早すぎる再会



『んでんでんで勇者小晴さまさまさま、あの噂の真偽は……』

『……あー。あれ?』

『アレだよ! その、コンビニの……いや、期待してたわけじゃないですがね……』

『……』

『?』

『ひ、秘密っ』

『!?!?!?!?!?!?』

『……それじゃ学校行くね』

『ちょっとま――』



――ガチャ



朝。

掛かってきた友達との電話後、制服を来て学校に向かう。


玄関を開ければ、そこには——



「よう、ざこ……ッ!?」

「?」



当たり前かのように、将太は玄関で待っている。

来ないでって言ってるのに。



「な、なんか、あったろ!」

「別に将太には関係なくない?」



顔色を変える彼。

別に、私は何時も通りだ。


制服も髪も、アクセサリーも付けていない地味な女。

ただ一つ違うのは——。



「首の、それ」

「ただの虫刺され。うるさいなぁ」



《——「お願いしますっ……ココに、付けて下さい」——》

《——「え。良いの? 残るよ」——》

《――「“だから” ですよ」――》



昨晩、女らしからぬ媚びた声で……私は彼に懇願こんがんした。

その、“虫刺され”を。



「……ッ。なんなんだよ!」



いつものように、バカにしてこない将太。

そのまま付いてくることもなく、立ち尽くしている。



「ざ、ざこのくせに。嘘だ、嘘だ……!」



いつもは不愉快だったその言葉も、どこか弱々しい。

だから私はそのまま学校へ向かって歩く。


もう、彼の事は気にならなかった。






学校終わり。

いつも通りバイトの為にコンビニへ。



「入りまーす」

「さ、佐藤君今日もよろしく……あっ」

「これですか? ははっ強く刺されたみたいですね(目そらし)」

「あ、あ。そっか! 佐藤君、虫によく刺されるからこれ買ってきたよ。塗ったら?」

「え。良いんすか」



なんて良い人なんだ、店長は。

その、俺のうなじに向けるよこしまな視線さえなければ……。


前の世界で聞いたことがある。

女性は男が向けてくる視線は分かりやすい。

それを理解する日が来るとは思わなかったけどね。


まあ仕方ない。

店長もストレスが溜まってるんだろう、昨日だって変なクレーマー来てたし。

ペットボトル飲料温めて下さい(怒)はそりゃ無理だろ……。



「客いないし……店長塗ってくれます?」

「 」

「死んだ」

「いいいいい、良いの?」

「あの、一応こっちがお願いしてる立場なんですけど……」

「あっ。そ、そうだよね!」



鼻息荒っ!

高い眼鏡が曇ってますよ店長。

湿気高いのかな? 梅雨にはまだ早い!


……ま、店長にはいつもお世話になってるから良いだろ。

こんなんでご褒美になるこの世界ほんと狂ってる。


逆に言えば、恰好に気を付けないと“はしたない”男と見られる。

屈んだ時に背中からパンツでも見えてしまえば……はいビッチ。ふざけんな。

あ、俺既にビッチだったわ(無敵)。



「ぬ、塗るね」

「どぞ」

「こ、これで良いかな」

「ありがとうございます。んじゃ品出しやりまー」

「こちらこそ! ……これが、佐藤君のうなじの感触……」



おい聞こえてんぞ! 流石にキモイぞ! 引くぞ!


店長も25なんだし、俺みたいなので男慣れして早く相手見つけてほしいもんだ。


現役DK()であるうちはココにお世話になるつもりだけど……そこからは知らないからな。


責任取るから! はこの世界じゃ普通女の子の側からのセリフだ。当然プロポーズも。


彼女もいつか、想い人にそう伝えられる度胸を持ってほしい(何様)。



――ピロピロピロ



「しゃっせー」

「い、いらっしゃいませ」



昨日と同じく、レジは店長に任せて品出し&陳列。

女子高の近くということもあり、女の子の客からセクハラを受けるから俺はそっちを主にやっている。

というか店長がそうさせている。


最初は理解できずに固まった。

『お兄さんテイクアウトで(笑)』とかマジで言われるんだぞ?

俺的には不愉快ではないし、むしろ嬉しいんだけど。

単純にレジが混むからね。基本レジは店長だ。



――ピロピロピロ


――ピロピロピロ


――ピロピロピロ



しかしながら、始まる部活終わりのラッシュ。

まあ、当然こうなったら俺もレジの応援に行く——



「――お待ちのお客様、こちらのレジにどーぞー」


「「「!!!」」」

「あ……」



なんで女子高生ほぼ全員俺のレジに来るんだよ!

店長困ってるじゃん……。



「お兄さんって年いくつ?」

「秘密です。えー、ミンテアお一つで110円になります。はい、次のお客様ー」

「つれないなぁ」



うるせぇココはキャバクラじゃない!

ちなみにこの世界のキャバクラは男の接客が普通だ。


なんだよキャバ坊って。ゴロ悪いだろ!



「商品お預かりしますー」

「てかLUINやってる?」

「携帯壊れてて(大嘘)。リプトヌお一つで210円になります。はいイーペイで。お次のお客様どうぞー」



もう少し、小晴みたいに礼儀を持ってほしいもんだね。

……土下座されたらそれはそれで困るか……。



「商品お預かりしますー」



レジをこなしながら考える。

小晴。そして彼女を罵る男の影。


嫌な予感。

この世界風に言うと、“男の勘”。なんだそれ。



……ま、大丈夫だよな。





結局レジの前に軽く行列が出来てしまい(客が話してくるせいで)、捌くのに時間が掛かってしまった。

一回並ぶと離脱しにくいから、結局全員相手した。疲れた。


別にこの広い世界、男なんていくらでも居る。

そっちに行ってくれ。

こんなビッチ野郎、相手するだけもったいないぞ。



「あー疲れた……ラッシュ、終わりましたね」

「ごめんね佐藤君……」

「いやいや。店長は何も悪くないんで」



19時。

この時間帯になってしまえば、後はサラリーウーマン(略してリーマン)なり近隣住民だけ。

コンビニなんてここ以外にも近くにあるから、かなり暇になる。



「掃除してきまーす」

「うん、よろしく!」



外の空気を吸いたかったから、店長にそう言って店から出た。

ほうきと塵取りを持ってね。



「家の掃除は気が進まないのに、職場の掃除は気が進むのって変だよな……」



そんな事を呟きながら、落ち葉なり使用済みタバコを塵取りの中へ。

きったねーなホント。掃除が捗る。



「うわっあぶね」



ふと見れば、空き缶が駐車場にポイ捨てされていた。

走ってその場所に急行。確保。


こんなん車が踏んだらどうすんだよ、全く――



「――ううっ……」



え、なんか人の鳴き声した?

あっ誰かいる。

よくある、背が低いコンビニ看板の所に人影一つ。



「あのー、どうかされまし――!?」

「ぇ、あ……」



声を掛ければ。

涙を浮かべたその顔は――



「……小晴?」



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