こっちの世界の遊び方


睡魔に溺れ、残り五分。

黒板を死ぬ気で書き写し、無事六限が終了。



「……疲れた」



本来は爆速で帰宅、今頃は家なんだが。


――ピコン!



かなたん『終わったよ! 向かうね☆』

佐藤『r』

かなたん『みじかっ!』



「現役DKアイドルの連絡先、ね……」



メッセージアプリでも元気に突っ込む、『かなたん』を見て呟く。

半ば強制的に登録された彼のアカウント。


未だに迷いが晴れない。

喉に魚の小骨が引っ掛かった様に。

沁みついた“男子”への苦手意識が――



「――お待たせ☆」



駅前。

不意に、肩を叩かれる。



「……かなた、だよな」

「うん!」



そこには、眼鏡にマスクにベレー帽。

お手本の様な変装セットに身を包んだ彼の姿があった。


漫画とかでよく見るやつだけど、こんだけ分からなくなるなら定番なのも納得!



《――「ボク、ちょっと着替えてから行くから」――》



昼休み。

そう言われた時は、アイドル衣装にでも着替えんのかと思ったけど。そんなわけねーだろ。



「で。なんで俺なの」

「……えー? いきなりだね☆」

「そりゃな」

「ズバリ! 女の人への耐性をつける為!」

「……?」



コイツ何言ってんの?

俺の事女の子とでも?



「えと……ね? やっぱりボクこういう立場だし」

「女性と居たらスキャンダルになるわな」

「そう! で、そこでクラスに女の子達とずっと居るキミを発見!」

「まさかそれで俺が女の子のかわりになると」

「あと……単純に佐藤くんと遊んでみたかった、かな☆」



いちいちウインクしやがって。

同性だと分かっててもドキドキするんだよ!


他の男子と比べて、コイツは少々可愛すぎる。



「そんな都合良い理由は求めてないけど」

「ほんとだよ! だって、君だけクラスで女の子達と一緒になって騒いで……あ」

「間違ってないし今更だし」

「あ、あはは。ごめんね?」

「俺はアレが楽しいからやってんの。謝られると逆に困る」



あいつらと馬鹿やってる時間の方が、クラスの男子と居るよりも良い。

興味のない化粧品や女性イケメンアイドル(?)の話よりも。


白い目で見られているのは分かっている。

陰口の対象になっているのは知っている。

馬鹿で品の無い男だと男子は思っているだろうが、俺はそれで良い。


最初は、死にたくなるほど辛かったけれど。

今は――“彼女”のおかげで、クラスの女の子と仲良くなってからは大丈夫になった。



「……ほんと、キミは周りの男の子と違うんだね」



呟かれた、硝子ガラスの様に綺麗な声。


サングラス。

その奥に見える彼の目が、どこか暗く見えたから。



「来い」

「ひゃっ!?」

「女の子と言えば――第一弾!」



駅前。

少し歩いて、現地点はセンター街。


ゲーセンに到着。

そしてその中にある――薄い布で仕切られたその場所に潜る。

R-18コーナーじゃないよ。



《スクール・オブ・ザ・デッド2》



薄暗く、赤いライトが照らすその中。

二人分の座席の真ん中には、ごつくてクールなマグナムリボルバーが二つ差し込んである。


そして大きな目の前、そのタイトルをゾンビ達が支えている画面。かわいいね。時給いくら?


まあアレだ。

ゲーセンに一台はあるガンシューティング。



「な、なにここ?」

「女の子は大体コレ好きだからな。はい銃」

「銃!?」

「スタートするぞ」



――チャリンチャリン



『グオオォ……』

「わあああああ!?」



画面が変わり、襲い掛かってくるゾンビども。


なんというか、ここまで反応が良いと嬉しいもんだね。


高橋とかはもはやスコアしか見てないからな。

一人で二人分のコイン入れて二丁拳銃! とかしてる姿はもはや芸術だ。



「このままではやられてしまうぞ(棒)」

「うう――え、えい!」



――ドパンッ



『オ゛ッ(絶命)』

「な、nice shot……」


「やったぁ!」



どうやらアイドルになると、ヘッドショットも容易いらしい。


いつもファンを撃ち抜いてるからね(←は?)。



『オ゛ッ』

『オ゛ッ』

『オ゛ッ』


「きゃー☆」

「えぇ……」



にしてもうますぎだろ。

楽しそうにマグナム弾をぶっ放すアイドル。コアなファンは喜びそう。


あとこのゾンビ、ヘッショの時のやられ声なんとかならない?

狐女を思い出すね。下品ですよ! 





「あー楽しかったぁ……!」

「そりゃ何より」



ラスボス殺戮機械の初見殺し(弱点を教えてくれない)には苦労してたけど、それでも3クレでクリアは凄い。


途中からサングラス外す程の本気っぷりだった。

楽しんでくれて嬉しいよ。



「女の子といえば第二弾」

「なにかな」ワクワク

「次はこれだ」

「こ、コックピット……!? わぁすごいすごい!」



二足歩行ロボットに乗って襲い掛かる敵を倒す系。

だが、この筐体きょうたいは中々のハイテク。


ドーム状に広がる液晶。なんとほぼ360度ゲーム画面。

そしてレバーにトリガー、大量のボタン……“女の子”が好きな要素をぶち込んだコントローラー。


その代わりワンプレイ300円だ。二人用の協力プレイだと600円! 高いけどその価値はある。

田中はこれで先月の小遣い半分使ったらしい。恐ろしや!



「銃が行けるならロボも行けるだろ(適当)」

「がんばる!」

「うんうん頑張れ。名前は……」



《ようこそカナ=タン。敵を殲滅してください》



「がんばるぞー!!」



本当に楽しげに、彼は意気揚々とそこに座る。

この世界に来て、同性とこういう風に遊ぶことになるとは思わなかったな。



「かなたには右を任せる」

「任せろぉー!」



《右腕10%損傷》



「あ」

「あ」



と思ったら、右側から飛んできたミサイルが被弾。ガチ凹みする彼。


……本当に男とは思えない。

って、それを言ったら俺もか。



「行くぞ“相棒”。死なけりゃ安い!」

「! うん!」



思い出すのは前の世界。

久し振りに楽しく同性と遊べるんだ。


だったら、アイドル相手だって関係ない――



――ボカン!


《損傷率30%損傷》


「うおっ」

「きゃっ!」



可愛らしい悲鳴。

筐体が揺れ、かなたが俺に身体を預けてくる。



「わ、わぁ。ごめんね?」

「……大丈夫っす」



上目遣い、女を狂わすその瞳。


うん。

やっぱり“男らしい”な!

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