理由
☆
☆
高校一年生、夏休み明け。
今日は金曜日。
普通なら青春真っ盛りだろうが……今の俺は学校をサボり、早いところ一週間。
そして土日が近付いてきている。何もやってないのにね。
学力テストまでもうすぐなのに。
夕方、自室。
今日も学校に行かず放課後時間。
「……ふー。久々にランニングやったな」
でも最近は気分がマシだ。
その訳は簡単。
奇妙な事に、コンビニのイートインスペースに居座ってたから。
なんでだよ。営業妨害だろ。
まあそんな事思いながらも、今日もお世話になってたんだけど。
甘えて良いか分からなかった。
でも、断るのもそれはそれで、善意を
《――「ここで働いてみない?」――》
そして今日。そんなお声が掛かった。
見るからに訳アリの男によく声を掛けたもんだよ。
自分で言うのもアレだけど。
《――「とりあえず面接だけでも!」――》
そしてこれから面接です。
……ま、もちろん断るつもりだけどね。
バイト経験とか無いし。
こんな逆転世界で――多分、いや確実に迷惑が掛かるだろうし。
今の精神状態でバイトなんてやっていける気がしない。
あっちだって商売だから。
「はー。どうするよ……」
でも。
あの店長さんの表情を見ると、やけに断りにくいんだ。
優しさの塊みたいな感じ。両親は俺が息子だから分かるんだけど、あの人に関しては分からない。
下心も……そこまで感じないし。ちょっと俺の首辺りたまに見てくるけど。
あーあ。
なんであの場で断らなかったかな――
☆
夜の18時。
部活帰りの女子高生達も居なくなり、客もほとんどいない様に見えるそのコンビニ。
大丈夫なのここ?
「こんちは~……」
「おーよく来たな!」
色々考えながら店に入る。
よく見る名札の……『北斗』さんが出迎えてくれる。
気のいいお姉さんって感じだ。
でも、その筋肉は中々のもの。
ガチガチについてるわけじゃないんだけど、結構鍛えてそうだ。背中とかスゴイ。
喧嘩したらぶっ飛ぶな俺。
「どうも……店長さんは?」
「中で副店と待ってるよ。こっちこっち。まー面接頑張りな~」
「お、お邪魔します……」
案内されるまま、普通なら入れないレジカウンターの中へ。
薄い布で隠されたその場所に入ると、小さい事務所的な場所があった。
ここってこうなってんだね。
「……」ジー
「あ! ま、待ってたよー!」
「どうも……」
1人分しか使えなさそうな小さい机。
向かい側に店長さんと副店長? さんが座っていて。
「そっち座ってくれる? ごめんね~
「……」ジー
「あぁはい……」
手前側に俺が座る。
というか、めちゃくちゃ見てくるんだけどこの人。
ショートカットで長い前髪。
覗く瞳が、ずっと俺を捉えている。
……メカクレ系女子ってやつか。始めて見た。
「……ッ」
「あ。すいません」
思わずそれを覗けば、目を逸らされた。
珍しいからって見過ぎちゃったかな。
「……す、すごい……」
「はい?」
「副店ちゃんの“
んで、なんで店長さんは驚いてんだよ。
ただ視線向けられたから向け返しただけなのに。
……とりあえず、お断りだけしておくか。長くなったら申し訳ないし。
「バイトの件なんですけど。迷惑掛けるわけにはいかないんで——」
「——やっぱり、君には素質があるよ!」
「!?」
身を乗り出す店長さん。
思わず
……コンビニバイトの素質? なんだよそれ。
そんなの聞いたことが無い。
どんだけ人が足りてないんだ?
「言っちゃアレなんだけど。ココって治安悪くてね? 厄介客とかちょっかい掛ける女子高生達とかクレーマーとかいっぱい来るんだけど……」
「そうっすか(困惑)」
と思ったら、働かせる気あんのかってセリフ。
この人は何が言いたいんだ?
「もちろんそういう人達は私が対処するんだけどね? 見てるだけでも嫌って子が多くて。でも君なら、余裕で
「……すいません。だとしても、正直今は働ける気分じゃないんで」
「じゃ、じゃあ! そういう気分になったらで良いから!」
「え……」
「別に働かなくても良いから。見習い? 違うなぁ、仮バイト? 居候……的な感じで! このスタッフルームに居て良いから!」
「なんですかそれ」
意味がわからない。
この人は、一体何を——
「その。居場所が……無いんだよね? 学校にも、家? にも」
「っ。そうですけど……」
「だったら、ココに居てくれて良いから!」
「いやいや……」
「嫌かな?」
「そ、そういうわけじゃ無いです。でもおかしいじゃないですか、働いてもないのに」
「良いの良いの! どうせココ、ほぼ誰も使わないし! 私と副店ちゃんぐらい!」
どうしてだ。
いくらなんでも、俺に対して都合が良すぎる。
おかしい。
でも――彼女から裏は感じれない。
「……」
「どうかな?」
「……なんで」
「?」
「なんで、こんな。俺なんかにそこまでしてくれるんですか」
彼女から感じるのは、純粋な優しさだけ。
でも。それでも受け入れるのが怖い。
だから、俺はそう言えば――
「――“私が大人で、君が子供だから”」
「!」
笑う彼女。
俺はそれに、何も返せなかった。
……卑怯だろ、そのセリフは。
“男”とか。“世界”とか。“迷惑”とか。
俺が気にしていたものが、全部関係なくなってしまう。
甘えない理由が――無くなってしまうから。
「ふふっそういう訳だから、気にしなくて良いんだよ」
「……」
「い、いやかな?」
「俺。バイト経験ゼロですけど大丈夫ですか?」
「! 全然良いよ!」
「あと多分、常識とか知らないですけど」
「いっ良いよ良いよ! 一から教えてあげるから!」
「……言葉遣いも――」
「大丈夫大丈夫! 実はインド人とかでも全然日本語から教えるから!」
「実は異世界から来たんですけど」
「えっ異世界!? あーもう何でもオッケー!」
「……」
ああ、なんでこの人はこんな優しいんだよ。
無理だ。もう限界だ。
その手を取らない程、俺は強くない。
「っ」
諦めてたのに。
あかり以外――居場所なんて、もう出来ないと思ってたのに。
「!? え、え、ちょっ」
「――店長、新人君はどんな感じ……はぁっ!?」
「ち、ちがうの北斗さん!」
「男、しかも15歳を泣かせるとか流石にヤバいぞ店長……」
「……い、異世界……!」カチコチ
「副店も何で固まってんだよ……」
窮屈なスタッフルーム。
三人の“先輩”がわちゃわちゃと騒ぐその場所。
うるさいはずなのに、やけに暖かくて。
「よろしく、お願いします」
ずっと居たいと思える場所。
それに俺は――頭を下げた。
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