卒業おめでとう!
「あのコンビニの男子店員は、頼んだらヤらせてくれるらしい」
衝撃的な言葉だった。
「うそだ」
「いやーマジだって! そこの女子高の子がさ、その“店員さん”に……って噂」
「そ、そんな人居る訳ないじゃん」
「私もそう思うんだけどさ。ただ、エロいのよ。エロ過ぎるのよ。見れば見る程エロイ! まるで味がし続けるガム。あれでコンビニ店員は無理でしょ! 正体見たりって感じだよな! 今夜、君の街まで」
「何言ってるの」
「まあでも私にそんな度胸無いからよろしく」
「えぇ……」
中学の部活の友達。
女子高に入ってから色々おかしくなった彼女は、そのコンビニの話になるともっとおかしくなってしまうのだ。
期待なんてできない。
というか、そういう人が居たとしても怖い。
見返りに何か凄いものを要求されるかもしれない。
最近のニュースで見た。男の誘いにのったら連れ込まれた先に三人の女が居て、金銭を要求されたみたいな。
でも。
《――「ざーこ。一生処女~♪」――》
脳内に響く声。
それ以上に、私は処女を捨てたかった――
☆
『
自分で言うのもアレだけど……なんの変哲もない、普通の少女。
偏差値50程度の普通高校。
「はぁ……」
そこに通う私には、悩みがあった。
「ため息とかなに? 構ってほしいのか~?」
「もう一緒に登校しないでって言ったよね」
「ざこの言う事なんて聞きません~」
「……チッ」
「舌打ち小さ! ざこ乙~」
「っ……」
気付けば隣に現れる男、『井上
中学の頃。引っ越して来た頃から交流があった。
「なんか言え。ざーこ」
家族が居る時はおとなしいのに、二人っきりになったらコレだ。
ひたすらに
女受けが良い小さい背丈。
茶髪のショートに、洒落た髪留めを着けている。
小悪魔を連想させる可愛い系の顔。
見た目だけなら世間的にはかなり良いとは思う。
でも、性格が最悪なのだ。
「万年処女、相手無し~♪」
「うるさい……」
「声ちっさ♪」
小さく呟く私を見て、彼はキャッキャと笑う。
まるでこれが生き甲斐かの如く。
学校でも、隙あらば耳元で罵ってくる。
言われたくない事を延々と。
周囲の女子からは羨ましいと言われる事もあるが、それはそれ。
まさかこんな罵倒をしてるなんて思わないだろう。
「……っ」
だからこそ。
学校終わり、温めた一張羅に身を包み。
その“コンビニ”に向かった。
「いらっしゃいませー」
「!」
そして一目見て理解した。
「しゃっせー」
「!!」
「しゃせー」
「!!!」
『あ、この人だ』と。
付き過ぎていない筋肉。
すらっとした線の細い身体。
口から出る言葉が、勝手に卑猥な言葉に聞こえてしまう程に。
対称的に綺麗な姿勢。
対称的に、制服から覗く美しい首元には、それを汚す様に虫に刺された様な跡が――
エロだ。
一人でするのを二日も我慢したからか、私の思考にブレーキが掛からない!
「?」
「ッ!? す、すみませッ」
「何かお探しで?」
「あっ、いやっ、ウィンドウショッピングを……」
「ははっコンビニで? 面白い方ですね、どーぞどーぞ」
貴方をウィンドウショッピングしていました、なんて言えるわけがない。
みっともなくそそくさとそこから離れ、そしてなおガン見し続ける。
あんな素敵な人が、私なんかの相手するわけない、けど。
私なんか、なんの価値も無いんだから。
捨てるものなんてない。だったら、玉砕覚悟で――
そんな風に。
小一時間、コンビニでウィンドウショッピングをし続け。
「!」
今なら。今なら店内誰も居ない!!
そのタイミングを見計らい——
「処女……捨て、させて下さい……! なんでもします……!!」
私は床にキスをした。
そして、そこからは——
☆
「じゃー気を付けてな。卒業おめでとう!」
「あ、ありがとうございます……!」
気付けば、夜になっていた。
未だに火照った身体。
駅まで送ってもらって、いま私はホームで立っている。
「夢じゃないよね」
その呟きは春の風で消えていった。
それでも、この熱だけは冷めてくれない。
《――「まっ、なんかあったら言ってよ」――》
彼の顔が離れない。
そして、その彼と乱れた行為をした事実。
「はぁ……分かってる。分かってるけど」
一晩だけ。
土下座したらヤラせてくれた男。
相手は世間で言われているような
《——「俺が男で、君が女の子だから」——》
でも……
ベッドの上、笑っているけれど、どこか寂しそうな表情が離れない。
色っぽくて。ミステリアスな人で。
「また話したいなぁ……」
そんな呟きが、自然と出てきてしまう彼。
だからだろうか。
漫画で見るようなキスマーク。
それを、彼に付けてしまった。
そしてそれは自分にも――
「……♪」
うなじに手を当てながら、鼻歌を夜に溶かす。
されど、あの光景が蘇ってすぐに止まる。
私は今日――男を知った。
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