いまだに慣れず、逆転世界



「行ってきまー」

「い、いってらっしゃい」



翌日。

なんかよそよそしい、あかりに手を振りなんちゃって都会へ。


……今日の彼女は、ちょっとおかしかった。


《――「タグ見えてるな」――》

《――「あっ!!」――》


シャツの向き逆だし。


《――「ああっ!!」――》

《――「うん、イタリアンだね」――》


朝食の鮭とみそ汁と白ご飯をフォークで食いだすし。


《――「こ、これ麦茶だ……」――》

《――「塩分減量ってレベルじゃねえ!」――》


しまいには昼ご飯のそうめんを麦茶に付けて食いだす始末。


ボロボロである。なんかあった? 

そう聞いたけど、はぐらかされた。残念。

やはりまだまだ兄として信頼度が足らないみたいだ。

そもそも、未だに両親と彼女の事を家族と思えてない時点でアレなんだけど。


ほんとおかしいよこの世界。

狂ってる? それ褒め言葉――にはならない。さっさと帰せ。



「……ま、無理だろうけど」



最近は少しだけ、気持ちの整理が出来て来た。

これもきっと、あかりのおかげだ。


どれだけおかしい世界でも……“居場所”があるだけで、少しづつだが居ようと思えるようになった。


部活も男友達も両親も。

その記憶に、蓋をするのも慣れてきて。

人間とは慣れる生き物。ヒューマンすげー!



「(絶句)」



そして、今来るはなんちゃって都会in男服エリア。


何百種類あんのってぐらいの男の下着。

フリフリレースのトランクスパンツに、重い衝撃を食らったところである。



「やっぱ慣れねー、逆転世界……」





自分で言うのもアレだが、旧佐藤空と比べ劇的に生活習慣が良くなった。

この世界に来てそんなに立っていないが、結構贅肉も落ちて来たと思う。


病院食が不味かったのもあるけどね。ごめんなさい。メッ


そんなわけで、水着のサイズも結構変わってた。

危なかったね。この世界、ラッキースケベも男が食らうもんだからな。

水着が脱げてどっか行くとか!



「買った買った、頑張った俺」



地獄からい出て、外の空気を吸いながら歩く。



《――「何かお探しですか?」――》



慣れないから右往左往してたら、店員さんがスススっとこっちに来て。

やたらめったら可愛い系のピンク水着をお勧めしてくるから、拒否するのに必死だったよ。


大人っぽい、カッコいいヤツでって言ったらそっちに舵切かじきってくれたけど。


ピンクとは真逆の真っ黒系水着。

クールだね! 地味だね!

こういうので良いんだよ。



「……♪」



逆転世界の洗礼を浴びたので、“変わらない”モノに触れたくなった。


辿り着いたは女の子の花園。


そう、格ゲーである。おかしいだろ。

やっぱり実は美味しいパスタとか出てこない?


でもこのコントローラーには古郷こきょうのかほりを感じる。サイコー。



《対戦相手が見つかりました》

《キャラクターを選択して下さい》


《FIGHT!》



「……」ガコガコ



いつも通り、ハイレグキックで突っ込んで小パン小足で追い詰める。


溜まらず下がった相手キャラ。

壁際までもつれ込ませたら勝ちパターン。


あとはひたすら、相手に上段と下段、投げの選択を押し付ける。

楽しー!



《YOU WIN》



「……(感動)」



今さっきまで、俺は完全にハイレグイケメンと一体化していた。


あー気持ちいい、これこそが格ゲーだ。

プロゲーマー目指そうかな。無理に決まってんだろバカ。


そもそもこれは趣味だから楽しい。

やめよう、数少ない娯楽なんだから。



《FIGHT!》



さあ次の戦いへ。

パパ今日も十連勝行っちゃうぞ!



――「あっ」



「……っ」ガコガコ



《YOU WIN》



「……ふぅ」


「――あ、あの。お話がありまして……」

「うわっ!? え、優香?」



そして、二勝目を飾った後すぐ。

現れたのは――暗い顔をする優香の姿だった。


うん。ゲームどころじゃないな!

直立不動のハイレグイケメン。ボッコボコ。


……ごめん!





「ごめんなさい……」

「ま、口が滑ったのは仕方ない」



そして現在は喫茶店。

彼女が奢らせてくださいって言うから奢ってもらった。


たっかいたっかいメロンソーダ(500円)をすすりながら、話を聞いて。



「話す気なんて無かったんです……」

「ま、口が滑ったのは仕方ない」


「その……“処女同盟”の飲み会中に勘づかれて、酒入れられまくって、一昨日の夜の事を……話してしまって」

「ま、口が滑ったのは仕方ない(慰めbot)」


「ダメ元でも良いから、佐藤さんに“私達も”って頼む様に頼み込まれ……」

「……」



めちゃくちゃ申し訳なさそうに言う彼女。というか敬語! 俺高1!


ああ、なんというか。似ているんだ。

“世界”も、“性別”も逆だけれど。


記憶の蓋。

それをほんの少し開ければ――



《――「誰でも良いんだよ、最低だよな? こんな事言ってるから童貞なんだよって」――》


《――「ビッチのお姉さんでも全然OK! むしろ土下座してでも頼みたい!!」――》


《――「まあ俺なんて結局、死ぬまで童貞なんだろうけど……」――》



あの時の、諦めた様に笑う男友達が霞んだ。


この世界では、そんな風に思うのは女の子の方なのかもしれない。



「良いよ」

「えっっっ!?」



だから俺は頷いた。

“初めて”を奪うのは、未だに抵抗もあるしやりたくないけど。


ここまで必死な――女の子の頼み。

断れない。

それを強く望んでいるのなら、もう良いか。



「今からなら大丈夫だけど」

「えっ。あ、え、多分今日はアイツら空いてます。多分二人とも、一緒に家でゲーム中……」

「了解。ちょうど良いね」


「あの、一人は結構デブなんですけど……」

「別にそんなんでダメとか言わないって」

「!」



さっきまであった綺麗な液体は、嘘みたいに無くなってしまった。


そんな――からになったグラスを置いて席を立つ。



「あっ」

「はい?」

「その前に、寄りたいところあるんだけど――」







《ここより先 18禁コーナー》



「」ソワソワ

「っし(16歳、余裕の入場)」



寄りたいところ。

そう、信奈書店である。


前の世界じゃたまに友達と遊びに行ってたそこ。

アダルトグッズ。使うわけもないそれらを買って帰った思い出がある。


あんま思い出すと辛いけど。

今回ばかりは、実用的な意味でココに来ました。



「おーあった。コレだよコレ」

「えっ」



普通の薬局じゃ、あんまり売ってない。

それが男性用の避妊具。

姿形は前の世界と変わらない……安心する!



「ローションは……これ良いね、個包装」

「コンビニでついてくるケチャップみたいですね……」

「確かに似てる」



なんか温かくなるローションもカゴに。

科学の進歩は凄い!



「……というか! 避妊具は女側が着けるもんですよ。悪いです!」

「そうだけど。優香、付ける時めちゃくちゃ手間取ってたじゃん」

「」



思い出す、前の光景。


あの時は結局、梨香りかさんに手伝ってもらってた。

理性は飛んでも、避妊だけはしなくてはダメだと脳裏にあったらしい。


彼女がそれを着けるまで、我慢してた記憶がある。



「俺、慣れてるから」

「!!」

「前は無かったからそっちに着けてもらったけど」

「さ、流石です」

「ビッチだからね(この前まで童貞)」



中学の時、相手が居ないのに着ける練習してたから。

友達が卒業したって聞いて、俺も俺もってね。

当然そのまま童貞だったけど(悲壮感)。


……こんな記憶は要らない!


爪を立てずに。裏表をしっかり確認するのがコツ。

昔の俺に感謝! 役に立ってるぞ!



「でもローションは……」

「女の子の体質によってはあった方が良いから(ネットで調べた浅知恵)」

「そ、そこまでします?」



不思議そうに彼女は首をかしげる。



「もし嫌な“初めて”だったら、その後もそれを引きずるでしょ」

「え。それは、まあ……」

「今日が終わって、未来に誰かと結ばれて。当然その先は“これ”があるわけで」

「……あるかなぁ」

「ははっ。あるって」



避妊具を手に取りながら彼女に話す。

もうちょっと皆自信持とう! 俺は持たないけど!



「その時に痛かったとか苦しかったとかいう記憶があったら、身体にストップが掛かるから。多分」

「……うーん」

「嫌なんだよ。俺はそれが」

「……?」

「ビッチなりに思うところはあるってこと。んじゃ買ってくる」



納得出来なさそうな彼女。

それを背に、レジへ向かった。


……この世界的には、それが正常な反応だと思う。

でもそれに慣れるつもりもないし、慣れたくもない。


“初めて”を奪うという事も――その責任にも。

たとえ、ここが逆転世界であってもね。



「商品お預かりします~。紙袋の包装はいたしますか?」

「いや大丈夫です。“すぐ使うんで”」

「ッッッ!! かっかしこまりました……600円になります」

「これでお願いします」



一瞬だけ固まる店員さん。

なんかあったのかな。



「……ふーん。エッチじゃん……」

「いま何か言いました?」

「いえ何も。こちらレシートになります、ありがとうございました〜」



何か小声で言ってた気がするけど!


中々変わった店員さんだ。個性的で素敵だね。

鞄にそれを突っ込んで、俺はレジから退散。



「……うーん」



水着にローション、コンドーム。

中々にこの並びはヤバい。




「お待たせ――って」

「……」ズビ



で。

なんで優香は鼻血出してんだよ。

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貞操逆転、女子高校前、コンビニバイト。 aaa168(スリーエー) @aaa168

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