第33話 歌唱王決定戦の招待①
某日夜の配信枠。普段より待機勢は多い。
規模の大きなコラボほど人は集まりやすい傾向にある。
その配信主のチャンネル名は――――。
「ようこそ諸君。1期生カチュア・ロマノフだ。今宵この舞台は戦場と化す」
「化しません。ただのカラオケ大会ですわ。同じく1期生ロカ・セレブレイトですの」
「では補佐官ロカよ。企画の説明をしてくれたまえ」
「補佐官って……確かに司会補佐は頼まれましたがただの日雇いバイトですわ」
《通行人はどいてた方がいいぜ! 今日この街は戦場と化すんだからよ!》
《カチュア様の歌企画一生待ってた》
《このセレブまーたバイトやってら》
《あっ100万全ロスしたから……》
「では恒例行事になりつつありますが、知らない方のために説明しますわね。本日はスタジオから3Dでお送りしていますの。カチュア・ロマノフ主催のカラオケ大会はブイアクトのノド自慢を集め点数を競う、その名も……」
「ブイアクト歌唱王決定戦だ!! 今宵もツワモノを自称する4人に集まってもらったぞ」
「自称って失礼ですわね……それに若干1名自称すらしていないようですが、まあ来たからには歌ってもらう他ありませんわね」
《若干1名……いったいどこの吸血鬼なんだ?(すっとぼけ)》
《始まる直前もSNSで嘆いてたなぁ》
《4期生も入ったし結果が楽しみ》
「ふむ。どうやら期待されているようだし、早速来てもらうとしようか。今年のダークホースに」
「では1番の方、お入りくださいませ」
「エントリーナンバー1番。4期生の歌うカマキリ、魔霧ティア、です」
先輩からの合図を聞き、控えていた一人が画面内に入る。
デビュー半年にしてブイアクト歌唱王決定戦初出場の新人。
《ティアたそー》
《これは確かにダークホース。カマキリだけど》
《馬霧ティア……(ぼそっ》
「では魔霧ティア。貴殿の意気込みを聞かせてもらおうか?」
「今日は、友達作りにきた。コラボ、誘ってくれてありがと」
「……この企画も何度目か、出会いの場として使われるのは初めての経験だな」
「カチュアも、友達なってくれる?」
「ふっ、友か。このカチュア・ロマノフには縁遠い単語だな」
「友達いらない? なんでVTuber、やってるの?」
「まるでそれ以外に価値がないかのような物言いだな? ではこうしよう。貴殿が優勝できたら友達でもなんでもなってやろう」
「ホント? じゃー頑張る」
《両極端だけど要するにどっちもコミュsy……》
《ボッチ同士は惹かれ合うってか……》
《なんかもう見てられないからティアちゃん応援するしかないんですけど》
「本人たちを他所にコメント欄が哀愁漂ってますわね……。ともかく一人目、準備は良いですわね?」
「うん」
「それでは歌唱! 開始ぃぃぃーーー!!」
《合図うるさww》
《様式美だからね仕方ないね》
《曲は何かな? wkwk》
主催者らが盛り上げてくれる中、曲の前奏が始まる。
人の配信枠で歌うことに少しばかり緊張を覚え、深く息を吐く。
大丈夫、いつも通り歌うだけ。そう言い聞かせながら魔霧ティアは第一音を発した。
………………。
「――――……ふぅ」
「はい。一人目の挑戦者魔霧ティアさんでした。知ってはいましたが本当にお上手ですわね」
「しかしポップ曲とは珍しい選択だな。得意ジャンルはボカロ曲だと思っていたが」
「ん。挑戦してみたくなって。ちょっと、自信ないけど」
「さて結果が出ましたわ。得点は――――97.2。早くも優勝候補かもしれませんわね?」
《自信ない……? このクオリティで? 誇らしくないの?》
《確かに普段の歌枠と比べて辿々しかったかも》
《むしろ慣れてない感じが良き》
「うむ、確かに高得点だな。当然一人目の挑戦者だから暫定1位だ。王者の椅子に座ると良い」
「王者の、椅子? どう見ても、普通のオフィスチェア」
「いや……それを言ったら身も蓋もなくなるだろう」
「一応配信画面ではそれっぽい豪華な椅子になってますの。なので裏側の話は持ち込まないでいただけると助かりますわ」
「そっか。ごめん」
「構いませんわ。どうぞお座りくださいませ」
「ん、悪くない座り心地。ぐるーん」
「回転して遊ぶのもお止めなさい。配信画面バグりますわ」
「貴殿さては天然だな?」
《自由すぎるww》
《天然可愛いけどさぁw》
「まあ比較対象が居ないと盛り上がらんだろう。ロカ、次の挑戦者を」
「そうですわね。2番の方お入りくださいませ」
司会の落ち着いた進行に促され、それと相反するテンションの挑戦者が登場した。
「待たせたのう! 儂じゃよ! エントリーナンバー2番。美食追いし美獣、2期生の狡噛リリじゃよ!」
《待 っ て な い》
《狡噛殿に歌のイメージあんまなかったからちょっと驚き》
《ネタ枠の予感》
「どうやらオーディエンスからの期待は薄そうだが、いかがかな?」
「ふっ甘いのう。その認識、グラブジャムンより甘いと言う他ないぞい!」
《くらぶ……なんて?》
《グラブジャムンは世界一甘いお菓子》
《相変わらず無駄に洒落た言い回しだなぁ》
「『万物美味。全ては美食に通ず』がこの狡噛リリのモットー。本日は勝利の味を噛み締めに馳せ参じた次第。メインディッシュの1曲だけじゃが美食家イチオシの一品、乞うご期待あれ」
「準備は万端のようですわね。それでは合図を」
「うむ。歌唱開始!」
《あっ早くも開始の合図楽してる》
《気づいてしまったか……うるさいだけで誰も求めてないって……》
《喉の負担エグそうだしねあれ》
………………。
「――――以上、ご賞味の程は如何ですかな?」
「リリ、面白かった。ティアには真似できない」
「ふむ。存外楽しめたな。エンターテイナーとしては花マルだ」
「お褒めいただき恐悦至極」
「えぇと得点ですが……92.0、ある意味奮闘したと言えるのでしょうね。リリさん、あなた今の選曲で本当に優勝する気ありましたの?」
「ふっ。色物枠も一つの美味しい役目、そう存じておりますぞい」
「やかましいですわ」
《うん……まあ、こんな反応にもなるわな。面白かったけど》
《カラオケ大会でラップ曲出してくるやつがあるかww》
《しかも結構クオリティ高めだし、ほんと美味しいキャラしてるよあんたw》
「さて、敗者のリリは残念ながらここで出番終了だ。腹を切る前に遺言はあるかね?」
「冗談にしても物騒すぎますわよカチュアさん」
「ほう腹切り。人間のホルモンを調理するのは初めてじゃのう」
「経験あったら通報してますわね」
《自分すら食材判定なのかこの美食キチw》
《美食の追求に犠牲はつきものデースとか言い出しそう》
「さあ人生最後の負け惜しみタイムだ狡噛リリ。残り少ない生を存分に噛みしめたまえ」
「おお! 素敵な表現ですなカチュア殿! 生を噛みしめる、美食家の最後に相応しい甘美な響きじゃのう」
「……あなた方、ツッコミ役がいるからって調子に乗り始めてますわね? バイトがフォローするのは司会進行だけですわよ。さっさと話を進めなさいな」
「「サーセン」」
《セレブツヨイ》
《このロープレ役者ども御しきれるのロカ様くらいなのでは……?》
《カラオケ負けたら腹切り強要するパワハラ上官》
脱線し続け収集つかなくなりかけたところをロカに叱られ大人しくなる二人。
一呼吸置いてゲストの狡噛リリは口を開いた。
「けど確かに、このまま成果なしでフェードアウトは少々味気ないのう。では暫定1位の魔霧ティア殿に質問よろしいですかな?」
「ん? なに?」
「君の同期で酒に強い御仁はおるかのう?」
「知らない。ティアお酒飲めないから」
「それは残念……知る機会があれば是非教えてもらえんかのう」
「んー、友達になってくれるなら、良いよ」
「ほほう。であれば今度同期の皆でウチに来ると良いのじゃ。美味しいツマミと酒、それにジュースも用意しておくのじゃよ」
「うん。約束」
《友達作り頑張ってるなぁ》
《最早一種の妖怪に見えてきた》
《友好妖怪『あーゆーふれんど?』》
二人目の挑戦者、狡噛リリとの交流。
少女の目標は順調に達成できていた。
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