アイドルの頼みは断れない



「……佐藤くん!」

「 」



で、なんでこっち着いてきてんだよあのアイドルくんは?

自分で言うのもアレだけど、俺と話すだけで清楚ポイントが急落するぞ?


こっちは今からトイレなんだよ。


……ちなみにこっちの世界には小便器はない。最初は間違えたと思って死ぬほど焦ったよね。

今でも寝ぼけてたら、入ってからガチ焦りする。不審者かな。残念ビッチです。

あとトイレ内で化粧すんな!!! (魂の叫び)。



「……ねえねえ、無視しないでよ」

「なんでしょうか」


「なんで敬語!?」

「いや、人生経験百倍ぐらいありそうだし」

「な、なにそれぇ……ボク困っちゃうな☆」



語尾にホシ飛んでますよ。

アイドルって大変だな、こんなときすら愛嬌振りまくらないとダメなんだ。



「そういやボタンは紀元前4000年前から存在して古代エジプトの護符として用いられ花やスカラベといった階級を示す装飾品として使われてたってさ」

「へぇ、凄い物知りだね!」キラキラ



委員長直伝……良く分からん豆知識にも満面の笑みで対応。



「ピーっという発信音の後にご要件をどうぞ」

「留守電みたいになってるよぉ!」

「すげー(感動)」



クッソつまらん無茶ぶりのボケにも完璧にツッコミ。

営業? とかしてるからか、こういうのも得意なんだろうな。


アイドルって凄い!



「もー!」ポカポカ



あ、あざとすぎる。

この全く痛くない殴打も、そのアイドルスキルの一種なんだろう。


俺には一生無理だ。

もはや違う生き物とすら思えてくる。



「で、なに?」

「お昼休み空いてる……?」

「屋上で昼寝のよて」

「……」ジトー

「わ、分かったから」

「わーい!」



やりにくい。

これが人生経験の差か?


――「見てよあれ」「かなたんの横に居るの誰?」「かなたん可愛すぎ」――


そして、周りの視線もきつい。

こういうの苦手なんだよ昔っから。

アイドルに話しかけられる自分スゲーみたいな考えは出来ない。


……それが出来たら、どれだけ幸せだっただろうか。



「行った行った」

「約束だからね!」

「あぁ……」



月曜日から散々な滑り出し。



「あっ」



週明けの宿題持って来るの忘れた。

というかやるの忘れた。


本当に、散々な滑り出しである。





「うまっこれ。リピ確定」

「お昼ごはんに、ぽてち……? 不健康……」

「んだとコラ(不良)」

「ひゃっ!?」

「ごめんごめん。最近マイブームなのこのツッコミ」

「びっくりしちゃったじゃん!」ポカポカ

「……マジで痛くねぇ……」



屋上。

田中達には適当に言い訳をして、昼飯を食わずに屋上へ。


アイドルの頼みだ。

正直面倒だけど、俺はこういうのを断れない性格らしい。


俺に話しかける男ってのが珍しいというのもある。



「そういやアイドルくんのご飯は?」

「ボク、お昼抜いてるんだ。ダイエット!」

「流石っすね……」

「ありがと☆」



それを噛み砕いて味わえば、ビーフとチーズの味と香りが口内を支配する。

遅れてくるポテトの食感も良い。



「いやマジで美味いわコレ。で、本題は?」



大当たりだなコレは。

そんな風に喜んでいたら――



「――君にしか、頼めない事があるんです」



その考えが消し飛んだ。


屋上。

チーズバーガー味ポテトチップス(昼飯)の手が、その声で止まる。



「き、聞いてる?」

「……」

「……ごめんね。やっぱり迷惑だったよね」



それはアイドルらしく、演技が掛かったものではない。

なぜ俺なのか。


分からないけれど――彼の表情は、本当に助けを求めている。

これが演技であったなら、『吾妻かなた』は名役者になれるだろう。



「先走り過ぎ。まず何をしてほしいか言ってくれ」

「!」

「それを聞いてから判断させろ」

「……うん」



さて、鬼が出るか蛇が出るか。



「ボクと放課後、遊んでくれませんか!」

「は?」



で。

そんな警戒が嘘みたいと思える程に、それは軽いモノだった。



「だ、だめかな……」

「……今日?」


「うん。今日はマネさんに仕事むりやり――じゃない、お休みだから!」



無理矢理なにしたの? マネージャーに脅迫?

怖すぎて続き聞けねーんだけど!



「あー……分かった。バイトも無いし構わない」

「! ほんと!?」

「うんうん」

「やったー☆」



そう言ってやれば、花が咲いた様な笑顔。

この笑顔を、ぜひとも委員長達に見せてやりたいもんだね。



「それじゃ、放課後に」







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