第16話 幕間:導化師アルマ/麻豆ジュビア・鳴主サタニャ

「お次はこの二人、麻豆ジュビアさんと鳴主サタニャさん。『バトルマーメイド』でお馴染みのジュビ×サタじゃい!」


 10周年ライブ直前、導化師アルマによる逆寄せ書き配信。

 何人目かの紹介に続いて、今度は二人同時に指名された。


「ジューさんは腹黒そうとか実家で声低そうとか色々言われてるけど、案外根っこも第一印象通りの可愛らしい天使みたいな子なんですよねぇ。逆にサタにゃんの方がギャップあるかも。やる気なさそーに見せといて意外と好戦的だったり、クールと見せかけ末っ子っぽいのかな。で、この二人とコラボすると毎回喧嘩してるわけですよ。仲裁しないと収拾つかなくなるくらい騒いで」


 彼女から見た、二人の人柄と共に過ごした思い出を振り返り語る。


「けど不仲って訳じゃなくてね、尊敬しあってるからこその喧嘩なんですよ。二人それぞれに作詞と作曲って長所があって、それをリスペクトしつつもお互い対等であり続けるために争って……あの二人の間にはアタシが入り込めない絆がある」


 愛おしそうに、少しだけ寂しそうに、最後の言葉の前に息を吸う。


「やっぱジュビサタてぇてぇってわけですよ! けどバトルマーメイドの絆も忘れないで欲しいなぁ!」


 テキストボックスに『てぇてぇの間に挟まろうとする愚か者を許してくれるかい……?』と書き記す。

 そんな配信アーカイブを見た二人は言う。


「気持ちは嬉しいけどさぁ……風評被害は勘弁して欲しいね!」

「全く同意。こんな分かり手語りオタクみたいなことされると無根な事実に謎の信憑性が生まれてしまう」


 反抗的に抗議しつつも、その顔はどこか満更でもない。

 導化師アルマが自分を理解してくれているという事実が嬉しくもあり、どこか気恥ずかしい。


「もちろんアルマちゃんとも仲良くしたいよ☆ ……まあバトルマーメイドは3人ユニットだし、サタちゃんもついでに仲良くしたげるかな」

「致し方なし。本気の不仲を見せてしまうとアルさんが悲しむから」


 『バトルマーメイド』というユニットでたくさんの時間を過ごした。

 配信内でも、配信外でも。

 その絆を忘れるだなんてあり得ない。


《あの曲についてどう思う?》


 そう問われた二人は同じ曲を思い出し共有する。


「あの曲って……まあアルさんの曲と言えばあれだよね」

「うん。『ハイエンドピエロ』」


 鳴主サタニャが告げた名は導化師アルマ史上、さらに言えばブイアクト史上最も有名な曲の名だった。


「あれは聞く人によって感想変わる」

「ネットで色々考察されてるよねー。そういうの抜きで率直な感想言うとしたら……強い中毒性と胸焼けしそうなくらい重厚感のある曲、かなぁ? 初めて聞いたときは感情グチャグチャにされたよね……。サタちゃんはどう?」

「うーん……聞いてるこっちが疲れる曲。感情移入しやすい歌い方なだけに暗い気分になる……けど、最後は明るい未来に導いてくれる素敵な曲」

「あー分かるかも。やっぱりジュビア達だとどうしてもVTuberの視点から見ちゃうよね」


 語りだすと止まらなくなるくらいに思い入れのある曲。

 それは曲自体の良さもあるが、導化師アルマが歌っているからこそ……。


「活動してて辛いことがあっても、アルさんが居てくれれば大丈夫って安心感がある。今は導かれるばかりだけど……いつかは隣に立てるようになりたい」

「……そうだね。アルマちゃんはブイアクトの仲間であり友達であり、目標でもあって、少しだけ遠い存在。でも絶対に追いつくよ。なんなら追い抜いて今度はジュビアが導いてあげるからね☆」


 麻豆ジュビアと鳴主サタニャが導化師アルマに抱いていた感情は『憧憬』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る