店内ではお静かに!
「いやなんで居んの?」
「居たら悪いか?」
愛明のヤンキーさんが一人。
学校から帰宅後、コンビニに意気揚々と出勤――しようとしたら、彼女がそこに居た。
相変わらず派手な茶髪を揺らして。
やっぱ漫画に影響されてるわアイツ。
髪が勝手になびかないからってちょっと自分で揺れてる。
「いや、店入らず前で仁王立ちしてたらさ。ちょっとお客さん入りにくいじゃん? 門番みたいで」
「バイトからしたら助かるんじゃねーの」
「“店からしたら”良い迷惑だ。どけどけ、今から俺出勤なの。楽しい労働の始まりだぁ!」
「……じゃあアタシも……」
「? なんかいった?」
「な、なんでもねぇ」
何だ今の沈黙。
あっやべ、店長がガラス越しにこっちをチラチラ見てる。
トラブルか何かだと勘違いしてる顔だな。
「じゃあな。帰って宿題でもしてろ」
俺は働かなければならぬ(固い意志)。
自動ガラス扉をくぐり抜けて、冷気と店長が俺を迎え入れる。
「佐藤君!」
「店長こんちはー」
「その、さっきの人は……」
「知り合い? みたいな。揉めてたわけじゃないですよ」
「! 良かったあ」
レジの奥のドアを開き、スタッフルームで制服を羽織る。
うん。気合入るね。
「おっ佐藤じゃん」
「北斗先輩こんちは。あがりですか?」
「おう! うちは客少ねぇし、この時間は佐藤と店長居たら余裕だし」
ポニーテールが素敵な彼女は、北斗先輩。
金髪でチャラくて、人当たりも良い大学生。
女性だが店長とは正反対だ。
この感じで接客が丁寧なのが良い。
惚れそう。
まだ出勤開始まで時間あるし、雑談でもするか。
「そういやなんでココって客少ないんですかね」
「……まあなんつーの? 昔は今以上に治安悪かったからな」
「え」
「うちの便所、客への貸し出しは基本不可だろ? 未だに」
「そういやそうっすね」
「万引きに“紙”の盗難に酔っ払いの貸切化。最悪な場合はクスリ……昔はそこで色々あったんだ。不良に不審者。多かったなーマジで」
「はえー」
「コンビニの便所は、その地域の治安が分かるってのは有名だな」
知らなかった。
引っ越しの時、やけに土地代が安かったのはそういうことか。
確かに酔っ払いに変人に不審者に、結構出会ってたな……。
ヤバいときも数回あったっけ。
不審者に、夜道で“男の弱点”を蹴られそうになった時もあった。怖いね。
流石に逃げて警察に言った。
聞けば“それ”への攻撃で気を失わせ、グヘヘする奴らも居るとか。考えただけでヒュン!
「今はここ以外にコンビニ建ってるし、警察のパトロールも増えて大分良くなったが……まだ良くないイメージなんだろうな」
「昔はそんな場所だと思いませんでしたね」
「あー……あと……一応だけどな? 昔居たんだぜ? 警察の代わりに見回りする様な連中が」
「え」
なんか急に顔を赤くする、北斗先輩。
んん? 何?
「ろ、ローズガーデン……あー、オレはあんま知らないけどな? 散歩がてら、町中の迷惑掛ける不良なり酔っ払いを懲らしめてた……みたいな」
「……」
「まあでも、この町はあいつらのおかげで多少はマシになってたんじゃね? オレはあんま知らないけどな?」
「良い人達ですね。名前はアレだけど」
「 」
なんで固まってんだよ先輩!
バレバレだよ先輩!
……まあでも、そうか。
なんか安心した。
“彼女”の入った、ローズガーデンとやらは良いヤンキーグループっぽいな。
「お疲れ様です、先輩。はいりますー」
「……おう! 店長あがるわー」
「あっお疲れ様北斗さん! 佐藤君よろしく!」
「はーい」
さて、ここから部活終わり&仕事終わリーマンのラッシュが始まる。
頑張るぞー!
☆
「しゃっせー」
「あ、あの。君、ヤらせてくれるって――」
「ちょっと今忙しい」
「ご、ごめんなさい!」
☆
「しゃせー」
「ねえ兄ちゃん、ちょっとちょっと」
「はい?」
「あんたでいうココ辺りが……その、かゆくてな、かゆみ止め塗って――」
「俺の背中触る必要ある? 触りたいだけだろ? おばさんセクハラで訴えるよ?」
「ひっ」
☆
「しゃっせー……」
「それでアイツ、結局ヤる前に男に振られたんだよ!」
「ぎゃはははは!」
「あっこのゴム買ってって渡そうぜ! 使い道ないだろうけど!」
「お前それはエグすぎ――」
「――すんませんけど、もうちょっと静かに出来ます?」
「あ? なんだお前」
「男がイキってんじゃねえよ」
「……はぁ……」
「ため息ついてんじゃねえ!」
「舐めてる? あたしらは――」
「高校に報告するぞ? あんたら全員愛明だろ」
「は、は?」
「言ったところで分かるわけ――」
「そこ監視カメラあるの分かる?」
「「!?」」
「二度目は無いんで。店内ではお静かに!」
☆
「疲れた…………」
「今日は嫌なお客さん多かったね……」
忙しいのに誘ってきた女の子。
まあこれは良い。実際ビッチだし。
ただ、あのセクハラババアはうざかった。
回りくどいのってイライラする。
アレだったら直接もう金〇でも触られた方がマシだ。いややっぱ怖いわ。
で、あのバカ騒ぎ愛明生徒は……次騒いだらマジで報告しよ。
塾帰りなのか、近くに小学生ぐらいの子たちが居たのが最悪だったよね。
なんで二回りも小さい子の方が静かに出来てるの? バカなの?
「うわっもう20時半か。早いなあ」
「ごめんねオーバーしちゃって……あがってあがって」
「了解っす。一人で大丈夫ですか?」
「もうお客さん来なくなるし平気だよ!」
「はーい。じゃ上がりますね、ああ逆エナドリ買っとこ……っし、おつでーす」
「佐藤君それ好きだよね。お疲れさま!」
誰も使ってないセルフレジを使ってそれを購入。
制服を脱いで、ささっと退店。
「ふー……」
面倒な客が多い日だった。
逆エナドリをぐいっと飲みながら、夜を眺める。
暗く静かな街の風景は、さっきまでの喧騒を沈めてくれるかの様に——
「——おい、てめえさっきの店員だろ」
「待ってたぜぇ」
そして掛かる声。
コンビニ、駐車場の影。
さっきのバカ二人がそこに座り込んでいて。
「いやなんで居んの……」
めんどくさい!
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