「好きにしなよ」



《次は●×駅、●×駅》



翌日はバイト休み。

学校終わり、今日は女友達と遊ぶことなくまっすぐ帰る。

同性友達なんて居ないから(悲壮ひそう)。


電車で約30分。

クラスメイト、更には同じ制服の子達も家付近には居ない。

だからこそ……俺はビッチをやれている。


あんな事、バレたら学校には居られないからな。



「何しよ」



家の最寄り駅に到着。


借りていた本も読んでしまった。

宿題は全部やった。

こういう時、部活とかやってたら違うんだろうな。


ってわけで……家に戻らずそのまま散歩。

ジジイか俺は。でも楽しいから仕方ないね。



《――「な、なんでもねぇ」――》



あ。そうだ。

昨日あいつこの時間ぐらいに仁王立ちしてたな。


居たら適当に雑談吹っ掛けよう。

女の子と話すのは好きだ。

そしてアイツは、真っ直ぐで話してて楽しいんだよな。



「……」



いやよく考えろ。逆に居たら怖いぞ。

コンビニ前で入らずにひたすら仁王立ち。


……まあ、流石に居ないだろう――







「いやなんで居んの?」



もはや最近の口癖かよってぐらいになってきた。

しかしこの状況は、それが出ても仕方ない!



「何やってんだアイツ……!」



走ってそこに行く。


なんせ彼女はコンビニの“中”に居て、何やら店長と話しているのだ。


高速でバイブレーションしながら口を開く店長、めちゃくちゃビビってる。

あれで発電出来そう。



「!」

「佐藤君!?」


「あーこんちは。散歩してたら気になっちゃって来ちゃいました。その子知り合いなんで」


「そうだったんだ! えっとね、ここで働きたいってこの子が言ってくれて。ただ今足りちゃってるから……」

「なるほど。お前バイト探してたの」


「……まぁ」

「だったらこの辺り募集結構あるぞ? なんならコンビニってココ以外にもあるし」


「…………」

「……?」



なんか黙っちゃった。

まあ良いか、数少ない客がこっちを見てる。


早く出よう。



「店長、カラアゲちゃん二つ買います」

「え。うん! 250円になります!」

「あざます」



入ったついでにホットスナックで売上に貢献。



「おい行くぞ。これ以上迷惑かけなさんな」

「あッ」



そして彼女の腕を掴んで店から出る。

……結構筋肉あるな!





コンビニ前。

駐車場の影で、俺はそれをつまむ。


多分店長が揚げたやつ。うまいうまい。



「あげる。あっ買い食い禁止?」

「……」


「アレルギー?」

「違う……」


「なら食え。結局ノーマルが一番美味い」

「……」



キメ顔の鳥のパッケージの中には、小さい唐揚げが5個ほど入っている。


それを爪楊枝で刺して――



「ほら」

「!?」


「美味いだろ?」



一向に口に入れないのでそのまま彼女の口に持っていった。

キスの時といい、案外隙だらけだ。



「……」バクバク

「唐揚げ好きなのね……」



コイツめっちゃ食うな!

いや、良いんだけど。



「どうしたよ、急にバイトなんて」


「別に良いだろ」

「そんなに俺と居たかった?」


「なッ」

「分かりやすいんだよお前は。理由は知らねーけどな」



あんな風に待ってた時点で分かる。

そして俺のいるコンビニで働きたいとか言うし。



「……」

「ん?」


「……てめえだけだったから」

「何が?」


「あの時、アタシに怒ってくれたのが」



手を握りしめそう言う。

それだけで、彼女の心境が読み取れた気がした。


……彼女の家族関係は分からない。

でも、良いものではないだろう。


小晴もそうだったが、逆転したこの世界の子供は片親が多い。


子を産む女性がメインで働くこの世界じゃ――前の世界より“子育て”への理解が深い。『育休』、『産休』、夏と冬に『子供休暇』なんてものもある。


それ自体は良いことなんだけど、そのせいか“父親”が居なくても頑張れば育てられる様になっている。もちろん“逆”も然り。

だから多分、彼女の様な境遇が多いんだよな。



「キスしたかったからじゃないんだ」

「ッ!?」

「それもあると」

「ちげーよ!」


「冗談冗談。お前名前は?」

「! ……と、東瀬とうせ あい


「愛ちゃんね。了解」

「その呼び方やめろ!!」

「ははは、せっかく可愛い名前なのに。俺は佐藤空。よろしこ」



中身の無くなったカラアゲちゃんをゴミ箱に捨てて、彼女に向き直る。



「そんな可愛い名前のヤツが、なんでタバコなんて吸おうとしたよ」

「……貰ったんだ」

「まさか、そのローズガーデンからか」

「ああ」

「タダで? はっ、随分と優しいんだな」

「……次からは2000円だ」

「えぇ……」



何だそれ。

まるで質の悪いサブスクだぞ。


最初は無料で、後から金をむしり取る。



「聞いてた話と違うな。なんか怪しいねそのグループ」

「……」

「分かってるんだな」

「知らねぇ。でももうアタシには……そこしかないんだ」



嘆く様に話す彼女。

その横顔は弱々しい。


それはきっと、“家”にも“学校”にも――



「なあ東瀬」

「んだよ」


「ウチ来る?」





「知らない男の家に、ホイホイ付いて行ったら危ないぞ〜」

「誘った方がそれ言うのかよ」

「そりゃな。少なくとも俺は良い男じゃない」

「んだよそれ」

「お菓子あげようか?」

「不審者かテメエは……」



あの問いに頷いた彼女を連れて、いざ我が家へ。


慣れ親しんだこの道は、人通りが少ないところをわざと通っている。

連れ帰る女の子が、知り合いに見つかって恥ずかしい目にあわないように。


――ガチャ



「どーぞ、おかまいなく」

「あ、ああ……」



キョロキョロしながら入る彼女。


ヤンキーのわりに靴は揃える。

なんだお前(感心)。


いかんいかんまた不良が猫助け現象が。

これは人類の課題にすべき。



「俺、ひとり暮らしだから」

「……え」

「言ったろ。俺は“良い男”じゃないって」

「!」



ベッドに腰掛け、上着を脱ぐ。

きしんでギィっと音が鳴って。



「何する? 色々あるよ。ボードゲームとかテレビゲームとか――」

「――テメエ。無防備過ぎんだよ」



チャラけてそう言えば、身体が押し倒された。

彼女が俺に覆い被さる。



「うおっ」

「こうされたら、どうするつもりなんだ」



震えるその手。しかしながら荒い息。


欲している。

彼女は、その温もりを。



「どうするも何も、逃げられないけど」

「ッ……良いんだな?」



お互いの熱が、触れてないのに伝わっていく。



「それは俺のセリフだ」

「!」



真っ直ぐに。

彼女の瞳を見つめて言う。



「こんなビッチに捨てていいなら――」



“今は昼間じゃない”。

キスだけなんかじゃ終わらない。


夜はまだ、始まったばかり。




「好きにしなよ」




お前の本当の姿を、優しく引き出してやる。


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