ターゲット


「よお」

「てめぇ分かってんだろうな?」


「……仕事終わりの1杯って時に……」


「「んだとコラ」」

「出た!」

「「出たってなんだよコラ!」



これだったらあの茶髪ヤンキーが居た方が良かった。

女の子といえど、厄介客二人の相手なんて時給が発生しない以上したくない。


変に構ったら時間かかりそう。

どうしよう。逃げよう(即決)。

帰ります!


最強の護身術は、この足を使う事だ。



「あっおまっ」

「待てよ!」


「待てと言われて待つアホがいるか」



そのまま走って距離を取って。



「「ぜぇ……ぜぇ……」」



コンビニの敷地周りをぐるぐるランニングすれば、勝手に疲れ果て止まった。

これでも女の子に体力で負けないよう、日々鍛錬している。


ここは逆転世界。身体能力も基本、男が下だから。

それでも息切れ早いね。もしかしてタバコか?


息の匂いもちょっと……アレだったから。多分そう。



「じゃ」


「く、そ。待て——」

「あたいらはロ——」



何か言ってるが、無視して走り去る。

おかげで良いランニングが出来たな!


今日はよく眠れそうだ――



「――ん?」



おいちょっと待て。

ロ? ロ……なんて言った?


なんか聞き覚えのある頭文字だな。

気になる。

どうしよう。戻ろう(即決)。



「よう」


「「うわあああああ!?」」



地面でへばっている彼女達に向けてUターンしたら、叫び声を上げる。


なんで?



「お前らさっきなんて言ってた?」


「はっ、はっ……こえ、でねぇよ……」

「うっ、気持ちわりぃ……」


「……はぁ……」


「てめぇ、覚えてろ……」

「クソが……ッ」



せっかくお望み通り戻ってきてやったのに。

なんで逃げようとすんの?



「まあ待てって」


「「あああああ!?」」



走って彼女の肩に手を置いてやればまた叫ぶ。


さっきはあっちが俺を追いかけて来たが、今度は逆だ。


……どうでも良いけど、恋愛は“追いかける”方が好きなんで。



「楽しくなってきたな」


「はぁッ、はぁッ……」

「あたい、達が、悪かったから……ッ」



夜道、ヘロヘロの彼女達を追いかける。


久しぶりだ。

こうやって女の子を追うのは。


前の世界じゃ、これが普通だった。

好きな子の気を引くために走り続けた。

それが叶う事は無かったけれど、どこか充実していた様に思える――



「あ」


「も、むり……」

「しぬ……」



とか感傷に浸ってたら、目の前でダウンする彼女達。

やば。やり過ぎた?



「ほら、飲め」


「……うぅ」

「何なんだよオメーは……」



自販機で二人分のスポドリを買って、彼女に渡す。


厄介客といえど女の子には変わらない。

このまま水分orミネラル不足で倒れられると困るんでね。



「さて。じゃ、今度こそ教えてもらおうか」


「だ、だから……」

「あ、あれか? あたいらがロ――」



息が整うのを待って、彼女達に問う。

ようやく、この喉に小骨が刺さったような突っ掛かりが――



「――なんや、お前らどうしたんや?」



取れる。

そう思った時、遮る様に現れた。


特徴的な喋り方の女の子。



「か、かなうさん!」

「う、うっス!」



そして、その人物が見えた瞬間頭を下げる二人。

その行動で……上下関係が見て取れた。



「そんな息切らして。この素敵な殿方とのがたと何してたんや?」

「「あ、えと……」」


「鬼ごっこしてたよ」

「かはは! そら楽しそうやな!!」

「あんたもやる?」

「遠慮しとくわ。私な、“追う”のも“追われる”のも嫌いやねん」


「……じゃあ。どういったものがお好みで?」



妖しく笑う彼女。例えるなら“狐”。




「足が動かんようにして、何もできんようにして。じっくり楽しみたいなぁ」




そして濃い香り。

とびっきりの、“煙”の匂いが。



「趣味悪いね」

「人の性癖はそれぞれやろ?」


「それは否定しない、でも不審者に襲われたくないから俺は帰るよ」

「かははは! 酷い人やな」



……たまに居るんだ。

この町には、こういうヤバい奴が。


出来るならもう会いたくないね。



「それじゃ」

「気を付けてな、夜道は危ないからなぁ」


「……そりゃどうも」



そう言い、ようやく俺は帰路につく。

ねっとりとした視線を背中に浴びながら。






「…………」


「「か、叶さん」」



夜道。

関西弁の彼女に、二人は怯えた様に声を掛ける。



「ふーッ。ええな。めっちゃええで、あのオトコ」

「「!!」」



煙草に火を付けて吹かす。

周りの視線など全く気にせず。


頬をほんの少し、赤らめながら。



「ローズガーデンに足りんもん、なんやと思う?」

「え、えと……」


「“紅一点オトコ”や。チームのトップの隣には、ああいうオトコが欲しい」

「!」


「そそるわぁ。“女勝り”で、私らみたいなんに動じてない。しかもあの色気やで、たまらんわ」



彼女は呟く。

その熱を吐き出す様、夜空に煙を吹かしながら。



「お前ら。あのオトコのことなんか知ってんのか」

「「え」」


「なんでもええ。高校がどことか、バイト先があれば――」


「せ、制服はどこのか知らないっすけど。バイト先はあのコンビニっす……」

「あ、あの、この先すぐにあるところで!」



二人は、知っている事を吐き出す。

そうすれば、彼女に気に入られるから。



「……そーか。じゃあ引き続き調べてーや、気付かれん程度にな」


「「!!」」



笑う叶。

その二人の手には、いつの間にか一万円が手渡されていて。



「頼むで?」


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