
「……ウラノさんの"さん"付けが羨ましくなったんですのね」
《良い先輩風だったのになぁ》
《ほんと口だけはご立派(一応褒め言葉)》
「いいよカチュア様。でもいつか追い越すから、そのときはティアに様付け、ね」
「ふっ、良かろう。貴殿の成長を楽しみにしているよ」
そうしてカラオケ大会配信の幕は閉じた。
本日の成果、友達3人と師匠1人。
そして、心に灯された熱い何か。
いつか自分も、本気の歌を歌ってみたい。
カチュアのように、しかしカチュアとは違う、魔霧ティアだけの本気の歌を。
その日は魔霧ティアの転機とも呼べる日になった。
「……けほっ、ん。お喋り、頑張りすぎた、かな?」
配信終了後、一人咳払いをする。
喉に微かな違和感を覚えたが、内なる高揚がそれを忘れさせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます