ヤンキーモドキ


「…………」

「おーい、生きてるかー?」


「…………」

「死んだ?」


「…………」

「最後の方は甘えてばっかだったね」

「あぁ!?」

「起きた。おはよ」



時刻は真夜中。

溜まっていた何かを吐き出させるよう、念入りに彼女との“行為”にはげんだ。


優しく優しく、前から最後まで。

包み込むように。

そうすれば、次第に彼女は“素”を出してくる。



「……るせえ」

「そろそろ離れてくれない」

「っ」



あれから彼女はずっと俺にくっついたままだ。

長い間、失っていた温もりを求める様に。


この世界じゃ普通は逆の風景。

……俺が甘える姿とか、想像しただけで吐きそうです。自分には厳しく行こう!



「って痛たたたた! 離れないから強めないで」

「あ……スマン」


「どしたん話聞こうか?」

「なんか気味悪い。やめろそれ」



どうやら全身下心人間の台詞はこっちの世界でも不快らしい。興味深い。

貞操逆転学会に提出するか。そんなもんないけど。



「ほら」

「……ッ」


「良い子だ」

「……」



行為中は、ずっと抱き締めていた。

そして彼女の目もそれを求めていた。

だからこそ分かるんだ。


寂しかったんだろう。

そしてまた、この世界で言う“父性”に飢えていること。


だから今もずっと、ハグを受け入れている。

あんなにトゲトゲしかった彼女の面影は――



「……痛たたた!」

「す、すまん」


「そんなんじゃ男に嫌われるぞ……」

「う」



抱き締める強さ、なんとかなりませんかね。

この世界の女の子は大体が男より力強いからな。



「でも結構筋肉ついてんな。なんかスポーツとかやってるの?」

「……やってねえ。けど、筋トレと喧嘩のイメトレはやってる」


「イメトレて。どんなの?」

「部屋の電気の紐を揺らして避けたり……」


「まじか……」

「わ、悪いかよ。これもヤンキー漫画で見たんだよ」



こっちの世界でもそういうのあるんだ。

登場人物は大体女の子だろうけど!



「悪くないって。ただ、現実には綺麗なヤンキーグループはほとんど居ないからな」

「……分かってんだよそんなの。でもローズガーデンは、一人だったアタシを誘ってくれた」


「クラスの友達とかは……(小声)」

「居るように見えるか?」

「こ、工業化なら同じようなのいそうだけど」

「普通科だよアタシは」

「えっ」

「……悪いか?」

「そうは言ってないけど。先入観って怖いね」



最初のトゲトゲしさはどこへやら、彼女はスラスラと俺に話す。


で驚愕。まさかの普通科。

……じゃあ結構知ってる奴居るな。



「孤立してたアタシを、ローズガーデンの先輩は誘ってくれた。だから入った……それで渡されたんだ、タバコとライターを」

「……それで?」


「“これを吸ったら仲間だ”って。だから人目が少ない時間狙って、学校サボって……」

「吸ったら仲間ねぇ。そこで俺が邪魔したと」

「ああ」

「そりゃ悪かったな」

「……嘘付いちまったんだ」

「え」

「“吸った”って。吸ってないって言いかけたら、雰囲気変わって……嫌でもそう言わなきゃいけない雰囲気で」

「お前まさか」

「払ったよ。もう一箱、二千円……でも、これで仲間だって言ってくれた」



2000円。

この世界、前の世界より大分タバコ安いのに。ワンコインぐらいだ。


ただの金蔓かねづる――そう言わずとも、きっと彼女は分かってる。



「仲間仲間って。実際今お前は一人だろ」

「……でも、次の“集会”にはアタシは参加する」


「集会?」

「ああ。ローズガーデン全員が集まって、アタシ含めた新入りの紹介をしてくれるらしい」


「……うわぁ」

「原付乗って、廃ビルに向かって……新入りの紹介した後に一年最強を決める」



すげーな。ホントにそんな事やるんだ。



「その原付も、準備してくれるって」

「は? お前らも乗るの? 持ってんの」

「……そこはOGがやってる店があるからなんとかなる。その日レンタルで一万円……」

「いや免許」

「そんなもん要らない……って」

「めちゃくちゃ過ぎだろ」



ローズガーデンとやらの頭が悪すぎてイライラする。

前の世界より治安が悪いとはいえ、ここまで酷いのは中々ない。



「分かってんだ、それが普通じゃない事なんて。漫画と現実は違う、嫌でも分かる。でも周りはそれが当然みたいな顔して。断れなくて」

「……」


「ずっと一人で、寂しくて……親父もアタシを怖がって話してくれないし、クラスメイトもアタシを避けるし、もう、アタシにはローズガーデンしか無いと思って……」



ベッドの上。

俺の胸に茶髪の頭を埋めながら。



「……だから、佐藤が……佐藤に、会いたくて。“おかしい”って言ってくれる佐藤に……アタシは――」



胸の中に現れた言葉を、ひたすら吐き出す彼女。


複雑な家庭。

馴染めないクラス。

世界からの孤立。


そして、彼女はその場所に辿り着いてしまった。



「――ああ。“おかしい”よ、全部」



だからそう言ってやる。


育った環境、ちょっと怖い見た目にその性格。

それが不幸にも、周りの目からは“不良”、“ヤンキー”に見えてしまった。事実俺もそうだ。


そしてまた、その目に晒された事で彼女は思い込む。自分は、“普通”ではないのだと。



でも、俺にはもう――そうは見えない。



「見た目とか周りとか関係ない。東瀬は“不良”じゃない、“普通”の女の子だ」

「!」

「少なくとも、俺はそう思うね」



東瀬愛の、本当の姿はソレだ。

あえて言うならヤンキーモドキ。



「とりあえず友達になろうか」

「……ぇ?」


「あ、セフレって意味じゃないよ」

「セッ……!?」


「ヤンキー風に言うなら“ダチ”だ」

「……あ。アタシで良いなら……」



俺の胸に、埋めたままで顔は見えないが。


遠い遠い回り道。

けれどようやく、彼女は素直になってくれた。



「よろしくな、東瀬」



甘えたがりで恥ずかしがりで、素直になれないヤンキーモドキ。


属性盛りすぎ。

でもきっと友達として、面白いやつに違いない。



「あ痛たたたたた」

「ぁ、スマン……」



ハグされる度、背中の骨が折れそうだけど!!

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